のじれん・申入書
 

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陳情書


渋谷区議会議長殿

野宿者(「路上生活者」)に対する施策充実についての陳情

1、 はじめに

私たちは、渋谷区を中心に野宿者の生活状況改善を目指す活動を行っている野宿者本人といわゆる「支援者」双方で構成される野宿者問題の当事者団体です。渋谷区の野宿者に対する施策の改善を求め、本陳情書を提出します。

2、背景

渋谷区内の野宿者は、先月の私たちの調査で、推定500名(渋谷駅周辺一体250名、代々木公園200名、その他50名)と考えられます。昨年の10月時点で350名、一昨年10月時点で250名だったことを考え併せれば、現在の野宿者の増加状況がいかに深刻なものであり、すでに「緊急事態」と呼ぶべき状況に至っていることがわかると思います。

また、失業率5%を越える現在の社会状況の中では、一度住居を喪失した野宿者が「路上脱却」を果たすのがいかに困難であるか、その分、野宿者の「最後の頼みの綱」としての行政の果たす役割がいかに重大なものであるか、これも縷言を要しないでしょう。

この点につき、周知のように東京都は、野宿者の路上脱却を支援すべく「自立支援センター(以下「センター」)」の開設を決定していますが、しかし難航に難航を重ねる「センター」開設計画は、いまだに本格実施の具体的日程すら明らかでない段階です。政府が設置した「ホームレス問題連絡会議」は、先ごろ「中間報告」を発表し、漸く国として野宿者の「自立支援」に乗り出す方針を明らかにしましたが、これとても遅きに失する感を拭えません。

こうした状況の中、渋谷区が区単位で果たすべき役割、果たすことのできる役割は、決して小さくないというのが、私たちの基本的な認識です。

先月、渋谷区内で3名の野宿者が死亡しました。もはや「都」がやってくれる、あるいは「国」がやってくれるのを悠長に待っていられるような事態ではないのです。

以下、山積する課題の中から、私たちが区議会として緊急に検討していただきたいと考えている問題を二点のみに絞って、提示します。

3、要望

(1)シャワー設備の増改築について

私たちは、数年前から渋谷区役所内に設置されているシャワー室の増改築を渋谷福祉事務所に繰り返し要求してきました。理由は単純で、シャワー室タンクに蓄えることのできる容量が小さすぎて、野宿者の需要に応えることができなくなっているからです。

この点につき、先日(6月2日)行われた話し合いの席で、私たちは保護課課長池山氏から次のような回答を得ました。

  • 6年前の設置当初の目的は、通院および就労活動に限り使用させるというものだった。
  • ・ 昨年度は前年度に比べて9倍(一日9人)の使用率があったが、面接相談時の調べによれば「本来目的」による使用は1,2割程度に過ぎない。
  • したがってシャワー室利用を通院と就労に厳しく限定していけば、現設備で十分対応できるので、増改築の必要性は認められない。

これに対し、私たちは以下のように考えます。

第一に、極めて多くの野宿者は、日常的にシラミやダニに悩まされつづけています。周知のように、シラミやダニは様々な病気を媒介する源になるもので、シャワー室の利用目的に保健衛生的観点が入っていないこと自体、納得できない。とりわけ、福祉事務所および保健所は、これまた数年にわたる私たちの健康診断実施要求および風呂券支給要求を拒絶しつづけており、就労活動の前提とも言うべき野宿者の健康管理問題をどれだけ真剣に考えているのか、はなはだ疑問である。

第二に、野宿者はただでさえ「くさい」「汚い」といった単一的なイメージで捉えられ、それが不当な差別や偏見、ひいては一部の若者などによる「襲撃」を引き起こす心理的要因となってもいる。そのような形で社会に冷遇されている野宿者にしてみれば、少しでも身奇麗にしたいというのは、当然の人間的欲求というべきである。シャワー室利用を狭く狭く限定していこうとする福祉事務所の発想は、野宿者のこの当然の欲求を切り捨てるものではないのか。

第三に、私たちはこれまでの数年間、タンク容量の問題でシャワー室を利用できなくなった野宿者を大勢見てきた。相談員も常に「お湯がなくなった」ことを理由に断っていた。だからこそ増改築が問題となってきたのであって、今回いきなり根拠のはなはだ不明瞭な「調査」結果が出てきたことに対しては、正直唖然とせざるを得ない。福祉事務所の論理では、これまで8,9割の野宿者がウソをついてきたことになるわけだが、こうした福祉事務所の見方そのものに野宿者に対する差別意識が伏在しているのではないのか。

第四に、一日9人利用できるということだが、冬場はせいぜい一日4,5人しか利用できない。また9倍になって9人ということは、一昨年まで一日平均1人の利用ということだが、9人利用できる設備を1人にしか利用させなかったということ自体にも問題があるのではないか。私たちは「あなたはまだ(他の野宿者に比べて)きれいだから」という相談員の恣意的な判断で利用を拒否された多くの野宿者を知っている。

要するに、どんな詭弁を弄したとしても、うなぎ上りに増えつづける野宿者の需要に現在のシャワー設備が追いついていけないものであることは、単純に野宿者の増加数を見るだけで明々白々なのであり、野宿者の人権を無視する決定でも下さない限り、シャワー室の増改築が急務であることは疑いを容れない。

したがって、のじれんは渋谷区議会が速やかに必要な予算措置をとる/とることを決定することを要望します。

(2)健康診断について

前述した6月2日の話合いの席において、保護課課長池山氏は「今年度中の実施に向けて積極的に努力する」旨明言されましたが、その実施内容・規模・時期などに対する質問は一切受け付けてもらえませんでした。

残念なことに、渋谷区福祉事務所の対応は野宿者の間であまり芳しいものではありません。そのため病気になっても福祉事務所に行くことを拒否する野宿者が一定数おり、そうした野宿者の不信を回復し、当然の保護を当然に利用できる環境を作り出すためにも、街頭相談等で病気の野宿者を掘り起こす作業が必要であることを、私たちはこの数年間訴えつづけてきました。それに対して今回初めて前向きな回答を得られたことは、喜ばしいことだと考えています。

ただし、野宿者が抱える疾病には多種多様なものがあり、それに十分対応できるだけの健康診断が実施される必要があると考えます。また、健康診断は冬にやるもの、と考えられがちですが、5月に3人の死亡者を出してしまった事実に鑑みても、できる限り早期に実施されることが望ましいことは言うまでもありません。

結核診断のみならず、血圧など諸診断を含めた一般健康診断を、夏中に実施するよう、区議会として福祉事務所に要請してください。

1999年6月7日

 


(C)1998,1999 渋谷・野宿者の生活と居住権をかちとる自由連合
(のじれんメールアドレス: nojiren@jca.apc.org