「うちの理事さん」

東京の木で家を造る会

 稲木清貴さん

2001年10月号掲載・紹介者:原島幹典

 

 森づくりフォーラム会員であれば、稲木さんを知る人はかなり多いと思いますが、その素顔や日ごろの活動を知る人は、意外に少ないのではないでしょうか。 「こわいおじさん」「理論家」「一匹狼」「反体制派」「女に優しく、男に厳しい」「どこに行っても名前を聞く人」等々、様々な風評が聞かれる中、日ごろから、特にお世話になっている私が、稲木さんの活動や人物像について、少しだけご紹介したいと思います。
 私がはじめて稲木さんにお会いしたのは、8年程前、森づくりフォーラムが発足した奥多摩での「第一回森づくりシンポジウム」の席でした。私はそれまで、都市の人に、山が抱える問題を話したところで、どうなるものでもない、と考えていたので、そのときの盛り上がりには大変驚きました。稲木さん初め、多くの人と時間を忘れて語り会ったのを思い出します。 
 その後しばらくして、「東京の木で家を造る会」が立ち上がると聞き、「すごいなあ」、と、のんきに構えていたのですが、ある日、稲木さんから、是非、入会するようにと脅され、失礼、熱心なお誘いを受け、気の弱い私は断りきれず晴れて入会したのです。
 また、稲木さんが事務局長を勤める「林土戸」という山しごと愛好グループの活動でも、しばしば声をかけてくれました。あきる野市の林業家であり、市民参加の森づくり活動に全面的な理解協力を続けておられる、池谷キワ子さんとお付合いをさせていただける様になったのも、西多摩地区を代表する他の山主さん方に顔を覚えていただけるようになったのも、東京の木で家を造る会や、林土戸の活動を通じて、稲木さんが導いてくださったおかげだと思っています。
 私の置かれた立場や、目指す方向をよく理解してくれて、色々な人を紹介していただくだけではなく、シンポジウム等、人前で自分の意見を述べる機会まで与えてくださったことには、とても感謝しております。今思えば、稲木さんのフォローがなければ、とっくに林業家としては挫折していただろうと思っています。 
 稲木さんは、もともとは住宅業界で活躍された方で、設計、企画、営業、現場管理、資材調達等とても幅広い専門知識、経験と全国に及ぶ人脈をお持ちです。しかも、ただ顔が広いだけではなく、相手の方が皆、稲木さんを「One of them」ではなく「Only one」で評価されていることは、すごいことだと、いつも感心しております。
 そのような人が、なぜ森林ボランティアを
はじめたのか、なぜ脱サラまでして、活動に集中するようになったのか、この疑問に私は答えられませんが、想像することは可能です。
 稲木さんはよく、「山や林業をたて直すためには、感情論や理想論だけではなく、現実社会のシステムの中で、どう組み込めるかを考えなければだめだ。そして、そのために必要な調査研究・情報収集・広報・資金調達等を誰かがやらない限り前には進めない。行政や林業家だけでやれないのなら、市民が、企業活動やNPOを通じて、後押しするしかないじゃないか。」と言われました。言葉で言うのは簡単なのですが、稲木さんは自らそれを実践するために、大手住宅メーカーを退職し、単身、あきる野で山しごとからはじめることで森を軸とする新しい価値つくりに挑戦しはじめたのだと思います。
 稲木さんはいつも色々なことに思いを巡らせています。 「思い」が様々な企画となって出現します。その織り込まれた「思い」に触れ、活動を理解し、参加協力する人や組織が確実に増えており、徐々に成果を上げ始めています。例えば、「フォレスト・ガーディアン制度」による、武蔵野市の森林体験活動受け入れ事業等は、実によく考えられた企画で、お手伝いしながらも、感心ばかりしています。稲木さんの活動は、単なる個人単位の森林ボランティアではなく、広く深い視野で森林や林業の将来や、市民運動としての森づくり活動のあり様をも見据えて展開されており、それぞれに大きな可能性を示唆しているのです。今後ますます森づくり活動に関わる人が増え、活動の目的や内容が多様化してゆく中で、ともすれば敬遠されがちな、行政や林業家に対し、様々なアプローチで橋渡しを続けている稲木さんの存在は、林業家のみならず、多くの人に、森林や林業のあるべき姿、市民活動の目指すべき方向性、行政のすべきこと等を、考えさせてくれる道しるべとなっているのです。

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