11月29日保安院交渉報告
六ヶ所再処理工場のガラス固化貯蔵建屋の改造工事について
保安院の認可文書で用いている「局部」は告示等にはない造語だが
青森県知事への説明なので法的チェックは受けない
アスメの基準を歪曲して「ローカルエリアーズ」を繰り返す保安院
原燃の「一部補正」も保安院の認可も、国内法規を逸脱している


 11月29日、午後3時半から5時まで約1時間半、参議院議員会館第2会議室で、原子力安全・保安院との交渉を行った。この日は、事前に提出していた質問書(11月24日付)に沿って、六ヶ所再処理工場のガラス固化体貯蔵建屋の改造工事の欺まん性について行った。市民側の参加者は、質問書の共同提出団体である、青森の核廃棄物搬入阻止実行委員会、グリーンピース・ジャパン、原子力資料情報室と当会等から12名。多忙にもかかわらず福島瑞穂参議院議員も途中駆けつけていただいた。福島事務所の政策秘書は終始参加された。保安院からは、核燃料サイクル規制課の吉田功課長補佐(企画班長)と須藤氏が出席した。
 今年4月18日に日本原燃が出したガラス固化体貯蔵建屋の改造工事申請書では、コンクリート温度を65℃以下に保つとしていた。しかし9月22日付の「一部補正」では、出口迷路板部と収納管貫通部について、65℃を超えるため、通産省告示452号を引き合いに出して「局部90℃以下」を適用できるとした。保安院は10月18日に「一部補正」等を認可し、原燃は同日改造工事に着手した。工事は年内一杯かかる見通しという。
 保安院は、この認可にあたって10月18日付で「改造について」という文書を出し、その中で「告示452号及び日本機械学会の規格では局部的な範囲については90℃以下であれば、長期健全性の観点から支障がないとしており、告示452号等を準用することには支障がないと判断する」と自らの判断基準を示していた。
 交渉では、迷路板部、収納管貫通部に「局部」という概念が適用できるのか、その法的根拠は何か、安全上重要な箇所がコンクリートの制限値65℃を上回ってもいいのか等が中心課題だった。なぜ全体が65℃以下になるように保安院は規制しなかったのかが問題となった。全体として保安院の回答や対応は、まったく無責任極まりないものだった。ほとんど内容を知らない職員が、「アスメ(ASME)のローカルエリアーズ」を繰り返すばかりだった。また、青森県知事を小馬鹿にしたような発言まで平気で飛び出した。
 以下、いくつかのポイントについて報告する。

■原燃の「局部」という言葉は明らかな誤りなので、訂正する必要はありません
 原燃は改造工事の「一部補正」で、告示452の解説を引用しながら、出口迷路板部と収納管貫通部について「局部温度90℃以下」を適用すると書いている。しかし告示の解説には「局部」という文言はなく、「貫通部で90℃以下」となっている(通産省告示452号「コンクリート製原子炉格納容器に関する構造等の技術基準」(1990年10月22日)とその第9条の解説が該当部分)。
 まず、告示452の解説で書かれている「貫通部」の内容について尋ねた。吉田氏は、「告示452の解説の2条の定義の箇所に図2−2で図示されている。横壁の貫通口だけでなく縦や底部の貫通部も含まれている」という。その図を見せてほしいというと、持参した解説をめくりだす。隣の若い須藤氏も交代してめくり出す。たいそう時間をかけた上で、本の表紙を見て「これは告示501号の解説だ。違う」。なんと、今回問題になっている告示とは別の告示の解説書を持参していたのだ。参加者一同あきれると同時に、この最初の出来事から、今日は一体どうなるのか、この人達は答えられるのかと大きな不安を覚えた。
 次に、告示等のどこに「局部」という言葉があるのかと問うた。すると吉田氏は「これは日本原燃のHP用の文書だから正確なものではない」と言い出した。そして、「明らかな誤りは訂正する必要はありません」「明らかなミスタイプだから」と語気を強める。これは、日本原燃が「貫通部」を「局部」と書き間違えたのではないかと言いたかったようだが、あまりの珍回答に参加者は一瞬驚いた。「保安院は誤りを訂正すべきではないのか」と厳しく迫った。それでも「明らかな誤りですから」とふざけたことを言う。それでは正式の「補正書」には「貫通部」と書かれているのか、「補正書そのものは見たのか」と問うと、「補正書が手元にないので確認できません」とへらへら答える

