「うちの理事さん」

代表理事 内山節さん

2002年8月号掲載・紹介者:緒方秀行

 

どこか森に似た愛すべき哲学者

 もう5年も前になる。「哲学者」と名乗る人に会ったのは 初めてであった。
 喫茶店の小さなテーブルで、内山さんは挨拶もそこそこに茶色の紙で巻かれた煙草を 吸い始めた。その箱には「ランバージャック」と書かれていた。森林問題を訥々と説く内山さんの言葉に、粗野だが 優しげな“巨人の樵”のイメージが重なった。
 数日後、某全国紙のデータベースで内山さんを紹介する記事を見つけた。 確か、こんな粗筋であった。
 ある日、内山さんは道を横断しているヤドカリを見つける。海に向かっているに違いない。 そう直感した内山さんはヤドカリを膝に乗せ、特急列車とタクシーを乗り継ぎながら海まで送っていく−
 おかしな人だなと思った。上野村の内山邸で開かれた餅つきに労働力として雇われたのは翌年の暮れ。内山さんはクマや イノシシの肉を振る舞い、キャビア、ブルーチーズを勧め、エスプレッソを入れてくれた。
 「夜食を用意しておかないとネズミの機嫌が悪くなるんですよ」。夜が更けると、部屋の隅に2つ3つと殻付きの落花生を並べた。 欧州の文化を取り入れた山里の暮らしが“内山流”なのであった。川釣りが三度の飯より好きだが、酒は飲まない。刃物の類は無造作に積み上げたままで頓着しない。銘入りのまたぎ鉈ですら例外ではない。かと思えば、電脳化された居間でコードレスのマウスを自慢気に披露する。
 一貫性があるような、ないような。そんな“らしさ”が、人を傷付けず、誰でも受け入れる懐の深さの源なのであろうか。どこか森に似ていると思う。駆け出しのNPO法人・森づくりフォーラム、日本の森林にとって“防人(森?)”のような存在であるとも。


(紹介者:TFF代表・緒方秀行)

 

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