渋谷区福祉事務所内における
野宿の仲間の不当逮捕に対する抗議の声明
私達、渋谷・野宿者の生活と居住権をかちとる自由連合(略称のじれん、以下のじれんと言う)は、渋谷区内で野宿者生活を余儀なくされている野宿者とその支援者が構成する当事者団体です。去る7月12日(月)、1人の野宿の仲間が、渋谷区福祉事務所内において警視庁渋谷警察署公安刑事により不当にも逮捕されました。私達は、このような事態に関与した渋谷警察署、渋谷区役所に対し、満腔の怒りをもって抗議すると同時に、その責任を厳しく追及するために、この抗議声明を発表します。
渋谷区内において現在500人近い仲間が野宿しており、彼、彼女たちをめぐる状況はますます深刻になってきています。特に夏に入ったこの時期、ダニ、シラミの発生や食中毒など、衛生環境は劣悪です。また苛酷な野宿生活で健康状態は悪化の一途をたどっており、5月には3人の仲間が死亡しています。これらの現状について福祉事務所をはじめとする渋谷区の対策は、全く立ち遅れています。私達は、数年来渋谷区に対して、病気の予防や就労のための多くの仲間がシャワーを定期的に利用できるように求めていますが、渋谷区は、現状の夜間温水装置のまま、一ヶ月に90人位を限度に、それも通入院と仕事の面接だけと使用を制限しています。また現在全国的に猛威をふるっている結核の検診など健康診断を無料で受ける機会は皆無です。私達は、夏の地獄の季節を前にして、シャワー設備の改善と健康診断などの街頭相談の実施を実現するために立ち上がったのです。
7月12日、渋谷の野宿の仲間20数人は、先週5日の話し合いの際の「来週までに検討し回答する」との約束に基づき、渋谷区役所の関係諸部局に出向きました。総務部経理課長と保険所予防課長がそれぞれの窓口で対応しましたが、最初から全くこの問題に関係ない総務課が課長を先頭に介入、妨害するという態度に出てきました。それのみならず、私達の行動を監視し、圧力を加えるために渋谷警察署警備課公安係所属の私服刑事の動員を要請していました。その2人(のちに3人)の刑事は、区役所内を行き来し、写真撮影や暴言など不当かつ不法な挑発行為を繰り返しました。その後、私達は福祉事務所に赴き、野宿者が仕事を探せて、通える施設=自立支援センターの早期開設について要望書を保護課長に提出し、毎週月曜に行っている福祉要請行動に戻りました。その際、総務部の介入や刑事の監視、恫喝について福祉事務所としての対応をめぐり、多少の押し問答はありましたが、さしたる「混乱」もなく、おそらくは私達の監視のためにその場にいた総務課長と同職員も引き上げました。しかし、その後も刑事達は、写真撮影等の兆発行為を繰り返し、午前10時半頃、福祉事務所内のトイレから出てきた仲間(以下Aさんという)の方に向かって、刑事のひとりが写真を撮影しました。Aさんはこの不当、不法な行為に抗議し、制止しようとしてその刑事に詰め寄りましたが、刑事は突然襟首を掴むやいなや、他の2名の刑事も加わって、Aさんを暴力的に押し倒し、福祉事務所の廊下からカウンターの中へ引きずり込みました。3名の刑事はその後も、「公務執行妨害の現行犯逮捕」と称し、福祉事務所の業務室の真っ只中で、Aさんの腕をねじ上げ、Aさんを床に押しつけるなどの暴行を繰り返し、11時、渋谷署に連行しました。その後Aさんは、警察の取り調べにおいて氏名、事実関係を明らかにしているにも関らず、検察によって拘留請求され、本来なら早期釈放のところ、現在もなお渋谷署内の代用監獄に囚われています。
そもそもかかる事態の発端は、公安刑事の全く法的根拠のない写真撮影です。こういった警察官による「情報収集」の濫用は、市民に対する肖像権の甚だしい侵害であり、国家賠償裁判においてもその違法性を指摘されています。それに対して抗議、制止しようとしたAさんの行為は、全く正当だったと言えましょう。また福祉事務所内でのこの事態が起こる前までに、総務課職員が通常業務に戻ったことからもわかりますように、「庁舎管理」云々と懸念されるような「騒ぎ」に至っておらず、なおも居座り続ける公安刑事の「公務」なるものは、「庁舎管理」上から見ても著しく逸脱しており、適法な「公務」とは言えないのではないでしょうか。3名の公安刑事の「職務の適法性」も「妨害行為の態様」も、Aさんを暴力的に逮捕した容疑である刑法95条「公務執行妨害」の要件を到底満たしておらず、明らかなデッチ上げと言ってよいでしょう。
私達は、白昼堂々と、よりにもよって職員がそれぞれ福祉業務に携わっていた福祉事務所内において行われた、渋谷署公安刑事による不法逮捕を放置し、傍観し、間接的に協力した渋谷区の責任を断固として追及します。一連の事実関係については、私達の仲間の他、多数の職員が目撃しています。誰が先に手を出したかということはさしたる問題ではないと思います。問題は、警察という権力によって福祉事務所という自治体行政の職務が踏みにじられたことでしょうし、その窓口に相談にきた野宿者の人権が蹂躙されたことではないでしょうか。私達は、シャワーと街頭相談の問題について、あくまでも話し合いによる解決を求めています。もとより「混乱」や「騒ぎ」を起こすことや、ましてや「業務妨害」することが目的ではありません。私達は、いつも整然と話し合いに臨んできました。渋谷区はかかる事態を引き起こしたことを猛省し、誠意をもって話し合うことを私達は、強く求めます。
渋谷警察署、区役所一体となった今回の弾圧は、憲法が保障する最低限度の生活を獲得するための私達のぎりぎりの要求に対する行政の回答であり、この時期、衛生、保健問題の解決に向けた私達の切実な声の圧殺と言えましょう。また自らの「公務」の不当性を償うどころか、「のじれんが騒ぐからこうなる」と見せしめ的に刑事事件をデッチ上げたことは、昨今強まってきている「組織犯罪対策」に名を借りた労働組合、市民団体などへの弾圧の動きと決して無縁ではないと思われます。
私達は、不当に長期拘留されている仲間の早期釈放を求めると同時に、あらゆる弾圧をはねのけ、野宿の仲間の団結をもって、人間が人間として生きる当たり前の権利をかちとっていくつもりです。
1999年7月15日
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