求む、仕事!
――野宿者に自立のチャンスを――
はじめに
野宿者(いわゆる「ホームレス」)は、一般に、就労意欲のない、社会からのオチコ
ボレだと思われています。しかし実際には、多くの野宿者は仕事の機会を求めていま
す。しかし野宿者が仕事を得るためには、非常に多くの困難があります。私たち「のじ
れん」(正式名称:渋谷・野宿者の生活と居住権をかちとる自由連合)は、野宿者とと
もに、野宿者の就労機会を開拓すべく、社会の理解と協力を求めています。
この文章は、なぜ野宿者が野宿者であるのかについての理解を深めてもらい、野宿者
の自立のための支援をお願いする目的で作成したものです。
野宿者とは
失業率4.6%、失業者300万余(99年5月)という戦後最悪の経済不況の結果、現在日
本には2万人の野宿者がいると言われています。そのうち、東京都下には都の公式調査
で4300人(98年)、「のじれん」が活動している渋谷区には500人近い野宿者が生活し
ています。
一口に野宿者と言っても、野宿に至る経緯は人それぞれですが、大きく分けて二つの
流れを見ることができます。野宿者の中で最も多いのは、40代後半から50代の中高年層
です。彼らの多くは日本の高度成長期に安価な労働力として都会に出て、長年建設現場
を転々としてきました。しかし、過酷な肉体労働に耐えられないと判断され、さらに近
年の不況に追い打ちをかけられることで、労働現場を逐われました。重層的な建設産業
の最下層で日本の高度成長を支えてきた下層労働者が現在使い捨ての状態に追い込まれ
ている。これが都会に溢れる野宿者たちの最も典型的なパターンです。
次に、現在は少数ながら今後の増加が大いに懸念される動きとして、若い野宿者の増
加があります。これは中高年層に比べて近年の不況の影響をより直接的に受けており、
大卒高卒の就職難が深刻化する中で、より低学歴層の若者たちが押し出される形で野宿
生活へと追い込まれ始めています。殊に渋谷では30代前半以下の若い野宿者が目立つよ
うになってきています。
つまり、野宿者問題は基本的に社会構造・経済構造の問題であり、本人の嗜好の問題
ではありません。もちろん、野宿生活に至るにはこうした問題にさらに家庭問題などが
絡む場合が多く見受けられますが、だからといって野宿者が人格的に「普通の人々」と
区別されるような特殊な人たちだというわけではありません。それは野宿者と親しく話
した経験を持つ人たちが、等しく認めるところです。
行政の対応
ではなぜ野宿者は生活保護を受けないのか、と問う人がいるかもしれません。「受け
ない」のではありません。「受けられない」のです。よく知られているように、憲法は
人々に「健康で文化的な最低限度の生活」を保障していますが(25条)、実際の窓口運
用では、事実上65歳以上の高齢、重度の疾病がないかぎり、「職がない」だけでは生活
保護が適用されないのが現状です。社会保障をなんとか切り詰めようという国の方針の
中で、野宿者が生活保護を受けることは容易なことではないのです。
仕事をしたいなら職業安定所に行けばいいじゃないか、と言われるかもしれません。
しかし、職業安定所では住所を持たない限り仕事を紹介してくれません。そのため、野
宿者の多くは「手配師」と呼ばれる非合法の斡旋業者を通じて建設現場等で日銭を得て
いますが、こうした就労ルートはしばしばきわめて劣悪な労働条件を野宿者に強いてお
り、タコ部屋・ピンハネといった一般的にはすでに過去のものと考えられている現象が
いまだに横行している有様です。
つまり、野宿者は労働行政と福祉行政の狭間に落ち込んだ存在なのです。一度野宿者
になると、そこからの脱却はきわめて難しいのが日本の現状です。
野宿者の望むこと
野宿者は、言うまでもなく、「普通の」「人間的な」生活を望んでいます。それは端
的に言って、屋根と寝床のある暮らしです。しかし、すでに述べたような理由から、一
足飛びにはそうした生活に手が届かないのが現状です。
そうした中、野宿者はせめて現在の生活状況を少しでもよくすることを願っていま
す。ファーストフードの残飯ではなく、白く暖かい飯が食いたい。体調が悪いときくら
いは、屋根のあるところで寝たい。たまにはタバコも吸いたい。
「のじれん」はこれまで炊き出しや病院への付添を行うことで野宿者の生命を支えつ
つ、野宿者問題への抜本的対策を求めて主に行政との交渉を繰り返してきましたが、今
年(99年)に入ってから、理解のある人々が野宿者に仕事を紹介してくれたこともあ
り、野宿者とともに、自分たち自身で仕事のルートを切り開いていこうと決めました。
こんな仕事をしてきました/探しています
とは言え、野宿者に仕事を与える、または野宿者とともに仕事をすることに対して
