雪深い青森。時折激しく降る雪と鉛色の空、陸奥湾の厳しい表情を車窓から眺めながら、青森県庁へと向かった。 2月10日、青森県知事への要望書を提出するためだ。参加者は、現地六ヶ所村をはじめ県内各地から7名、そして新潟、岩手、東京、埼玉、京都、大阪から10名。豪雪の新潟県津南町から、隣県の岩手から、東京から、そして新幹線を乗り継ぎながら関西から人々が集った。青森の運動とプルサーマルに反対する運動、そして岩手の放射能汚染に反対する運動が一堂に会した。 午前11時30分から30分間との短い限られた時間ではあったが、市民団体の要望書提出に中島勝彦商工労働部長が出席し、部長室での提出行動となった。県側は、中島部長以下4名の職員が対応した。部長が出席するのは極めて異例のことだ。これは、青森県議会で一貫して再処理工場に反対しておられる鹿内県議のご尽力によるものだった。 青森県知事への要望書には、わずか10日程で全国各地から210団体(呼びかけ団体33団体を含めて243団体)、1260名もの個人賛同が寄せられた。この多くの人々の怒りと不安の声を背に、県との交渉にのぞんだ。進行役を美浜の会の小山が担当した。 冒頭、六ヶ所村の菊川さんが、「短期間に驚異的な数字の賛同が集まったことは、全国の人々が不安を持っていることの表れです」と語り、「六ヶ所再処理工場のアクティブ試験をけっして認めないでください」と要望書の表題を読み上げ、中島部長に手渡した。続いて美浜の会の島田が、反原発団体のみならず、食の安全、子ども達の将来を案ずる母親達から賛同が集まったこと等を紹介し、全国の市民は青森県産品の消費者でもあり、全国の目が青森県に注がれていることを踏まえて判断してほしいと訴えた。 要望書について見解を問うたが、中島部長は「今日は皆さんの要望とお話を伺う。それをきちんと知事に伝えます」と話すのみだった。また、呼びかけ団体で出していた質問書については、期限の17日に間に合うかは分からないが、必ず文書で回答することを約束した。 時間が30分と限られているため、プルサーマルの問題と放射能汚染の問題に絞ってやりとりを行った。 ■17日に知事が電事連と会うのは、2010年までに16〜18基の原発でプルサーマルを行うという「不退転の決意」を確認するだけ 青森県はアクティブ試験実施の前提として、プルサーマルの実施をあげてきた。しかし現実にはどこもプルサーマルなど実施できる状況にはない。まず初めに、住民投票でプルサーマルを阻止してきた新潟から、「緑と反プルサーマル新潟連絡会」の小木曽さんが「原発現地の新潟の住民と行政はプルサーマルを一切了解していません、このことをまずお伝えるためにやってきました」と話を初めた。新潟県知事や柏崎市長が東電のプルトニウム利用計画を発表したことに抗議していること等を紹介しながら、「住民を無視して勝手にことを運ばないでください。大変迷惑しております」と厳しい口調で訴えた。さらに、どうしても青森でプルトニウムを生産するというのなら、青森県で消費していただきたいと迫った。 青森県としては、プルサーマルができなければアクティブ試験も認めないという見解でいいのかと確認した。すると、資源エネルギー課長の櫻庭氏は、「プルサーマルは原子力政策大綱として国の決定である。アクティブ試験で回収されるプルトニウムは、原子力委員会がその妥当性を判断し、国として評価することになっている」と語った。いつもの「国策だから論」だ。しかし、17日には青森県知事が東京に出向き電事連にプルサーマルについて確認するのではないかと問うた。これについては驚くべき発言がかえってきた。「それはあくまでも、従来から言っているように、電事連として2010年までに16〜18基の原発でプルサーマル計画を不退転の決意で実施すると表明しているから、その『不退転の決意』を確認する」ために上京するという。肝心のアクティブ試験で取り出されるプルトニウムの使い道がないことについては目をつむり、それは「国が妥当と判断しているから問題ない」として、県は「不退転の決意」を確認するだけだという。これには参加者一同あきれ果て、「決意を確認するだけですか、現実性を確認することはないのですか」等々の声が矢継ぎ早にあがった。櫻庭氏は「それは国として評価が出ている、原子力委員会の見解が出ている」と語気を強めて繰り返した。とにかく青森県当局の後ろには国がついているのだという意識を露骨に示していた。しかし、1月6日に電事連が発表したプルトニウム利用計画は、新潟県知事や福島県知事から抗議の声があがるほど、現実味のないものだ。そのためか、「国の威信」だけでは不十分と感じ、青森県知事が電事連に出かけるというのだろうか。そして「不退転の決意を確認した」と単なるパフォーマンスで、県民を愚弄し、全国の反対の声を踏みにじろうというのだろうか。 こんな無責任な姿勢にたまりかね、「それなら、青森の大間原発や東電が計画している東通原発でプルトニウムを消費し、使用済みMOX燃料のゴミも青森に置かれるという可能性があるのではないか」と問うた。これに対しては、「大間原発でプルサーマルを行うという事業計画は既に県として了承している。東通原発については仮定の話で答えなれない」と言う。「不退転の決意」こそが仮定の話である。新潟県知事達の抗議は当然青森県として考慮するのかと問うと、「客観的事実は事実として受け止める」と答えるのみ。青森県当局は、プルサーマルが実施できないという事実は無視して、電事連の「不退転の決意」という現実味のない話にすがりつこうとしている。この県の姿勢は、そのような虚構にすがりつきながらしかアクティブ試験に了解を出せないという、住民を無視した無責任で、極めて危険なものである。