経済性最優先、稼働率アップ最優先の 老朽原発にムチ打つ検査制度の改悪に反対しよう |
原子力安全・保安院が意見募集した「原子力発電施設に対する検査制度の改善について(案)」を「検査の在り方に関する検討会」(班目委員長)が、9月7日に了承した。今後、新検査制度の詳細を、新たに設置する「保守管理検討会」や「安全管理技術評価ワーキンググループ」で詰めるとしている。 これまで13ヶ月に1回と一律に義務付けていた原発の定期検査を改め、各電力会社が原発ごとに機器の点検計画や管理目標を定める「保全プログラム」に基づく検査を08年度から導入するとしている。これにより、定期検査の間隔を、現行の13ヶ月から段階的に延長することができることになる。また、「状態監視保全」や「運転中保守」などの検査手法により、これまで定期検査の中で行っていた検査を運転中に行うことで定期検査の期間が短縮できる。 検査制度の変更は、電力会社が求めていた米国並みの18〜24ヶ月への定検間隔の要求に沿うだけでなく、検査内容や検査時期などを電力会社任せにする「改悪」である。検査制度の抜本的改悪によって、稼働率(設備利用率)を米国並みの90%にすることを狙っている。 同時に、検査制度の改悪は、原発の実態・実情を無視し、現実から遊離している。 検査制度見直しの契機となった美浜3号機事故は、福井県が公式に表明したように老朽化のもたらした事故である。老朽化の実態を無視して、経済性優先のずさんな管理を行っていたという「安全文化」の欠如がもたらした事故であった。 最近では多くのBWR原発で、配管減肉や再循環器配管のひび割れ、制御棒の損傷等が多発し、稼働率が大幅に低下し60%台にとどまっている。これは、各種のトラブル、事故のために運転停止が頻発しているからである。これまでの手抜き検査で見過ごされてきた傷が拡大し、冷却水の漏えい等となって、直接事故として顕在化しているのである。 稼働率アップを最優先し、老朽原発の検査をさらに手抜きする方向の検査制度改悪の先に待ち構えているのは、大事故の危険性である。検査制度改悪に反対しよう。 稼働率アップが最優先 経済性優先の検査制度の改悪 ──「保全プログラム」・「状態監視保全」・「運転中保全」など── 美浜3号機事故は、老朽原発での稼働率至上主義の危険な運転に警鐘を鳴らした。老朽炉時代を迎え、より丁寧な検査が要求されている。 保安院は「検査制度の改善について(案)」で、制度「改善」の必要性について、美浜3号機事故を二度と起こさないように対応していくこと、高経年化対策を充実することをあげている。 しかし、「検査制度の改善」の中味は、このうたい文句とは全く逆の、老朽化していく既存の原発にムチ打つという検査制度の改悪である。 「事業者に対しプラント毎の特性を踏まえた保全活動を充実することを求める検査制度の導入が課題」とし、一律の検査では、きめ細かい検査は困難としている。ところが、13ヶ月に1回の定期検査という現行規定を外し、電力会社が炉毎にたてる「保全プログラム」に定検間隔をまかせるのである。 現行規定を残し、老朽化で必要となる場合はより短い間隔で検査を行うことこそ、老朽炉時代に合致した、きめ細かい、より丁寧な検査ではないのか。 さらに、「保全プログラム」では、「機器・系統毎に、設備の技術基準を踏まえた適切な管理指標を定め、これを維持するための点検方法や点検間隔など・・」を電力会社の策定に委ねる。電力自由化の下で、稼働率向上と点検の合理化にまい進している電力会社に管理指標や点検方法までを委ねることは、より一層の稼働率向上、経済性追求に道を開くものでしかない。原発の安全性の向上ではなく、危険性の増大に他ならない。 「状態監視保全」は、定期検査中に行っていた検査を、運転中に行うことで定検を短縮させることを狙っている。毎回の定検で分解点検していた弁等について、運転中にデータを取得し、異常を検知して初めて分解点検を行うことで定検中の検査を削減する。これは同時に、異常の後で修理するという「事後保全」であり、これまでの「予防保全」からの改悪である。 さらに、「運転中保守(オンラインメンテナンス)」は、運転中に機器を分解・点検・修理する手法である。例えば、現状では、2台のポンプで100%の能力を維持している場合、3台目のポンプは、動いているポンプに故障が生じた場合の予備として待機している。「運転中保守」が導入されれば、予備の待機中ポンプを運転中に分解点検することになる。もしも、運転中に1台のポンプが故障すれば、予備のポンプは分解中なので使えず、ポンプの能力は半減し、大事故へとつながる危険な状態を生むことになる。 これまでの「一律の規制」から「炉ごとの規制」へ、「時間計画保全」から「状態監視保全」へ、「予防保全」から「事後保全」へと転換して、稼働率アップを狙っている。 稼働率が低下している原発の実態 ──これまでの手抜き検査で見過ごされてきた傷が事故として顕在化── 原発の実態を見ると、とりわけBWR原発では、配管減肉や再循環器配管のひび割れ、制御棒の損傷等が多発し、稼働率は大幅に低下している。事故による運転停止が頻発しているからである。女川原発の配管穴あき事故は、これまで「代表部位」だけの検査で済ましてきたため、一度も検査されていなかった個所で起きた。手抜き検査を長年放置し続けてきた結果である。 電力会社の流量計等の不正などが続発している。日本原電は、2種類の流量計で不正と設定ミスを犯していた。敦賀1号機では、30年間も制御棒駆動系の流量計の設定ミスを放置し、東海第2原発では事故時に水素爆発を防ぐ系統の流量計で22年間も不正操作していた。この不正操作と同じ流量計の設定ミスを、東電も福島第一原発1号、3号、5号機で犯していた。さらに、東電の協力会社・東芝は、原子炉給水流量計、復水流量計の実流量試験で試験データを不正に変更していた、などなど。規制当局の直接的な規制を緩和し、検査を電力会社任せにすれば、原発の安全性は一層低下する。 手抜き検査と定検短縮によって90年代後半から稼働率を上昇させてきた日本の原発は、その代償として事故を頻発化させ、稼働率の低下という当然の帰結に陥っている。 「代表部位」や「みかけ上減肉」を容認する機械学会の配管管理規格案 美浜3号機事故で直接問題になった配管の肉厚管理について、機械学会が「配管減肉管理に関する技術規格案」を公表した。そこでは、BWR原発で手抜き検査として問題になった「代表部位」による検査を容認し、PWR原発では、「みかけ上減肉」を事実上容認している。 機械学会に関電が提案した「みかけ上減肉」は、「測定点のズレによって大きな減肉となったもので、実際には減肉ではない」というものである。関電は、「測定点のズレ」を証明することができないのに、「みかけ上減肉」という概念に固執してきた。そもそも、「測定点のズレ」を認めること自体が、ずさんな検査であることを意味している。「測定点のズレ」が起こらないように測定方法を厳密化するべきなのに、それ自身を放棄した「規格案」である。 検査制度の「改善」も機械学会の「規格案」も原発の実態に目をそらしている。 稼働率のアップを目的とした、経済性最優先の、老朽炉に一層ムチ打つ検査制度の改悪に反対していこう。 |