美浜の会ニュース No.88


 総合資源エネルギー調査会原子力部会は、8月8日に「原子力立国計画」を確定した。「原子力立国計画」は、昨年の「原子力政策大綱」を具体化し、5月に経済財政諮問会議で二階経産大臣が報告し「骨太の方針2006」にも盛り込まれた「新・国家エネルギー戦略」の原子力関係の施策を具体化したものである。
「原子力立国計画」は、既存原発の60年間運転、老朽原発にむち打つ稼働率至上主義、2030年以後も原発依存を30〜40%程度以上に維持すること、プルサーマル・再処理など核燃料サイクルの推進、「もんじゅ」の運転再開と高速増殖炉サイクル路線の推進、核廃棄物処分場対策の推進、海外進出を念頭においた官民一体での「次世代原子炉」開発、ウラン資源の確保、原子力行政の再編と地元対策の強化等々を内容としている。
 原油の高騰、中東情勢の不安定化、「資源ナショナリズムの台頭」等エネルギーを巡る国際情勢の変化の中で、政府は石油資源の確保と同時に、エネルギー戦略の根幹として原発を基幹電源と位置づけ強引に推進しようとしている。また、中国・米国での新規立地に参入することで、衰退の一途をたどる原子力産業をバックアップしようとしている。「原子力立国計画」は、原子力産業をグローバル企業に育てあげることを国家の戦略的目標と位置づけたものである。
 しかし「原子力立国計画」の内容は、老朽原発で起こっている事故の頻発等の実態とあまりにもかけ離れたものであり、思惑どおりには進まない。核燃料サイクル推進にしても、反対運動とアクティブ試験のつまずき等で目論見通りには進んでいない。核廃棄物問題については、なんの目処もたっていない。
 以下では、まず「原子力立国計画」の基本的な狙いについて記述する。次にその主要な内容の矛盾点と危険性を明らかにする。最後にそれらを推進するテコとしての交付金・原子力予算の問題について指摘する。
 各地で闘っている新規立地・増設反対運動、老朽原発にむち打つ危険な運転に反対する運動、プルサーマル反対・六ヶ所再処理反対、核のゴミ捨て場反対の運動を強化し、政府の「原子力立国計画」路線と対決しよう。

■原子力推進を「国家戦略」と位置づける
 「原子力立国計画」は、冒頭で「原子力政策立案にあたっての5つの基本方針」を掲げている。第1に「『中期的にブレない』確固たる国家戦略と政策枠組みの確立」として、「原子力は市場に委ねるだけで推進できるものではなく・・・原子力政策を『国家戦略』として推し進めるべきである」と明記している。国策といわれてきた原子力政策を国家戦略として進めると表明したのは初めてのことだ。
 さらに、第3では「国、電気事業者、メーカ間の建設的協力関係を深化。このため関係者間の真のコミュニケーションを実現し、ビジョンを共有」するとしている。「ここ数年、原子力政策については、電力自由化、核燃料サイクルを巡る論争等があり、官民一体となった明確な方針を打ち出せなかった」と総括している。いわゆる「19兆円の請求書」の「怪文書」流出による経産省内部からの核燃料サイクル懐疑派の存在が露呈し、電力自由化の中でカネのかかる再処理やプルサーマルへの電力の「消極姿勢」等が見え隠れした。それを念頭に、「国・電気事業者、メーカが三すくみ構造に陥ってしまった」と反省し、「先ずは国が大きな方向性を示して、最初の第一歩を踏み出すべきである」と決意を表明している。
 経団連は5月に「わが国を支えるエネルギー戦略の確立に向けて」を発表した。その内容は「原子力立国計画」の屋台骨ともなっている。計画が財界全体の意向であることを示している。
 電事連等は、これらに歩調を合わせ組織体制を立て直している。4月に「日本原子力産業会議」(原産会議)を50年ぶりに改組し、「日本原子力産業協会」を発足させた。会長には経団連名誉会長の今井敬氏が就任し、名誉会長には中曽根元首相を据えた。米国の原子力政策に参入し、原子力規制を骨抜きにしていった業界団体「原子力エネルギー協会」(NEI)の日本版を目指すと、電事連会長自らが語っている。
 政府は年末に、「原子力立国計画」の内容でエネルギー基本計画を改定し閣議決定しようとしている。

