翻訳資料集
イラク戦争と劣化ウラン弾


はじめに



1.イラク戦争後、アメリカによる劣化ウラン弾の使用状況と、汚染・被害の実態の一端が、いくつかの報道機関やウェブ上の独立系メディア等が流す情報を通じて明らかになりはじめている。本翻訳資料集は、これらイラク戦争後に出された海外での報道記事等のいくつかを翻訳したものである。
 独立系のインターネット・ニュース「メディアにおける自由思想のための連合」は、米軍特殊作戦司令部に所属する大佐へのインタビュー記事を公表している。同大佐は、貫通爆弾への劣化ウランの使用を認め、イラクに対して使用された劣化ウランは約500トンであると証言している。さらに、「躊躇することなく都市部に劣化ウランをばらまいた」と平然と語っている。この証言が真実であるとすれば、1991年の湾岸戦争で使われた総量320トンを上回る大量の劣化ウランが、都市部とその周辺にばらまかれたことになる。
 5月12日付の東京新聞掲載の同行取材記事によれば、バグダッド大学物理学部の研究者が、バグダット市内13カ所と郊外3カ所に放置されているイラク軍戦車等の残骸を調査したところ、自然レベルよりもはるかに高いガンマ線を検出したという。このような破壊された汚染車輌は、バグダッドとイラク全土の都市部に大量に放置されたままになっている。
 しかし米軍は劣化ウランの健康影響を否定し、汚染エリアへの対策を認めていない。米国防総省のスポークスマンはBBCに対して、「劣化ウランによる健康リスクは存在しない」と述べ、「イラクにおける劣化ウランの除染は必要ない」と公言している。
 またイギリス政府は、英国医療研究会議(MRC)に資金提供し、「湾岸戦争症候群は存在しない」と主張する研究報告書を出させた。
 米英政府による人体影響の否定と隠蔽の一方で、本資料集に収録したガーディアン紙の記事「粉塵が沈着するとき」は、専門家の研究成果を紹介し、イラクにばらまかれた劣化ウランは従来考えられていたよりも、もっと大きな被害をもたらすだろうと述べている。放射線医学の著名な研究者であるアレクサンドラ・ミラー博士は記事の中で、劣化ウランは放射性物質であるだけではなく、強い化学的毒性を持った金属であり、放射線と化学的毒性は相互に増幅しあって、各々が単独で作用した時よりもはるかに大きな人体影響をもたらすのだと語っている。
 本資料集に収録したこれらの報道記事は、極めて限定された形ではあるが、相当量の劣化ウランがイラクに撒き散らされ、今後長期にわたって、深刻で重大な健康被害が発生するであろうことを予感させるものとなっている。
 アメリカは、イラクに対して使った劣化ウランの総量と使用地点をすべて明らかにすべきである。また、汚染と被害の実態調査、即時の汚染除去、そして被害に対する補償といった戦争責任を果たす義務がある。アメリカの戦争犯罪を粘り強く批判していこう。

2.また本資料集の末尾には、関西電力の劣化ウランが兵器に転用されているという疑惑に関する資料を付けた。4月28日に行った関西電力との交渉の結果、この疑惑はますます深まった。関電は濃縮役務を委託しているUSEC社との間で「平和目的以外に利用されない」旨の確認を取り交わしていると述べたが、交渉では、確認書の具体的な内容を何一つ明らかにできなかった。さらに交渉後に出した再質問書に対して、「契約内容にかかわるため確認書は公開できない」と答えてきた。「劣化ウラン弾に使用されていない」というだけの確認が、なぜ契約内容にかかわるのか。このような「確認」が本当にあったのかどうかさえ疑わしい。
 さらに再質問書では、USEC社における関電の劣化ウランの管理形態・体制を明らかにするように追及した。これに対して関電は、アメリカに引き渡した「劣化ウランについては、USEC社が管理することとなっており、アメリカの国内法規に基づいて保管管理されていると理解している」と答えてきた。結局、関電の劣化ウランは、個別に管理・保管されていないということである。彼らが言う「確認」が例え存在したとしても、本当に兵器に転用されていないかどうか関電は確認しようがないのである。
 関電をはじめとする日本の電力会社が、劣化ウラン弾の原料を提供しているという重大な疑惑について、今後さらに厳しく追及していこう。

 2001年4月に発行したパンフレット『劣化ウラン弾―被害の実態と人体影響』をイラク戦争前の2003年1月に増刷しました。本資料集は、このパンフレットを内容的に補完するものでもあります。本資料集とあわせて、パンフレットもお読みいただければ幸いです。