は、やはり抵抗があるかもしれません。そこで、今年に入ってから渋谷の野宿者たちが
どんな人たちのところで、どんな仕事をしてきたか、そのいくつかを簡単に紹介したい
と思います。
NGOによる海外への救援物資積み込み作業手伝い(1月)
ベイルートの難民キャンプに送るという救援物資(コンテナ一台分)の積み込みを他
のボランティアの方々と一緒に行いました。約3時間。労賃5人で22000円(交通費込
)。
市民団体事務所における軽作業手伝い(1月から毎週)
リサイクル活動などを行っている事務所で、回収した割り箸の箱詰め、物資の運搬、
清掃などの軽作業を行っています。約3時間。毎回2人。時給800円(交通費込)。
Y氏「まず野宿生活の人だからといって、特別なにも変わりはない、ということで
す。それでも、人それぞれ個性というか性格の違いはあり、本当に賃金をもらうための
仕事というとき、役に立つ人、立たない人はあると思います。そのへん、うまく組み合
わさった二人がくるものだ…といつも思っています。(中略)とにかく「のじれん」と
いう一つの窓口の下に集い会う人達が、そうした力というか能力や性格の(年齢も)違
いを乗り越えて、互いに助け合っていこうとする仲間意識が、わたしはとても素晴らし
いと思っています。(中略)ともかく、ちょっとしたお金とか仕事といったものがあれ
ば、それをきっかけにして、皆さんがワンステップ前進していけるなら、ぜひそのお手
伝いを微力ながらさせていただきたいと思っています」
社会福祉法人での作業手伝い(1月、4日間)
事業として行っているトイレットペーパーの出荷用箱詰め、トラックへの積み込みの
他、木材の運搬等を行いました。夜は作業所の空室に宿泊させていただきました。5
名。日給5000円(交通費込)。
担当A氏「のじれんの人たちと短い間でしたけど一緒に仕事をしてとても助かりまし
た。皆さんそれぞれの仕事を一生懸命やってくれて、その中でも助け合ってやっていた
ことを覚えています。(中略)働かない理由にはたくさんの問題がその人たちにあるの
だと思います。仕事があれば一生懸命やる人たちだと思います。提供して下さる方がい
るならば、ぜひ受け容れてあげて下さい。まわりからの偏見など気にせず受け容れて下
さい。一生懸命働いてくれるはずです」
山梨の農家で農作業の手伝い(3月、2日間。5月、4日間)
農家の方の指示にしたがって、農作業を手伝いました。夜は離れに泊めていただきま
した。2名。日給5000円。
農家H氏「今回初めてホームレスの人と会いました。私たちの感じでは、ホームレス
の人々は仕事が嫌いか、世の中が嫌になったのか、また哲学があり卓越した考えがある
のか、という様な風に見て居りました。でもYさんTさん達は、仕事がしたいのに仕事
がないとの事。今の時代、社会の変化等で質が違ってきたのかなとも思いました。(中
略)ただ単にその人達の仕事を見つけるだけで解決するとも思いませんが、私たち農業
に携わる者として、何が出来るかと(考えています)。(中略)先日のYさんTさん、
一日一緒に仕事をしただけですが、大変まじめな感じを受けました。農業そのものは難
しい仕事ではありませんので、皆さん社会で仕事をしてきた人達ですし、問題はありま
せんでした」
手作り弁当の販売(4月から)
市民団体の集会などで、自作の手作り弁当の販売を始めました。半月に一回程度のペ
ースで、おにぎり、炊き込み御飯、パンケーキ、それにジュースなどを販売していま
す。売れ行きはなかなか好調。調理師免許を持っている仲間などを中心に、普段の共同
炊事・炊き出しで鍛えた腕前を発揮しています。
その他にも、事務所の郵便物の封筒詰め作業など、野宿者が出向くのではなく、こち
らで受注する仕事なども大いに募集しています。渋谷には20代から60代までの野宿者が
いますので、力仕事でも軽作業でも、とにかく紹介していただければ大変助かります。
どうぞ、よろしくお願いします。
1999年6月
渋谷・野宿者の生活と居住権をかちとる自由連合
(のじれん)
150-0011 東京都渋谷区 東 1-27-8-202
TEL/FAX 03-3406-5254
郵便振替番号 00160-1-33429
E-mail: nojiren@jca.apc.org
http://www.jca.apc.org/nojukusha/nojiren/
*「のじれん」は、野宿者の生活改善と居住権の確立を求めて1998年4月に正式発足し
た、野宿者と支援者双方で構成する野宿者問題の当事者団体です。
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