■原子力産業の海外進出・グローバル展開の後押し
 「原子力立国計画」のもう一つの特徴は、国内の新規立地が進まない中で原発建設の受注が縮小し、衰退を続ける原子力独占(三菱重工・東芝・日立)の生き残りとグローバル展開・海外進出を政策面・財政面で積極的にバックアップしようとするものだ。
 欧米では80年代から始まった電力自由化によって原子力産業の買収・合併が先行して進んでいた。スリーマイル島原発事故・チェルノブイリ原発事故によって脱原発の流れが進み、日本以上に原発の新規立地が進まないという状況によって余儀なくされたものでもあった。欧米では1980年代には10社程あった原発建設メーカは、現在では、米国のGEとフランスのAREVAグループのわずか2社に寡占化された。あとは日本の3社とほぼ国営のロシア・韓国・中国だけとなっている。
 「原子力立国計画」では、「米国、フランスと並んで三極の一極を担う」「国内各メーカが体力を失って国際的な影響力を喪失する事態に陥らないよう、今のうちに、中長期を見据えた戦略の構築と実行が必要」と露骨に語っている。当面、中国・米国での新規立地に参入し、さらに2030年の国内リプレースの時期まで体力・技術力を温存する。そのため、政府としての支援意思の明確化(中国への経産大臣の書簡等)、公的金融を使った低利子貸付等、政府が前面に出てサポートしようとしている。
 しかし、浜岡・志賀原発で起こったタービン破損事故は、日立が独自技術で作り上げたタービンの設計ミスが原因であった。これによって、中部電力・北陸電力への多額の賠償問題に加えて、GEと共に米国の新規立地に参入予定であった日立の海外戦略は早くもつまずきを見せている。中部電力への賠償金が約1,200億円、北陸電力分を加えれば、日立の前期の当期純利益の4倍弱となり経営を逼迫させるのは明らかだ。同時にタービン事故は、日立の技術力の低下を国際的に示すものとなった。他方、これまでウエスチングハウス社(WH社)と共同でPWR原発の中国・米国進出を狙っていた三菱重工は、東芝によるWH社の買収によって戦略の練り直しを迫られている。このように、海外進出の目論見も思惑通りには進んでいない。


■60年運転を前提に2030年以後も原発依存度30〜40%以上を維持
 「原子力立国計画」は、2030年以後も総発電電力量の30〜40%程度以上を原発で担うことを目標としている。原発設備容量で5,800万kWを確保するという。その実現のために、新規立地と増設、さらに既存の原発を一律60年間運転することを前提としている。それでも2030年前後には原子力の比率が落ち込むため、60年の寿命がきた原発の建てかえ=「リプレース」を計画的に進めるという。
 電力各社の2006年度の供給計画では、13基の新増設計画がある。しかしこの13基のうち、建設中は泊3号と島根3号の2基のみで、地元の反対運動の力によって簡単には進まない。さらに「原子力立国計画」で述べていることだが、年間わずか数日のピーク電力の伸び(2005〜2015年)を基にしても、150万kWの大型原発が必要なのは東京電力・中部電力・九州電力だけとなる。そのため「電力事業者が協力した広域的運営」(=数社で1基の原発を運転)や、需要の落ち込みに対しては、危険な負荷追随運転(出力調整運転)を認めるよう安全規制を緩和する方向まで打ち出している。まったく矛盾に満ちた話だ。



 「原子力立国計画」を実現しようと思えば、前頁のグラフのようになる。既存原発を40年間運転しても2030年までに38基(100万kW級)分、60年運転でも2040年までに23基の新増設が必要になる。およそ非現実的な計画である。新増設や「リプレース」など簡単に進まない。そのため、既存原発の長寿命運転にたよらざるを得ないことを、このグラフは示している。

