抗議声明
●はじめに
私たちは、渋谷区内に住む野宿者(いわゆる「ホームレス」)とその支援者で
構成される野宿者問題の当事者団体です。
本日は、現在渋谷区内にある東京都福祉局子供家庭部子育て推進課の管轄下に
ある東京都児童会館がl2月中旬に計画している、野宿者締め出しを目的とした
休憩所増設工事およびそれに伴うフェンス設置工事に抗議すべく、声明を発表
します。
●経緯
l1月中旬、私たちに、児童会館安藤次長から「11月下旬に屋外休憩室の設置・
フェンス設置工事を計画している。それについて説明したい」との連絡が入り
ました。事前に連絡が入ったことの背景には、次のような事情があります。昨
年12月末に児童会館が抜き打ち的に野宿者締め出しのフェンス設置工事を強行
したために、そこに住んでいた野宿者との間で事態が紛糾し、上部機関である
東京都福祉局の直接介入による2名の野宿者の生活保護適用および事態の経過
について児童会館片岡館長が謝罪するといういきさつがありました。児童会館
側としては、その昨年の事例に学んだものと思われます。
11月21日に第一回の話し合いが行われましたが、その際には私たちは児童会館
側の意向を確認するに留め、本格的な話し合いを11月29日に設定するだけで終
了しました。
11月29日、話し合いに訪れたのじれんメンバー二十余名に対し、児童会館はあ
らかじめ主要出入口を全て封鎖し、各出入口に職員を配置してのじれんメンバー
の館内への立入を暴力的に妨害するとともに、訪れたメンバーを2階の窓から
盗撮するという行為を行いました。私たちは、話し合いの前提が成立していな
いとして、館内での話し合いの場の設置、盗撮に関する事実関係の究明を求め
ました。安藤次長は、2時間の間盗撮について「そのような事実はない」「知
らない」と突っぱねていましたが、その後漸く事実を次のような形で認めまし
た。「ふだんから来館者の来館風景を撮影している。そこにたまたまあなたた
ちが訪れただけだ」と。結局その日は実質的な話し合いは何ら行われず、次回
の日程のみ決定して終わりました。
12月6日、第三回話し合い。児童会館側は片岡館長、安藤次長他2名が出席し、
のじれんメンバー二十余名と館内休憩室にて行われました。ところがこの日も
出席した2名が話し合いの場に参加しながら官職・姓名を明らかにしないこと
から話し合いはまた入口で頓挫しました(当初この2名は「児童会館職員」と
のみ紹介されていましたが、後に東京都福祉局勤務の職員であることが判明)。
その他前回盗撮の責任問題などもあって実質的な話し合いに入れないまま、2
時間半後館長と次長は「フェンス設置工事は野宿者締め出しではない」と捨て
ぜりふを残して話し合いを放棄、その場から逃走しました。その後館長・次長
が話し合いの場に戻ることを求める私たちに対し、児童会館のスタッフジャン
バーを着た東京都福祉局職員十数名は終始警察の介入をほのめかしつつ、館内
からの退去を一方的に求めました。しかも私たちを退去させたその日の直後に、
児童会館は工事予定地にバリケードを設置。館長・次長の話し合い打ち切りか
ら退去強制・バリケード設置まで、全ては事前に計画されていたわけです。
12月7日、児童会館に話し合うつもりがないと判断した私たちは、直接東京都
福祉局を訪れ、事態の収拾を求めました。しかしここでも、都庁内福祉局5階
分の出入口は全て封鎖され、封鎖されたドア越しに対応した福祉局子供家庭部
子育て推進課佐藤課長他数名は、「話し合うことはない。お帰り下さい」と、
2時間余の間、ただ繰り返すのみでした。
12月8日、野宿者が出払っている昼間の時間帯に、またも抜き打ちで工事用フェ
ンスが設置され、軒下への立入が全面的にできなくなりました。
●問題点
私たちは、以下の理由から屋外休憩所の設麗とフェンス設置工事に反対してい
ます。
- 戦後最悪といわれる不況の中、野宿者は年々急増し、現在渋谷区には
35Oから400名の野宿者が生活している(昨年11月には200名)。野宿者
問題はもはや深刻な社会問題であり、東京都などの行政には何らかの対
応を行う責任がある。にもかかわらず、野宿者を保護するどころか締め
出すというのは、許し難い非人道的対応である。
- 時に零下にもなる冬季は野宿者の生活状態が最も厳しくなる時期である。
フェンス設置が予定されている場所は、渋谷区内でも数少ない雨や雪を
しのげる場所であり、そこからの締め出しは、直ちに野宿者を「行路死」
の危険にさらす。
- 児童会館にはすでに室内に大きな休憩所があり、ふだんの利用状況から
見て、屋外休憩所設置がどうしても必要とされているとは思えない。
- 百歩ゆずって屋外休憩所設置が施設管理上不可避だとしても、野宿者が
寝泊まりしているのは児童会館が閉鎖している夜間から翌朝にかけての
時間帯のみであり、休憩所利用とは競合しない。フェンス設置により夜
間締め切るというのは、野宿者締め出し以外の目的を持ちえない。
- 東京都福祉局は、現在生活福祉部で野宿者のための「自立支援センター」
を計画している。同じ福祉局内での今回のような対応は、福祉局全体の
認識を問われる事態である。
- 東京都財政の窮状は広く知られている。『広報東京都』631号でも「緊
急性の低い事業は執行を停止します」と宣言されている。120万円を要
する屋外休憩所設置・フェンス設置工事は、都民の税金を無駄に浪費し
ている。
- 話し合いの過程で一貫して、私服警官が動員され、常にのじれんメンバー
の行動を監視していた。警察権力の威圧によって工事の強行を容認させ
ようとする態度は、あまりにも非民主的・権力的な対応である。
●要求
私たちは、東京都児童会館および東京都福祉局に以下の事項を要求します。
- フェンス設置工事の白紙撤回、少なくとも屋外休憩所の夜間の開放
- 締め出された野宿者に対する生活保護の適用
- 「対策なき追い出し・撤去」禁止の確認と貫徹
- 児童会館側の暴力的な対応および盗撮行為に対する児童会館館長の謝罪
- 東京都福祉局の不誠実な対応についての謝罪、およびフェンス設置工事
を許可したことに対する東京都福祉局としての謝罪
以上
1998年12月24日
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