ふたたび、国連規約人権委第5回政府報告に関するNGOヒアリング |
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2年前に対応した2001年10月のNGOヒアリングが、新しい外務省人権人道課のメンバーでふたたび繰り返された。2003年9月3日の夜に、外務省人権人道課から、国賠ネットワークの事務局へメールが届いた。「市民的及び政治的権利に関する国際規約」第5回政府報告作成NGOヒアリングの開催についての案内だった。早速、7年前のカウンターリポートの内容を参考に質問書を検討し、10月9日に提出、10月23日にヒアリングの会合が開催される予定。逐次、報告します。
10/7に外務省で自由権規約と拷問禁止条約にかんするNGO非公式ヒアリングに参加してきました。
46のNGOが出席し、政府からは外務省の他、8省庁から、26名の参加で、NGOの意見表明が行われました。
外務省人権人道課の嘉治美佐子課長は最初の挨拶で、自由権規約の報告は02年10月、拷問禁止条約は02年7月が期限であったが、遅れている。任期半ば(04年4月ごろ)までには報告をまとめたいと考えていると大変ぼかして表明。
ついで各NGO発言、順次1人2分に制約されていました。1/3程は労働組合運動に関わる職場の差別問題です。国賠ネット以外から証拠開示に関連して、国民救援会が布川事件再審を例に、部落解放同盟が狭山事件など冤罪をなくすために、その必要性が指摘されました。2年前と同様で、アリバイ的なNGOヒアリングという批判もありました。
(1) NGOヒアリングの案内(10/3)
<未入力>
(2) 国賠ネットからの意見(10/7)
NGOヒアリング資料 整理番号 30 2003年10月7日
違法に拘禁された者への賠償と証拠開示 国賠ネットワーク
要約: 日本政府は、違法に拘禁された者への賠償がなされていると報告してきた。しかし、冤罪事件の国家賠償請求訴訟で検察官の起訴が違法と認められたことはない。捜査資料等が検察官に占有され、開示されず、公正な裁判が阻まれてきたためである。私たちは前回ヒアリングで証拠開示に関する改善策と実現に向けたスケジュールの明示を求めた。司法制度改革に関連して、政府は「争点整理」、「裁判迅速化」のために証拠開示のルール化を進めると聞く。第3回、第4回報告の審議で規約人権委員会から「弁護の準備のための便益に関するすべての保障が遵守されなければならない」旨の勧告があったが、それらへの対応策が第5回報告に明示されることを望む。
関連条文: 9条5項、14条1項、14条3項
背景: 日本政府がこれまで報告してきたように、「違法に拘禁された者への賠償」は刑事補償法と国家賠償法により定められている。前者は無罪が確定した者すべてに対する拘禁期間に対応する定型補償であるため、拘禁状態解消後も無罪が確定するまで継続する経済的損害や精神的苦痛への補償は想定していない。また、起訴されなかった場合の被疑者補償規程もあるが、補償の可否は検察官の判断に委ねられ異議申立てもできない。正当な補償を求めるには後者の国家賠償請求訴訟を提起するしかないが、冤罪事件の賠償請求訴訟では、検察官による起訴が違法であることを厳密に証明することを求める最高裁判例があり、一部警察官の行為を除きほとんどのケースで国の賠償責任が認められていない。
検察官の違法が認められない大きな原因は、刑事裁判手続きにおいて証拠開示が検察官の恣意的判断に委ねられ、捜査資料等を占有する検察側が自己に不利を招く証拠を開示しないことにある。検察が全面敗訴した刑事事件でも、賠償請求の民事訴訟で国は自己に不利な証拠は提出しない。したがって、検察官の起訴の適否を判断するにも、裁判所と原告側は検察官がその時点で入手していた証拠の全貌を知ることができない。この結果、9条5項の賠償の実現が阻止されているのが実情である。前回も述べたように、法で定められた「違法に拘禁された者への賠償」を正当に行うには、検察官の手持ち証拠が全面開示されることが必要不可欠である。
この証拠開示問題について、1991年に日本政府が提出した第3回報告書に対する審査で、14条3項(b)に基づく権利の行使が妨げられているとされ、日本政府に対する勧告が出された。14条3項(b)の規定する防御の準備のための十分な便益の保障について、「この便益には、訴訟の準備に被告人が必要とする書類その他の証拠にアクセスすることも含まれなければならない」(一般的意見13・9項)と指摘したうえ「弁護の準備のための便益に関するすべての保障が遵守されなければならない」旨が勧告された。さらに1998年の委員会でも、最終意見で日本政府に対し「弁護側が捜査機関のあらゆる証拠にアクセスできるよう法律および実務を改善する」ことが求められている。