■米国並みの設備利用率90%−定検短縮・長期連続運転等で老朽炉にむち打つ
 新増設が進まない中で、原子力推進の最大の狙いは既存の老朽炉の設備利用率を上昇させることにある。「原子力立国計画」では、日本の原発の設備利用率の低さを嘆き、米国や韓国では90%台に達していることを紹介している。その違いとして、連続運転が13ヶ月に限られていること、定期点検の期間が98日と米国や韓国の2倍であること等を示している。米国の例をあげ、業界団体である「原子力エネルギー協会(NEI)が「合理的規制の具体案をNRCに提案」したり、「状態監視保全やリスク情報を活用した運転中保守(オンラインメンテナンス)の対象範囲拡大、連続運転期間の柔軟化(1年程度→18ヶ月、24ヶ月)、プラントの定格出力増加」に取り組んだ結果、高い設備利用率を達成したとしている。そして米国に見習って、「より実効性の高い検査への移行を進めるべきである」としめくくっている。
 経団連の「わが国を支えるエネルギー戦略の確立に向けて」では、当面の課題として「既存の原子力発電所の規制の合理化により設備利用率を海外における90%超の運転実績に近づけること」とし、具体的目標値まであげている。
 既に原子力安全・保安院は、今年8月に「検査制度の改善について」をまとめ、2年後を目処に検査制度を抜本的に改悪して安全規制を大幅に緩和し、経済性を最優先させる具体化を進めている。現行の「13ヶ月運転」には合理性はないとして最大24ヶ月運転を狙い、電力会社が作る「保全プログラム」によって定検開始や日数を自由に決める、運転中保守を安全上重要な機器にまで拡大する等々(詳細は10頁参照)。これらを老朽原発で行おうというのである。危険極まりないことである。
 日本の原発の設備利用率は、90年代末に米国に追い越され、その後大きく水をあけられている。2002〜2003年の挫折からはい上がるために、米国を見習って安全規制を骨抜きにし、地元首長による独自の安全性確認等を極力排除するために、政府・電事連一体で体制を立て直そうとしている。[左グラフは「既設原子力発電所の活用」電事連2005.9.28より]

■稼働率向上どころではない事故続きの原発の実態
 「原子力立国計画」が追及する米国並みの90%設備利用率達成の目論見は、既存の原発の実態からしてあまりにもかけ離れている。既に90年代後半から東電・関電などは定検短縮競争に血道をあげ、40日前後の超短縮定検を実施していた。それによって関電は、2003年には設備利用率90%を達成した。95年には関電の原発平均で114日間の定検期間は、2003年には42日間へと半分以下にまで短縮された。手抜き検査等のずさんな安全管理で経済性を最優先させた結果として、その翌年に美浜3号機事故は起こった。東電も同じように利用率を向上させていったが、2002年のシュラウドひび割れ隠し等の「東電事件」によって軒並み原発の停止に追い込まれた。2003年のBWRの平均利用率は40%(東電だけでは20%)にまで落ち込み、2005年も約64%にとどまっている。
 90年代後半からの高い利用率は、「東電事件」、美浜3号機事故によって中断された。そしてとりわけBWRでは回復の見込みすらなく、事故の頻発等で悲鳴をあげている。予想を超える減肉による配管の穴あき、制御棒のカバーに多発するひび割れと金属片の脱落、再循環系配管のひび割れ見逃し等々。女川原発では全号機停止状態が続いている。地震問題で浜岡原発1・2号機は長期停止状態にある。さらにタービン損傷事故が加わり浜岡5号・志賀2号も長期停止状態にある。稼働率向上どころではない(詳細は12頁参照)。
 これらは、90年代後半からの定検短縮による手抜き検査によって見過ごしてきた配管の損傷等が、直接事故として顕在化しているためだ。そのたびに、電力会社のずさんな安全管理の実態が浮かびあがっている。
 多発する原発の事故を具体的に問題にし、老朽原発の停止と廃炉を求める運動を強化していこう。このような老朽炉のボロボロの実態に対し、検査制度の改悪等で経済性を最優先にする危険な運転に反対していこう。美浜3号機事故を繰り返させてはならない。

