申し入れ書
渋谷区路上生活者問題連絡会関係各位
渋谷区長殿
出口の見えない戦後最悪の経済不況の中、野宿者の数は日に日に増大している。
猛暑の夏をのりきって短い秋が過ぎれば、野宿者にとって最も過酷な冬である。
事は人の生命に関わっている。私たちはこの緊迫した事態の下で、野宿者の利
益になることを最大限実現したいと願っている。そのために、野宿者の自立の
方途をともに探るべく、行政とも誠実に話し合いたいと思う。そこで、以下の
事項を申し入れる。
なお、回答は、既になされた約束に従って、連絡会関係部局責任者全員出
席の下、きちんとした場所を設定してなされることを強く希望する。この点、
改めて申し添えておく。
1 「自立支援センター」早期開設に向けて渋谷区は積極的に行動すること
「自立支援センター」(以下「センター」)の年度内二カ所設置が厳しい状況
にあることは、既にご存じのことと思う。当初の予定が遅れていることには様々
な要因が考えられるが、各区が受入に極めて消極的であることが大きな要因の
一つであることは間違いない。住民の反対等難しい問題があることは重々承知
している。しかし野宿者問題が行政の根本的施策を要求する重大な問題である
ことも極めて明瞭である。渋谷区内における私たちの調査でも350人を超え
る人々が野宿生活を余儀なくされている。各区としても、住民の説得等を含め
て、真剣にこの問題に取り組まなければならない時期にきている。私たちは極
めて深刻な野宿者問題を抱える渋谷区が、この役割を果たすことを強く希望す
る。
また、運営方法の問題も重要である。受入方法はどのような手続きに従っ
てなされるのか、就労先が決まらなかった場合に保護はいかなる形で継続され
るのか。にもかかわらず、こうした問題を検討する「自立支援センター実施要
綱策定検討委員会」(以下「検討委」)は7月以来休会状態にある。問題の重
要性が十分認識されているのか、私たちは疑問を感じざるを得ない。私たちは
渋谷区が野宿者の意見をきちんと聴取した上で、できる限り野宿者の意向に沿
う形で運営方法を決めるよう、「検討委」において積極的な役割を果たすこと
を強く希望する。
以上二点につき、現在までに判明している諸情報(設置場所・時期、「検討委」
の進行状況・討議内容等々)を開示の上、お答えいただきたい。
2 生活保護法をより積極的に適用すること
最近、野宿者に対する援助が漸増していることは、私たちも了解しているし、
評価してもいる。しかし同時に、それが多くの場合生活保護法外の「法外援助」
という枠内に止まっていることに、私たちは不満を感じてもいる。野宿者のほ
とんどが憲法の保障する「最低限度の生活」以下の困窮状態にあることは明白
である。にもかかわらず、病弱者・高齢者に対する法の適用すら十分に行われ
ているとは言い難いのが現況である。通院を必要とする病者、事実上就労先が
見つかる見込みのない高齢者についての適用はもちろん、「軽作業可」という
医療診断・65才未満という年齢制限などの法的根拠のない画一的・形式的基
準によって生活保護法の適用による自立への道が不当に閉ざされることがない
よう、切に希望する。
また、生活保護の問題と切り離せないのが銀扇閣問題である。今年5月の一連
の交渉によって一定の改善が見られたものの、冷暖房設備などの設備問題は依
然として解決していない。そのため、夏場には暑さに耐えかねて銀扇閣を出て
しまう者が複数出現したし、2月に死者が出たことも記憶に新しい。銀扇閣は
あくまでも十分な施設を設置できない行政側の都合で利用している代替施設で
あり、それを要保護者の休養・体力回復にふさわしい宿泊所とすることに行政
が一定の責任を負うのは当然である。暖房器具設置の経費扶助、あるいは湯た
んぽの支給など、何らかの公的補償を行うことを強く希望する。
以上二点につき、渋谷区の見解をうかがいたい。
3 「路上生活者対策事業費」を弾力的かつ柔軟に運用すること
就職面接のための交通費や提出用の履歴書代、それに貼付する写真撮影代・印
鑑代、何らかの理由で東京都外に出向くときの交通費など、いわゆる「法外援
助」に対する野宿者のニーズは、自立のための方途は人それぞれである以上、
時と場合に応じて様々である。にもかかわらず、これまで「法外援助」の使用
方法は、時に硬直した画一的な運用に陥りがちだった。たとえば就職先への問
い合わせのための電話代も、交通費名目の借入金の流用という形でしか支給さ
れないといったような例が多い。私たちは画一的な運用を撤廃し、野宿者の自
立への方途に合わせて「法外援助」を弾力的かつ柔軟に運用することを強く求
める。
以上の点につき、渋谷区の見解をうかがいたい。
4 強制撤去はもちろん、野宿者の生活空間の縮小は行わないこと
対策なき撤去は、野宿者の生活困窮状態を深刻化させるだけであり、人々の生
命に責任をもつ行政に許される行為でないことは、いまさら繰り返すまでもな
い。ただ昨今、強制撤去という形ではないにしろ、野宿者の生活空間を縮小す
る行為が散見される。行政なりの理由があることは承知している。しかし野宿
者の生活空間を縮小していけば、いずれ野宿者はそこに生活できなくなる。そ
こで野宿者が「自分から」立ち退いたとしても、それは事実上は撤去である。
身体を横たえる空間だけでなく、荷物置き場を含めて、それは野宿者の生活空
間である。たとえやむを得ない場合があるとしても、その場合には、当事者と
の直接かつ十分な話し合いによって当事者の理解を得る必要があるし、縮小部
分に変わる代替場所は何らかの形で提供されなければならない。
以上の点につき、渋谷区の見解をうかがいたい。
1998 年 10 月 5 日
|