■「局部」は日本の告示等には書かれていないが、アスメの「ローカルエリアーズ」のことだ
 日本の法令・告示等で示されている文言や定義に即して規制を行うのが保安院の仕事のはず。交渉の中でやっと告示等に「局部」という文言も規定もないことを認めた。しかし、「局部」とは、「アスメ(ASME:米国機械学会)の基準にあるローカルエリアーズのこと」と何度もお題目のように念じた。告示452等はアスメの基準を基に作成されている。アスメで規定されているコンクリートの制限値の華氏を摂氏に直して安全側に数値を丸めて日本の告示や建築学会の指針(1978年)等も定められているという(アスメではローカルエリアーズは「95℃」と定められている)。
 では、アスメでは具体的にどのように書かれているのか確認しておこう。ASME SecV Div2(CC−3440)の「コンクリート温度」では、ローカル・エリアーズを規定する言葉が入っており、「貫通口の周辺のような局部」(local areas, such as around a penetration)となっている。このアスメを基に制定した日本の告示の解説では、その意味を正確に反映させるため「貫通部」という言葉を使っている。
 原燃も保安院も、迷路板部等が「貫通部」に当てはまるとは公式には苦しいため、「貫通口の周辺のような」という限定を捨て去って「局部」と一般化し、迷路板部などが65℃を超えることを正当化しようとしているのだ。これは単なる言葉の問題ではない。法治国家では法律に基づいて全ての手続きが行われる。日本の法律・告示等にもない言葉や概念を使って、改造工事を認可するなどあってはならない話だ。自国の基準がありながら、その範囲に収まらないとなると他国の基準を歪曲して持ち出すなどということがまかり通るだろうか。
 事実交渉では、迷路板部が告示452の解説で定めている「貫通部」に該当するとは言えなかった。迷路板部がなぜ「貫通部」なのかと問うと、「ローカルエリアーズ」と言うのみ。告示の解説では「『貫通部』とは、シェル部、トップスラブ部及び底部における開口又は貫通孔の周辺部をいう」と定義付けられている。平たく言えば、穴の空いた周辺部だが、「迷路板部」の回りに「開口」や「貫通孔」はない。「どこに穴が開いているのか」と聞いてもじーっと黙っている。さらに迷路板は約8メートルの長さが4箇所、計32メートルもあり、保安院が言う「ローカルエリアーズ」にもあたらないと追及する。すると「迷路板部は総体積のたかだか数パーセント」と言いだし、細かいことなどどうでもいいと言ったふうだ。

■保安院の認可文書でも「局部」を使っているが、「青森県知事に説明する資料ですから」
 保安院が10月18日に改造工事を認可した文書「改造について」の中でも、「告示452号及び日本機械学会の規格では局部的な範囲については90℃以下であれば、長期健全性の観点から支障がない」と書いている。告示等を根拠にしながら「局部的な範囲」と告示にはない規定を用いている。「認可の内容は誤っていたのではないのか」「認可の際に、法律を見ずにやっているのか」「認可は取り消すべきだ」と追及する。すると、「これは当院の薦田が青森県知事に説明に行った際の資料ですから、質問主意書のように内閣法制局にチェックをうけるような資料ではない」と平然と語りだした。「青森県知事への説明資料は正式なものではないのか」と追及されると、「正式なものではありますが・・・」と言いながら、青森県知事がなんですか、あの人は国の言うことには文句をつけないと言わんばかりの話しぶりだった。
 青森県知事は、この言葉をどう受け止めるのだろうか。

