東京の森林は78,000haで、都の総面積の36%を占めています。
現在は、その大半が多摩西部と伊豆・小笠原諸島に分布していますが、かって江戸時代には、江戸市中近くまで森林が広がり、江戸市民の生活を支えるため様々に利用されていました。
その一つが「四谷丸太林業」という言葉として残されており、青梅街道や甲州街道沿いにあった森林が、多摩地域
の「青梅林業」地とともに建築用材の供給基地となっていました。また、近隣の広葉樹林も、薪・炭といった燃料や落葉・下草が堆肥として活用されるなど、江戸市民の生活に欠かせないものでした。
また、江戸市民の人口増加が生活用水の不足をもたらし、その解決策として玉川上水がつくられましたが、これを契機に、多摩川上流の森林が重要な水源地として位置づけられ幕府直轄の御料林として伐採が禁止され、守られることとなりました。
このように当時の東京の森林は、市民の生活と日常的に密接な関わりを持ちながら、守り育てられてきました。
その後、時代が進み、日本が近代国家の仲間入りを果たすとともに、第二次世界大戦後の目覚ましい復興と高度経済成長を遂げる中で、東京では都市化が急激に進み、その結果、平地林の大半が消滅するとともに、丘陵地にあ
る森林の一部も宅地などに転用されました。
このように森林が減少したうえに、残された広葉樹林は、化石燃料の普及によって薪炭林としての利用がされなくなり、化学肥料の広まりで堆肥などの農業用としての利用も失われ、人の手が入らなくなって荒廃し、ゴミ捨て場と化してしまったところも見受けられるます。
また、丘陵地や山間部に残されているスギやヒノキの人工林は、戦後の荒廃した国土の復興と住宅建築に必要な木材の不足を背景に、昭和20年代後半から40年代にかけて盛んに植林されたものが大半を占めていますが、値段の安い外材や木材に代わる資材の利用の急速な広がりなどによって、林業経営の採算性が悪化し、その結果、保育作業や再造林が放棄され荒廃が進んでいます。
このように、東京の森林が荒廃したその底流にある背景として、日常の生活の中で、私たちと森林との関わりが薄れてきたことがあげられます。私たちにとって森林は遠い存在になってしまっています。
こうした状況がある一方、近年、環境問題への取り組みが世界的な課題として提起され、地球温暖化の防止や大量生産・大量消費・大量廃棄の社会システムから資源循環型社会への転換が盛んに叫ばれています。その中で、森林の大切さが大きくクローズアップされるとともに、木材についても再生産・再利用できる環境に優しい資源として見直されてきています。このように、今、かってないほど森林や木材に対する関心が高まっているといっても過言ではありません。
ところが、相変わらず、森林の荒廃は目に見えて改善されていません。森林所有者や林業関係者の努力だけでは、森林の管理や育成が難しくなっています。また、森林の持っている公益的な働きを確保するため、森林の整備に対する行政面での支援を行っていますが、その支援にも限界があります。
こうした中で、私たち、特に都市に住む一人一人が、単に森林に対する関心を持つだけでなく、森林がもたらしてくれる様々な恵みをもう一度見つめ直し、より身近なものとして森林を守り育てるため、森林との関わりを持ち深めていくことが何よりも求められています。
その具体的な取り組みの一つが、都市住民による森林作業に携わるボランティア活動です。全国的に見ると、富山県で行われた「草刈り十字軍」の活動がその先駈けであったと思いますが、今では日本全国に広がり、現在活動を進めているグループは280団体にものぼっています。東京では、10数年前から檜原村や日の出町を舞台にその活動の輪が広がり、今では12団体800人を越える人たちが森林ボランティア活動に参加し、森林づくりの大きな力となり、その活動に寄せられる期待が高まっています。
こうした中で、この1月に森づくりフォーラムがNPO法人の認証を受けられたことは、名実ともに、その活動が広く公的に認められたことの証であります。この認証を機に、その活動の輪が一層広がることを心から願っています。
ただ、森林ボランティア活動を進めるにあたっては、現実的に、活動の場の確保や指導者の育成、安全対策など解決しなければいけない課題も残されています。都としましても、今まで活動への支援を進めてきましたが、これらの課題の解決に少しでもお役に立てればと思っています。
さて、森づくりフォーラムの活動をはじめ、森林作業な
どの直接的な森林づくりのほかにも、いろいろな森林との関わり方があります。例えば、募金や寄付といったかたちで参加することや、森林で育った木材を使って家を建てたりすることも森林づくりへの間接的な参加といえます。
各々が自分の身の丈にあった森林との関わりを持ち、一人一人が森林づくりの主役になってもらいたいと願っています。そのことが、私たちに様々な恵みをもたらしている東京の森林を守り育てながら、新たな世紀に引き継ぐ大きな力になるのです。
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