■核燃料サイクル推進−プルサーマル反対運動とアクティブ試験のつまずき
 核燃料サイクルについては、これまで通りプルサーマル推進、六ヶ所再処理工場の推進を掲げている。プルサーマルでは玄海3号の地元了解をもち上げ「着実な進展が見られている」と記している。しかし、昨年末の知事の事前了解以降、地元では運動がさらに拡大し、佐賀県では「県民投票」運動が開始され、絶対阻止の気運が一層強まっている。また、プルサーマルと原発の耐震性の問題は不可分のものとして浮上し、「耐震問題が先、プルサーマルどころではない」が各地の反プルサーマルの合い言葉になっている。
 日本原燃は、8月から始めた六ヶ所再処理工場のアクティブ試験第2ステップで早くも大きくつまずいている。8月18日に使用済み核燃料を6体せん断しただけで、その後3週間以上もせん断を中止したままだ。主排気筒から放出した放射能が敷地内に降下してくるというまったく想定外の状況が起こっている。そうなれば、原燃は自らの被ばく評価を見直さなければならなくなる(詳細は7頁参照)。
 「原子力立国計画」では、核燃料サイクルの「戦略的産業分野」としてウラン濃縮と再処理をあげ、「国際競争力を有するものでなければ持続的で我が国のエネルギー安全保障に資する存在とはなり得ない」として「競争力強化」の必要性を強調している。しかし、六ヶ所ウラン濃縮工場の稼働率の低さと始まったばかりの再処理工場の試運転でのつまずきの前では、全く展望のない話である。
 政府はブッシュのGNEP構想(国際原子力パートナーシップ構想)に積極的に関与することで、唯一非核兵器保有国でありながら再処理推進のお墨付きを得ようとしている。これによって、使い道のないプルトニウムを国内で生産することが公認されるが、それは核不拡散にも逆行するものだ。また、米国・インド原子力協力(NPT体制に参加していないインドに対しても原子力技術を供与する)に見られるように、米国の思惑は国際的な原子力の管理体制を新たに自らの主導権で構築するという危険なものでもある。

■巨額の交付金・予算をテコに「原子力立国計画」を推進
 原子力・核燃料サイクル推進には膨大なカネがかかる。電力自由化と国際競争力の激化の中で、電力会社も原子炉メーカも以前のように研究開発や地元買収に巨額のカネをつぎ込むことはできなくなっている。研究開発費は90年代後半から右肩下がりで、電力会社の研究開発費は96年には200億円を超えていたが、10年後の2005年には数十億円に急落している。
このような中で、国が肩代わりして、各種の交付金・予算を使って「原子力立国計画」を実現させようとしている。来年度の原子力予算概算要求額は、前年度比10%近くもアップしている。一般会計で1,464億円、電源特会3,368億円を合わせて約4,832億円(前年度比416億円増、9.4%増)。「原子力立国計画」分で1,900億円とも言われている(8月28日付電気新聞)。「もんじゅ」の維持・改造工事関連予算とは別に、高速増殖炉開発関連予算として今年度新たに140億円を要求している。さらに海外ウラン資源確保のために新規に13億円の予算をつけ、電力会社のウラン探鉱を財政的に援助している。
 さらに、地方財政の悪化につけこんで交付金の大盤振る舞いで原発・核燃料サイクルを進めようとしている。戦略的に、プルサーマルや老朽原発の長期運転を認める地域への交付金を増額し、カネでがんじがらめにしている。交付金で最も多額の「電源立地地域対策交付金」の概算要求は、前年度13%増の1174億円にも達している。今年度から導入した、運転開始30年以上の老朽原発立地道県への総額25億円の交付、同じく市町村には「高経年化加算額」の2倍への増額等々。危険手当・ 迷惑手当の増額によってしか「原子力立国計画」は成り立たないことを示している。
 まったく目処の立っていない高レベル廃棄物処分場探しでは、この傾向は露骨だ。2002年末から候補地の公募を行っているが正式公募は未だない。「原子力立国計画」では「今後1、2年間が正念場との意識をもち・・・関係者が一丸となって最大限の努力を行うべきである」としている。その具体化として来年度予算案で「文献調査」段階の初期交付金を年間2.1億円から一挙に10億円に引き上げた。
 他方、「みなし交付金」についてはカットも辞さないという。地元対策としてこれまでは、原発が事故等で停止している期間も「運転しているとみなし」交付金が支払われてきた。しかし今後は、国が安全を確認した後に立地県が独自の判断で運転開始を延期させた場合は交付金を出さないというものだ。「原子力立国計画」では、これを「原発の円滑な運転を確保するための措置」と呼んでいる。国に従わなければカネは出さない、安全性の問題について地元は口を出すなという強権的なものである。

 政府の「原子力立国計画」路線の矛盾点と危険性を暴露していこう。全国各地で闘っている原発反対、核燃料サイクル反対、核のゴミ捨て場反対等々の運動を強化し、「原子力立国計画」に反対し、その実現を阻止していこう。