谷川俊太郎の詩とのコラボレーション
(共同制作)で話題を呼んだ「50本の木」をはじめ、木や森を主題とした写真集を数多く手掛けている丹地さんは、
1年の約半分は旅に出ているという。それも一人で、ということにこだわりがある。 「写真の魅力は、とにかく
現場に行かなければならないことです。その場に身をおいて木々と環境を共有し、状況と自分の感性が合致したときに
シャッターを切ろうという意志が働くんです。そのためには、他の人に影響されないように、1対1で向き合ったほうが
いいんですね」
木々が受ける風を共に感じ、ほんの瞬間に見せる表情を逃さない。この感受性は、一人で活動するからこそ
得られるものだという。 「ですから、子供が自然に親しむ機会はいろいろあるようですけれど、森の中に一人で
放り込む、というようなことも必要じゃないでしょうか。森の優しさや怖さを自分一人で感じることは、それに対して
自分でどう対処すればいいかを考えることになり、とても大きな経験になると思います。そのための、自然の怖さも
感じられる場所だけれど一人でいても安全、というエリアを行政なり学校なりがつくることを考えてもいいと思います」
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丹地さんは、日本の森林が年々撮りづらくなっていると感じている。
30年近く日本の森の写真を撮り続けている丹地さんならではの実感は、ただデータを見て分かること以上に、その深刻さを
思わせる。しかし一方では、海外で撮影旅行をするにつけ日本の森林の豊かさ、すばらしさに気がつくとも。
「日本はまだまだ、他の国に比べれば森に対する意識は高いですよ。いま林業に携わる人が少なくて森が荒れている
そうですが、それでも日本には木の資源があるのですから、それをいかに循環利用していくかを考えることが
大切でしょう。いまは森の大切さということの理屈はみんなが分かっているけれど、人間はすぐ忘れてしまうものだから、
そういうPRは繰り返しやっていかないとね」 人間が暮らしていくためには、自然の中の動物を殺すこと、
木を伐ることは避けられない。しかし、人間が本当にリラックス出来る環境も、やはり自然の中なのだ。それならば、
いかにその無駄をなくしていくのか。そういう意識が大切だという。 「アイヌやイヌイットの生活なんかは
参考になると思いますが、もっと細かいことからでいいんです。ちょっと気がついたらゴミを捨てるのをやめようとか」
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丹地さんが憧れる生活をしている人がいる。映画監督のジョージ・
ルーカスである。 「あの人のコンピュータスタジオは森の地下にあって、外から見ても全然分からない。そこで
人工衛星を利用して仕事をしてるんですよ。仕事に疲れたら森の中を歩いたりして。これはもう、僕の理想を超えているなと。
僕もいずれは、そういう方法で仕事をやりたいなと思っているんです」 “人間らしい暮らし”を求めてIターン・Uターンが増えているが、これはいいこ
とだと思う。そしてこれからの時代、インターネット等の文明の利器をうまく使う仕組みを考えることで、森と関わって
暮らす新しい方法が見つかるような気がするという。
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「僕は写真を撮って、みなさんに見てもらうという仕事をしていますが、
それで、自分も森に行って写真を撮ってみよう、といったきっかけになってくれれば、僕としては森に対してひとつ役割が
果たせたことになるのではと思います」 写真を撮る気で森や木を見ると、いままで気がつかなかったものが見えてくる。
目線が変わる。森や木のドラマが感じられるようになる。 「そうなればおのずと、自分と森との関わりも考えるように
なると思うんですよ」
YASUTAKA TANJI 1943年、広島県生まれ。 グラフィックデザイナーを経て 1973年フォトグラファーに転向、現在に至る。 NPO国際写真交流協会会長、
日本写真家協会会員、 日本写真芸術学会会員。 写真集に「50本の木」「桜の木」等、9冊がある。
最新写真集「丹治保堯写真画集」。
常に「絵」を意識してきた丹治さんの、 これまでの仕事の集大成である。
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