私が1996年4月に大学(林学科)に入学してから、かれこれ6年の歳月が過ぎようとしています。この6年の間に、かつて私が入学した「林学科」は、多くの大学における学部改組や学科名改称の流れを受けて「森林総合科学科」へと改称され、林業も「産業としての林業」から「資源管理としての林業」へと大きく方向転換し、さらにそれを取り巻く環境も大きく様変わりしてきました。
◇林政の転換
林業が直面する諸問題の根源としては、産業としての林業が戦後から継続する外材支配構造の定着により、低迷を続けざるを得ないことは言うまでもないと思います。しかし、経済の国際化の進展や、わが国の貿易構造などを勘案する限り、既存の森林・林業問題は林業関連産業内だけでの解決の糸口を見いだすには困難な状況といえます。さらには、環境が経済を規定する風潮が徐々に強まりを見せる中で、往年取り組まれてきた林業の施業のあり方に対しても、持続可能性や生態系保護等の確保が社会的に要請されるなど、様々な障壁が生じてきています。
これらの情勢下に於いて、わが国の林政は国有林野事業の抜本的改革の一環として、森林の機能類型区分のうちかつて5割と位置付けられていた「木材生産林」に当たる「資源の循環利用林」は2割まで縮小されました。さらに、まだ記憶に新しい2001年7月に森林・林業基本法等の林野三法成立を受けて、民有林においても「資源管理としての林業」の重みが強くなることとなりました。
一方では、国民の森林に対する意識も大きく様変わりし、内閣府が実施する世論調査においては、森林の機能の中で「木材生産」に対する期待は、平成11年には最下位へと推移するといった世論の公益的機能重視という風潮も、林政の転換を大きく後押ししているといえます。
◇未だ残される諸問題
この様にわが国の林政は表向きには大きく改革がなされてはいながらも、森林ボランティア等で実際森林に足を運んだ人々であれば周知のように、既存の拡大造林で全国各地に広がった人工林の森林管理問題や伐採跡地の造林問題などは、依然として出口の見えないトンネルの中での暗中模索の状態にあるといえます。
その中、例えば今日地域規模で取り組まれていた「近くの木で家をつくる運動」が全国規模の活動として発展的に取り組む活動が見られたり、教育改革の潮流下において、環境教育や野外教育等の一環としての「森林教育」の取り組みが各地で見られる様になってきています。この様に、地球温暖化問題やエネルギー問題等の地球規模の環境問題の深刻化を背景に、森林管理等の諸問題が他分野から見つめられるようになり、また社会的共通資本としての森林認識も徐々に浸透しつつある状況にあるといえます。
そして、今日アウトドアブームや環境ブームに後押しされて、森林に対する国民の興味・関心やニーズは増加するとともに多様化する傾向にあると言えます。しかしながらその一方では、林野庁の累積債務の2兆8千億円を一般会計に帰属させた国有林野事業の抜本的改革や、今回の法改正といった政策関連の内容に対しては、依然として世論の反応は非常に鈍いのが現状であり、国民の興味・関心もまだまだ萌芽的な段階に止まっている、と判断するのが妥当であると思われます。
◇森林ボランティアへの期待
この様に、社会における森林への潜在的欲求や後押しが強まっていく一方で、それらが未だ初期段階に留まっている理由として、自然公園や森林公園等における利用者数が近年低迷傾向にある事などから察すると、私は今まで森林体験活動や森林教育等においてプログラム等のコンテンツが少な過ぎた事に一因があると考えています。ここで、今日 “全ての人が可能な限り利用できる”ことを目指す設計思想であるユニバーサルデザインの手法を、ハード面だけに止まらずにソフト面においても援用して、森林生態や野生動物といった内容や、登山やキャンプといった活動にあまり興味を抱かない人々でも、容易に森林内活動を楽しめるような プログラム開発・人材育成・場所等の整備を進める必要性があるのではないか、と考えています。
その中で、多くの国民の森林との関わり合いを促し、森林に対する意識を醸成していく役割として、「森林ボランティア」に大きな可能性を私は感じています。森林ボランティアは、雪害や台風等の自然災害等を契機としつつ、阪神大震災以降にボランティア活動が社会的に認知されてきた事にも後押しされて、全国的に大きな発展を見せてきています。この今日に至る「森林ボランティア」は、一般的なボランティアのニーズとしての“問題解決型”“自己探求型”“学習発展型”の「森林ボランティア」の三本柱に加えて、“自然体験型”や“健康増進型”などとして、都市住民の多種多様なニーズを「森林ボランティア」という形態で森林内活動として受け入れてきたと思います。これを逆に言ってみれば、「森林ボランティア」には、身近な雑木林から源流の人工林まで色々な森林において、これだけ多くの都市住民のニーズを受け入れるだけの切り口がある、と言う事が出来るのではないでしょうか。
これからは、全国で今まで蓄積されてきた様々な知識や技術、経験や多種多様なプログラムなどをもとに、各種関連団体との連携し、多種多様な受け口のもとにさらに「森林ボランティア」の輪を広げていって欲しいと思いますし、私も微力ながら力になれる様に精進していこうと思います。
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