■「100℃以下なら大丈夫」とまで言い出す保安院。65℃は何のための制限値か?
 次に福島瑞穂議員が鋭く追及された。「4月に改造工事の申請書を出した時には、『コンクリート温度65℃を確保する』となっているのに、なぜ9月の『一部補正』でそれを放棄したのか」「4月の段階では65℃を超える部分があることを見抜けなかったのか」「どういう経緯なのか」。参加者からも「4月には温度解析をやっていなかったのか」「保安院が主導して補正を出させたのか」と追及が続く。保安院の二人は、長時間ひそひそ話を続ける。そして「我々も相談しないと頭の整理ができません」などと言って、「4月の申請書で原燃は、局部については明確にしていなかった。9月の補正に65℃を超す部分の資料がある」と言い出した。「証拠はあるのか」と追及されると、「確認させてほしい」「追って回答させてほしい」とあいまいな返答だった(交渉終了後に、申請書等を見たことがあるのかと確認すると、「全部は見ていません」とのことだった)。
 そして次には、「コンクリートは100℃以上になれば水が蒸発して強度低下を招く。しかし局部でもその他の部分でもコンクリート強度は同じ。100℃以下なら劣化はしません」等と言いだす。参加者はあきれて、「それなら何のために65℃という温度制限値があるんだ」と問う。すると「劣化しませんとは言い過ぎでした。考慮しなくてもいいということです」と。「65℃を超えても何の差し障りもないということか」と追及されると「ローカルエリアーズでは・・・」を繰り返す。
 迷路板は外にでる放射線を少なくするために設置されている。収納管貫通部には大きな力がかかっている。収納管1本には9本のガラス固化体が詰められ、約6.5トンもの重量が天井コンクリートにぶら下がっている。両方とも安全上非常に重要な箇所だ。そんな重要な箇所が、他よりも温度が高くていいのか、安全性は確保されるのかと追求されても、これから先は「ローカルエリアーズであれば65℃を超えてもいい」「ローカルエリアーズですから」を繰り返すばかりだった。
 このガラス固化体貯蔵施設の問題は、1月に固化体冷却温度の解析ミスが見つかったことから出発している。青森県では原燃のみならず保安院への不信と不安が高まっている。そのような状況を踏まえれば、コンクリート温度がどこも65℃を超えないように規制すべきではないのか、認可を取り消すべきだと参加者は主張した。

■ガラス固化溶融炉の実験はまだ必要と認める
 1時間半はあっという間に過ぎた。会場の関係で延長できないため、最後にガラス固化溶融炉に白金属やレンガくずが詰まるという問題について確認した。保安院は、「原子力研究開発機構が東海再処理工場で改良炉を検討しており、六ヶ所にはその改良炉が反映される」と答える。「問題は解決したということか」と再度念を押すと、「試験をしなくてもいいほどに問題が解決しているわけではない」として、事実上、問題がまだ残っていることを認めた。

■保安院の度を超した無責任さ
 最後に、資料請求の内容について確認した。原燃の4月の改造工事申請書、9月の「一部補正」、原子力安全基盤機構(JNES)の解析報告書等と65℃を超えても安全だという知見についての資料等を出すよう要求した。また、今回は時間が足りなかったため、再度12月中に交渉を設定するよう要求した。
 事業者と保安院の癒着ぶりはいつものことだが、この核燃料サイクル規制課は、民間の燃料加工会社以外では、東海再処理工場、六ヶ所ウラン濃縮工場、六ヶ所の高レベル廃棄物貯蔵施設等、国策会社・機関を「監督」している。癒着、なれ合いという以上に身内意識そのもので緊張感など全くない。この交渉で見せた保安院の無責任さは度を超していた。そしてそのツケは、全て住民に降りかかる。
 出席した保安院の二人は、「ローカルエリアーズ」で1時間半乗り切ればいいと考えていたのだろう。しかしこの無責任な姿は、ほとんど内容を知らない二人だけの問題ではなく、保安院全体の無責任さの表れだ。国内の法規等では説明が付かない「局部」なる造語を持ち出さない限り改造工事を認可することはできなかったという根本的な問題だ。原燃の「一部補正」も保安院の認可も、国内法規を逸脱している。この問題が、原燃・保安院の弱点であることを実感した。