しかし同時に、青森県の強硬姿勢は、薄氷の上にあることの表れでもある。 ■青森県の米は他県の米の2倍の放射線が出る 続いて、放射能汚染に関する問題に移った。初めに「三陸の海を放射能汚染から守る岩手の会」の永田さんから、隣県岩手の漁業者や住民の声を代表した訴えがなされた。まず、岩手県議会で全会一致で採択された請願について、青森県知事が「聞いていない」と新聞報道された件について隣県への配慮が一切ないではないかと問いただした。これに対しては、さすがに青森県当局もまずいと思ったのか、「請願が採択されていることは三村知事も知っている。ただ、文書での申し入れは受けていないということです」とあわてたように取り繕っていた。さらに永田さんは、アクティブ試験が始まれば、放射能は三陸沿岸に達し、豊かな漁場が壊滅される、漁業関係者は悲鳴の声を上げていると訴えた。そして、その場合、一体どこの誰が責任を取るのかと厳しく問うた。しかし、これについて県は一切回答することはなかった。 青森県は1月24日に「六ヶ所再処理工場の操業と線量評価について」を出し、再処理工場が稼働すれば、青森県産の米1sあたり、毎秒90個の放射線が(炭素14から)出るという予測を公表した。これに対して、県内の農業者からは、「青森県の米は放射線が出る米だと受け止められ、全国の消費者に不安が出るようでは困る」と切実な声が出された。県が放射線が出ることを公認したのだから、何か対策は考えているのかと問うと、こちらも驚くべき回答がかえってきた。 県の原子力安全対策課副参事(課長代理)の阿部氏は、「青森県の皆さんが食べている米には、自然放射線として炭素14が既に90ベクレル入っています。倍になるだけです」と平然と答えた。参加者からは、「それは自然放射線の分であって、全国の米にも入っている。青森の米には余計に入ってくるということでしょう」と問うと、「地域として評価すると倍ぐらいです。今食べている分の倍です」と繰り返す。関西の参加者は、「『今食べているものの倍になる』と聞いたら関西の消費者は青森産は買わなくなると思います」と消費者の立場から反論した。すると阿部氏は、「既に自然放射線から90、それと同等が加わるので倍になる。見た目は倍ですが、国の評価では再処理工場から放出される全ての放射能を含めても0.022ミリシーベルトの被曝にしかならない」とたいしたことはないと強弁した。参加者からは、ご飯茶碗1杯で1秒間に5〜6個の放射線が出ることになるがそういうことかと確認すると、「そうです」と認めた。「被曝の計算式も濃縮係数もトリチウムの体内での影響も分かっていないのに、計算式で出した0.022だから大丈夫だと言えるのですか」と声が飛ぶ。阿部氏は「国の専門的施設で研究をやっていますから」と早口で「国」を強調する。さらに、「水産物・農産物の各核種の許容線量の基準はあるのですか」と問うと、「基準とは何ですか、食べると死ぬというような基準ですか」などととぼけてみせる。「子ども達がヨウ素の入ったものをたくさん食べれば甲状腺に濃縮されていく。だから基準があるはずでしょう、そうでなければ野放しになる」と言っても、結局何も答えなかった。海や大気が放射能で汚染されることについて全く眼中にないという姿勢だ。 時間の延長が可能かを問うと、中島部長は「30分ということなので、皆さんの意見は知事に伝えます、質問書にも答えます」と県庁内の12時のチャイムと同時に事務的に答えた。 青森県は、青森産の米には他県の米と比べて2倍も放射能が含まれることを公認した。三村知事は「攻めの農業」を掲げている。「他県より2倍の放射線が出る米」をキャッチフレーズに「攻めの農業」を推進していくのだろうか。米だけではない、リンゴからも魚介類からも放射線が出てくる。三陸の豊かな漁場も取り返しがつかなくなる。大量の放射能を放出しなければ運転できない再処理工場が、人々の生活にどのような影響を与えるのか、その姿が青森県が公認する中で見え始めてきた。このことを消費者である全国の人々に伝えていこう。アクティブ試験が農業者、漁業者の生活を破壊することを伝えていこう。 この後、別室で放射能問題について県から説明を受けたが、こちらもわずか30分で、ほとんど要領を得ない説明を長々と聞かされただけだった。ただ、青森県が1月24日に公表した資料「六ヶ所再処理工場の操業と線量評価について」では、放射能とそれによる被曝は1年単位のものであり、除夜の鐘がなればその年に降り積もった放射能は消えてなくなり、放射能の蓄積を考慮していないのではないかと問うた。すると1年単位のものであることは認めた上で、「2倍3倍となっていくわけではないが」と事実上蓄積の効果を認めた。つまり再処理工場の稼働が1年を超えて長期にわたれば、青森県の米から出る放射線は他県の2倍ではすまなくなる。また、ヨウ素の経口摂取について考慮していない点についても明確な回答はなかった。これらについては、質問書の回答を待つことになる。 参加者一同は、多くの人々からメールやFAX等で寄せられた賛同に勇気づけられ、確かな手応えを感じている。同時に青森県の無責任な姿勢、放射能放出が始まる危険性を広く訴え、アクティブ試験を阻止していこうと改めて意を強くした。新たな怒りと、そして少し明るい兆しを受け止めながら、それぞれの持ち場に帰っていった。 なお、県側の出席者は下記のとおり。 中島 勝彦 (商工労働部 部長) 櫻庭 洋一 (商工労働部 資源エネルギー課 課長) 阿部 征裕 (環境生活部 原子力安全対策課 副参事 (課長代理)) 水野 幹久 (商工労働部 資源エネルギー課 課長代理 総括副参事) 小山田 康雄 (商工労働部 資源エネルギー課 企画グループリーダー 総括主幹) 報告:美浜の会 島田清子 |