島田さんは、日産自動車では
コミュニティ・リレーションズ(前社会文化室)の担当部長、また経団連の『変化する企業と社会貢献』担当者懇談会
座長を務めるなど、企業の社会貢献における中心的な存在として活躍されている。
「“会社を変える・社会を変える”ということで活動していますが、そのためには多様な価値観が、組織や
社会の中で受け入れられる状況をつくっていくべきだと思います。会社員は会社という枠組みの中で過ごす時間が多く、
能動的に外の刺激に触れなくなれば、企業の顔が個人を支配してしまいます。地域人であり家庭人、そしてその
原点である個人の顔を忘れてしまう恐れがあります。そこからは、多様な生き方が尊重される、活力に満ちた社会は
創造されないでしょう。だからこそ、会社員も外の風に触れ、別の価値観に直接触れる体験をすることによって、
広い視野、価値観を持つことが必要ではないかと思うのです」
このような考えの上で、様々な企業が地域への支援や社員の社会参加といった社会貢献活動を始めている。島田さんが
活動を始めてから10年余が経っているが…。
「漢方薬みたいなものですから、何か体験したから価値観がすぐに変わるということではありません。
でもいま、やらなければならないのです」
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社会と会社は、漢字が
入れ替わっているだけで、抱えている問題は同じだ。そんな中、島田さん達は、NPOとのパートナーシップを
積極的に進めている。
「私達が社会にNPOが必要だと
考えたのは、いままでの効率性だけで活動してきた社会において、そこで受け止められなかった、マイナーであったり
先駆的すぎる社会の多様な課題をひとつひとつ拾って、解決していこうとしているのがNPOだからです」
日産自動車は“未来への投資”をキーワードとして、若者が多様な価値観を体験できるための様々な活動を
行っているが、そのひとつに『日産NPOラーニング奨学金制度』がある。これは、大学生が学校では体験できない
NPOでの体験を支援するものだ。
「その理由はふたつあります。ひとつは、優れた専門性を持っていること。もうひとつは、優れた
マネージメント力を持っていることです。自分達の活動の社会的意義・目的・方法を掲げて、多様な能力を持った
市民をコーディネートすることは、企業以上に難しいことです。つまり“共感”によるマネージメントですね。
そういうことがキチンと出来ているNPOで経験することによって、若者達にも自分で考えて行動できる力も
身につくのではないかと思うのです」
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島田さんの立場で、
NPOとパートナーシップを組むときに望むことは、これまで伺ったことの裏返し。つまり、社会的意義とその結果を、
キチンと説明出来ることだ。またそれとは別に、NPOに期待していることもある
「奨学金制度の感想では、NPOでの体験によって、『いろんな生き方がある』と感じた学生が多いんです。現在は、
生きる目的を見つけられない若者が多いと言われていますが、NPOは、若者に目的を与えるということをテーマに
掲げてもいいと思いますよ。大組織でなくても、何かをやりたいと思えば出来るということを教えてあげることの
できる場になって欲しいですね」
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島田さんにとって
『森とともに暮らす社会』とは何か。「私は環境のことに詳しくはありませんが・・・」と前置きした上での、
島田さんのご意見である。
「私達の活動の中に『昔話が語る子供の成長』の講演会があります。そのなかで講師の先生が、『例えば
“三匹の子豚”で、最後にオオカミを煮て食べてしまうストーリーについて教育上よくないとか残酷だと言われる。
しかし、人間を含めた動物は全て他者の命をもらいながら生きている。それを否定してはいけない』とおっしゃって
います。全くその通りですね。そういうサイクルの中で、自然は成り立っているのですから。そのバランスを
とることは、今の時代には難しいことですが、そのことを子供達に教える必要があるし、そういう考え方を
持っているのといないのでは、“生きる力”が全く違うと思います。それが『森とともに暮らす社会』の
実現のためにも、必要かも知れません」
(編集部)
KYOKO SHIMADA
1967年、デザイナーとして日産自動車(株)に入社。その後。商品開発、CI、営業企画、広報を経て現職。
経団連「変化する企業と社会貢献」担当者懇談会座長、日本NPOセンター企画委員、
文部科学省中央教育審議会生涯学習分科会委員等も務める。
「奨学金制度について、ゴーン社長は『これは若者への投資。重要だから、自分も関わる』と言っています」
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