いろんな人に聞いてみました。森との関係。  

森の列島に暮らす・16  

百姓と南米とこの地球に生まれた幸せ

南兵衛@鈴木幸一さん
アースガーデン代表・御茶ノ水GAIA

 

 

 日本と南米を自転車で旅し、南米をこよなく愛する南兵衛さん。本名、鈴木幸一さんは、主に野外イベントの制作を仕事にしている。息子は楽君と快君。「2人で合わせて『快楽』なの」と笑うのはパートナーのとみ子さん。今回はそんな南兵衛さん宅におじゃまして、庭の太陽の下で話しを伺った。

 「こんな風にお天とさんに当たっているだけで、十分幸せなんだよなー」。簡単でしょ? でもみんな意外に忘れているから、それを伝えたいんです。
 もともと自転車で世界一周しようと思っていましたが、世界を知る前に日本を知らないと、と思って88年、19歳の時に日本一周の旅に出ました。今の私につながる大事な人たちに出会ったのも、ほとんどがこの時です。また同時に原子力発電所や自然破壊の問題なんかも目の当たりにしました。もともと興味はあって本とかは読んでいたけど、実際に見ているうちに問題意識の方が大きくなったんです。それで「このまま旅し続けてどうなるんだろう。このまま海外に出てもなんか空っぽじゃん」って気分になって、世界一周をする前に1年間百姓をしようと思い、日本一周の時に出会った有機農家のところにお世話になりました。
 石川県の鳥越村っていう白山麓の入り口の小さな谷筋の奥の集落で、そこの水は田植えをしながら口をつけて飲めるくらいきれいなところです。本当にすばらしいところで、私にとってはちょっとした小宇宙ですね。谷間の両側から山が迫っていて、その山が日ごとにハッと変わっていくんですよ。畑に出て山の姿を見ていてすごく満足感もあったし、「あぁー、これで人間って結構幸せなんだなぁ」って思いました。私の原点はいつもそこです。いつもそこに帰って、幸せになれるって確信があります。だから無茶ができる(笑)。


 百姓の時もすごい満足感があったし、ほとんどストレスもなかったけど、やっぱり「若気の疼き」ですね。このまま20歳で田舎暮らし入るより、広いところを見なければダメだと思いました。日本一周後に田舎で暮らすと言っても結局経済の問題になることもよく分かりました。だからちゃんと外で経験を積もうって決めましたが、ある意味自分のやることが見えた気がしていましたので、もう世界一周で時間をかける気はしませんでした。
 私は自転車乗りなんで、単純にアンデス山脈という峠を越えてみたかったから南米に行きました。当時ヒマラヤ山脈は天安門事件があって中国が難しかったので。ただ、私にとってはラテンアメリカにしたのは運命でしたね。わりと深く考え込んでしまう性格ですが、南米の人たちと付き合うことで、思考停止の技術を学びました。「考えすぎてもしょうがない、取り合えず楽しめー!」って。
 それとパタゴニア地方のパイネという山に感動しました。1万年前、氷河期の氷が溶けて硬いツルツルの岩だけが残って、そこにコケが生えて、土ができて、草が生えて、やがて森ができた、そういう地球の歴史を博物館のように自分で見られる場所です。全人類に見せたいですよ。こういうのって、ファンタジーだと思いません?
 そんな思いもあって99年にまだ4歳だった楽を連れて、家族3人でも自転車でチリを走りました。これからの荒波の人生を(笑)一緒に乗り切る、いい体験が共有できましたね。

 アンデスの荒涼とした大地を自転車で旅していると、水が見えて緑が増えてきたなって思うと、町があるんですよ。「緑のないところに文化は育たない」って実感しました。日本ってすごく緑に恵まれた国ですよね。本当に、日本に生まれたことだけで幸せって言えるくらいのメリットを持っていると思います。例えば、世界中の子供に「山の絵を描いて」と言ったら、たぶん世界中の子供の過半数が茶色で描くんじゃないかなぁ。日本は「山=緑色」でしょ? 地球の上にこんな密度の森が見られるところなんて、実はそうはないんですよ。
 森とともに暮らす社会というか、私が野外イベントとか、エコロジーショップ「GAIA」の店員とかやっているのも、「自然を意識した、自然に近い暮らし」をした方がいいと思っているからです。メッセージという以上に、事実として私たちは何によって生きているのかって問題だと思います。それは結局エコロジカルな世の中とか、これからの時代、人間が生きていくためのバランスを考える最初のステップとして、絶対的に必要なことだと思います。


 (編集部)

KOICHI SUZUKI


1968年埼玉県生まれ、大阪育ち。20歳前後の4年間を日本全国、南米の旅と百姓暮らしで過ごす。オーガニック&エコロジーをコンセプトに「お茶の水GAIA」というショップにかかわり、95年からはアースガーデン代表としても、野外フェスティバルの制作を中心に活動中。また、「Outdoor」等に寄稿するライターしても活躍している。

 

森の列島に暮らす・目次
 森の列島に暮らす・03年5月
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