意見要旨: 国賠ネットワークは、前回のヒアリングでこの勧告に基づく証拠開示に関する改善策と実現に向けたスケジュールの明示を求めた。その後、政府は司法制度改革推進本部を設け司法改革を積極的に進めているが、証拠開示問題に関する同本部事務局など政府側の見解は、「争点整理」「裁判迅速化」のために証拠開示のルール化を進めるというものであって、改革の内容はあくまでも検察官の判断の枠内で、開示する証拠の範囲を拡大しようとするにすぎず、国連の勧告内容とは程遠いか、または不十分なルールの固定化によって全面開示の要請に対し逆行するものとなる恐れが強い。政府が司法改革のなかで、証拠開示に関する勧告を反映させるために、いかなる方策を講じたかが問われなければならない。
また、「違法に拘禁された者への賠償」を求める民事訴訟においても、刑事訴訟で検察側に不利を招く恐れがあるために開示されなかった証拠を法廷に提出させる道は閉ざされている。1999年施行の改正民事訴訟法は、訴訟関係文書の提出義務を定めたが捜査資料等の公文書を除外し(220条四)、2001年施行の同条の改正においても「刑事事件に係る訴訟に関する書類」については原則除外規定が設けられている。これらの法律案はいずれも内閣提出によるものであるが、その立法過程で政府が前記勧告の趣旨を反映させるために、捜査資料等の証拠開示について、たとえ制限つきであろうと裁判所の提出命令の対象とし得る余地を残す努力をしたとは認められない。
このように、政府は最近数年間において、「違法に拘禁された者への賠償」について、9条5項に規定された権利を保障するためにも有効であるはずの制度の構築に際して、検察官による恣意的な証拠隠しを厳しくチェックし、そのことによって公正な裁判を保障するための努力を尽くさなかった。その事実を確認したうえで、2004年にも予定されている前記司法改革の一環としての証拠開示ルールを定める法制において、政府は従来の態度を改め、公正な裁判と冤罪の防止および冤罪被害者への正当な賠償への道を開くための最低条件の一つとして、規約の求める証拠の全面開示原則の方向に転換する必要がある。以上の事実経過を踏まえ、今後の改善策を明示する政府報告を望みたい。
(3) NGOヒアリング(意見交換会)会合(10/23)
2年前の01年10月に対応したNGOヒアリングが、新しい外務省人権人道課のメンバーでふたたび繰り返された。2003年9月3日の夜に、外務省人権人道課から、国賠ネットワークの事務局へメールが届いた。「市民的及び政治的権利に関する国際規約」第5回政府報告と「拷問及び他の残虐な、非人道的な又は品位を傷つける取扱い又は刑罰に関する条約」(拷問等禁止条約)の報告の作成に対するNGOの意見を聞く会合の案内だった。7年前のカウンターリポートの内容や2年前の質問を参考に検討し、今回も証拠開示のことをただすための意見を提出し、10/7のヒアリングの会合に出席することにした。
ただ、すでに2年前に質疑した件について、政府報告の骨子さえ説明のない状態で再びヒアリングとはおかしいとの問題意識から、アムネスティ、反差別国際運動、自由人権協会などの呼びかけで事前の打ち合わせが急遽行われ、国賠ネットも含め43団体が同調した。そこでは、政府報告の作成が2年も遅れている経過説明、前回規約委員会の最終見解で勧告された事項の履行状況、今回作成中の報告書の骨子、目次などの明示、さらに、NGOヒアリングの結果反映などの確認が行われた。必ずしも満足の行く回答が得られなかったが、NGOヒアリングの会合にはそれぞれの判断で参加し意見を表明することとなった。
10/7の会合には、46のNGOが出席して、政府からは外務省、法務省、総務省、など関係8省庁から26名の参加で、NGOの意見表明が行われた。外務省人権人道課の嘉治美佐子課長は最初の挨拶で、自由権規約の報告は02年10月、拷問禁止条約は02年7月が期限であったが、遅れている。任期半ば(04年4月ごろ)までには報告をまとめたいと考えていると大変ぼかして報告書作成の予定を説明した。
ついで各NGO発言、順次1人2分に制約されていた。1/3ほどは労働組合運動に関わる職場の差別問題や人権問題に関する意見である。
国賠ネットから、添付するメモを事前に提出して意見を述べた。「日本政府は、違法に拘禁された者への賠償がなされていると報告してきた。しかし、冤罪事件の国家賠償請求訴訟で検察官の起訴が違法と認められたことはない。捜査資料等が検察官に占有され、開示されず、公正な裁判が阻まれてきたためである。私たちは前回ヒアリングで証拠開示に関する改善策と実現に向けたスケジュールの明示を求めた。司法制度改革に関連して、政府は「争点整理」、「裁判迅速化」のために証拠開示のルール化を進めると聞く。第3回、第4回報告の審議で規約人権委員会から「弁護の準備のための便益に関するすべての保障が遵守されなければならない」旨の勧告があったが、それらへの対応策が第5回報告に明示されることを望む。」あわせて、政府報告をホームページに掲載すべき事を付け加えた。
証拠開示に関連するこれ以外の意見としては、国民救援会が布川事件再審を例に、部落解放同盟が狭山事件など冤罪をなくすために、その必要性が指摘された。
2年前と同様で、アリバイ的なNGOヒアリングの域をでていないと言える。