陳情書(補足分)
渋谷区議会議長殿
陳情の趣旨
渋谷区に在住する野宿者(いわゆる「路上生活者」)に関する陳情
陳情書(補足分)
(6)渋谷区保護課の差別問題について
五月二五日、保護課の「婦人」相談員N氏は、相談に訪れた野宿者二名に、密
室の面接室で、「三〇〇円[保護課窓口で交通費として支給]目当てで来るよ
うな野宿者」にはなってくれるな、野宿してたら「汚れる」などの、野宿者一
般に対する偏見に基づいた発言を行いました。当然ながら、自身野宿者である
二人は、N氏の発言を極めて不快に感じ、以後保護課に相談する意欲を失いま
した。そして、その二人から相談を受けて、私たちは六月八日、事実関係の確
認と差別発言に対する謝罪を求めて、N氏、池山保護課課長、川上係長と二時
間以上にわたる話し合いを持ちました。
そもそも、保護課窓口は様々な困難を抱えた野宿者が頼れる最後の「頼みの綱」
です。野宿者の側には「なんとかしてもらいたい」とすがるような気持ちや
「世話になる」ことに対する遠慮などの複雑な感情があり、実際は正当な権利
の行使であれ、事実上処遇を決定する相談員との関係は、ただでさえ弱いもの
です。逆に言えば、相談員には、両者がそのような関係にあることを自覚し、
相手に心理的圧力を加えないよう細心の注意を払う必要があります。
しかし、「謝罪を受けた上で、これからのことをともに考えたい」と話し合い
に臨んだ私たちに対して、保護課は「差別」を否認しました。課長、係長、N
氏が何十回となく繰り返した理由は、「差別するつもりはなかったから」とい
うものです。「つもり」があって差別したら論外と言う他ない。「つもり」が
なくても、言葉の暴力によって相手を傷つけること、ある特定の集団に対して
一律に負のイメージ(「野宿者=金目当て、汚れる」)を押し付けること、こ
れを世間では「差別」と言うはずです。差別は言葉の問題であって、発言者は
自分の言葉に責任をとるのです。
保護課は、差別発言の責任をうやむやにしたまま、「今後の対応を検討する」
「(二人が)傷ついたこと自体は(そう言ってるんだから)認める」と言って、
事態の収拾を図ろうとしています。差別するつもりはなかった、差別発言もな
かった、だけどまあ傷ついたって言ってるからそれは認めますよ、ということ
です。このような対応では、「今後の対応」に期待できないことは明らかです。
当然本人たちは、「納得できない」とより一層の怒りと不信を募らせています。
渋谷区保護課に対して、責任の所在を明確にし、当事者にきちんとした謝罪を
行うよう指示して下さい。また、今後野宿者に対していかなる対応をとるのか、
具体的に明らかにさせて下さい。
1998年6月8日
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