−被ばく線量「0.022mSv」に関する質問書(3/7)への日本原燃の回答(4/14)−
160億の税金を費やしてもクリプトン85除去技術は「確立されていない」(原燃)

「三陸沿岸までモニタリングをする必要はない」(原燃)


 六ヶ所再処理工場の事業(変更)許可申請書は、放出放射能による被ばく線量を最大で0.022mSv(ミリシーベルト)とし、原発敷地境界での線量目標値0.05mSvを下回ることをもって、再処理工場の日常的運転を安全なものとみなす判断の根拠としている。安全協定締結前に行われた県主催の県民説明会でも、日本原燃は「0.022mSvを規制値としているのだから安全」と繰り返した。しかし、原燃の被ばく線量の評価は、経年的な放射能の蓄積を考慮しておらず、計算に入れていない被ばく経路が存在するなど、重大な問題がある。さらに、評価の範囲は工場周辺のみに狭く限定されており、三陸海岸等の放射能汚染や被ばく影響についてはまったく無視されている。また、希ガスなどが全量放出されるという問題がある。
 3月7日、これらの問題点に関する質問書を、グリーン・アクション、グリーンピース・ジャパンと共同で原燃に提出した。安全協定が目前に迫った時期であり、3月14日までの回答を求めた。しかし、原燃は期限を過ぎても回答せず、結局、アクティブ試験を開始した後に回答してきた(4月14日)。1ヶ月以上かかったにもかかわらず、原燃はほとんどの質問に対してまともに答えていない。いや、答えられないのである。重要な点をピックアップして批判的に紹介する。

(1)20年の歳月と160億を費やしても、クリプトン85除去の「技術は確立されていない」(原燃)
 原燃は、クリプトン85などの希ガスについて、何らの除去措置をとることなく、全量を大気に放出している。質問書では、なぜ全量放出するのか質している。これに対して原燃は、回答で「当社再処理施設に適用可能な回収・固定化・貯蔵に関する実用化に適した技術は確立されていない」からだとし、その上で全量を「主排気筒から放出する現状の方法で適切」と答えてきた。2001年7月の変更申請書でも、「実用段階において総合的に実証された技術は確立されていない」と書かれている。15年間ずっと除去技術は未確立のままということである。
 しかし実際には、これまで多額の税金が旧核燃料サイクル開発機構につぎ込まれ、東海再処理工場において、クリプトン85除去技術の開発が進められてきた(1983年〜2003年で160億円)。サイクル機構技報No.17(2002年12月)によれば、同機構は1983年からクリプトン回収技術の開発を開始し、1993年から2001年にかけて、実際に再処理に伴って発生するガスからクリプトンを回収するための開発運転を実施している。同技報によれば、回収率は90%以上であったという。
 それにもかかわらず原燃は、当初から15年間ずっと「技術は確立されていない」と言い続け、クリプトン除去装置を設置しないまま六ヶ所再処理工場の試運転を開始した。技術がないのではなく、全量放出してしまった方が安上がりだという経済的動機がその背景に透けて見える。「技術がない」というのであれば、巨額の税金を費やした技術開発の、どこの部分にどのような問題があって使えないのか、具体的に明らかにすべきである。また、そもそも、クリプトン除去技術がないというのであれば、除去技術が使えるようになるまで再処理工場は止めるべきであろう。

(2)「集団被ばく線量は?」(質問書)−「年間約0.022ミリシーベルトなので安全」(原燃)
 六ヶ所再処理工場は通常運転時でも大量の放射能を放出し、多くの人口集団を被ばくさせることになる。したがって、被ばく影響を評価するにあたっては、人口集団全体の総被ばく量=集団被ばく線量を計算して評価する必要がある。そこで、質問書では、集団被ばく線量およびそれによるガン死亡数、またクリプトン85による皮膚ガンの発生数について聞いている。それにもかかわらず原燃は「工場周辺で受ける放射線の量は年間約0.022ミリシーベルト」「健康への影響を心配するレベルではない」とまったく回答にならない答を返してきた。答えられないということである。集団線量が明らかになれば、そこから確実に被ばくのもたらす被害が、具体的な姿で明らかになるからだ。原燃は、集団被ばく線量を明らかにすべきである。

(3)「三陸沿岸までモニタリングをする必要はない」(原燃)
 ノルウェイでは、セラフィールド再処理工場から放出されたテクネチウムなどの放射能が魚介類から検出されている。このことは、ノルウェイの主要産業である漁業に打撃を与え、国際的な問題になった。六ヶ所再処理工場の場合も、放出口の周辺海域だけでなく、三陸海岸等の海域にまで影響を及ぼすものと考えられる。放射能がリアス式の湾内に入り込みそこに蓄積される可能性がある。岩手県などにおいて、これまで検出されなかったような放射性核種が、海産物から新たに検出されるようになったりする可能性も否定できない。
 質問書では、三陸海岸への影響について具体的に評価したのかどうかを質している。これに対して原燃は「影響評価は・・工場周辺について行ってい」る。「より遠方では、さらに拡散・希釈されることから・・三陸沿岸までモニタリングをする必要はない」と回答してきた。岩手の地元自治体や漁業者からは、海洋汚染に対して強い懸念の声が挙がっている。三陸への影響については何ら考慮する必要がないという原燃の姿勢は、これら地元の声を踏みにじるものである。
 
(4)地表に降ってくる放射能の年々の累積や、海岸や海底への累積は考慮されていない
 原燃は、大気に放出される放射能からの被ばく線量の評価において、地表面での放射性降下物の密度などは毎年一定であると仮定している。しかし、地表へ降下する放射能の一部は年々累積し、農産物や畜産物へ移行する放射能量もそれだけ増加するはずである。また原燃は、海洋放出された放射能の海岸や海底への年々の累積についても評価していない。セシウムやプルトニウムといった放射性物質が土壌に吸着し蓄積されるという海外での実態を無視している。
 質問書では、年々の放射能の蓄積(累積)をまったく考慮していないのはなぜか聞いている。これに対して原燃は、「放射性物質の地表面での蓄積や農畜産物、海産物中での蓄積を考慮してい」ると回答してきた。しかし、原燃の言う「蓄積」とは、地表面においては1年間放出分の蓄積に過ぎない。また、海産物中の蓄積とは、海水から魚貝類への、単に年間放出分だけの放射能の移行を指しているに過ぎない。原燃は「蓄積」という言葉の意味をねじまげ、質問書への回答を回避しているのである。年々の地表面や海岸、海底、生物への放射能の蓄積・累積を評価していないのはなぜか、原燃は答えるべきである。

(5)放射線に対する感受性の高い胎児や乳幼児に対する特別の危険性は考慮されていない
 原燃の被ばく線量評価は、細胞分裂の活発な子どもや乳幼児、胎児が、放射線に対して特別に敏感な感受性を持っていることが考慮されていない。質問書では、乳幼児の被ばくリスクが成人よりも高いことをなぜ考慮しないのか質している。これに対して原燃は、「成人と区分して線量評価を行って」おり、0.022mSvを1とした場合、「乳児については約0.94、幼児については約1.1」と答えてきた。しかし、これは、乳幼児の食物摂取量と体重から線量を計算したに過ぎない。問題なのは、例えば同じ1mSvという被ばくでも、大人と乳幼児の場合では、受けるリスクが違うということである。質問書では「乳幼児のリスクが成人よりも高い」ことについて、原燃の線量評価ではどう考慮されているか聞いているのである。原燃の回答は答になっていない。成人と乳幼児のリスクの違いをどう考慮したのか、原燃は明らかにすべきである。