国連規約人権委第5回政府報告に関するNGOヒアリング

 2001年10月3日の夜に、外務省人権人道課から、国賠ネットワークの事務局へメールが届いた。「市民的及び政治的権利に関する国際規約」第5回政府報告作成NGOヒアリングの開催についての案内だった。早速、7年前のカウンターリポートの内容を参考に質問書を検討し、10月9日に提出、10月23日にヒアリングの会合が開催される予定。逐次、報告します。  

(1) NGOヒアリングの案内(10/3)
 「市民的及び政治的権利に関する国際規約」第5回政府報告作成 NGOヒアリングの開催について(ご案内)  

平成13年10月3日
                                外務省人権人道課

 1979年9月21日、我が国において発効した「市民的及び政治的権利に関する国際規約」の第40条は、各締約国が同規約において認められる権利の実現のためにとった措置及びこれらの権利の享受についてもたらされた進歩に関する報告を国際連合事務総長に提出すべきこと及び右報告が同規約において設置された人権委員会において検討されるべきことを規定しています。
 第5回日本政府報告書は、2002年10月末までに提出することが要請されているところ、今般、右報告書の作成作業を開始することと致しました。
 つきましては、下記の日程及び要領にてヒアリングを開催することと致しましたので、出席を希望される方は、ショート・ノーティスにて恐縮ですが、別紙の登録フォームに必要事項をご記入の上、10月10日(水)迄にFAX(03-3580-9319)、あるいはEメール(jinken.kiyaku@mofa.go.jp)宛に返答していただくようお願い致します(期限厳守)。
 なお、会場の収容能力の関係上、各団体よりの出席者は1名とさせていただきますので、ご理解及びご協力の程をお願いいたします。


【日時】10月23日(火)14:30〜16:30
【場所】外務省 5010号室(新庁舎5階)
【会合の形式】○事前に提出された質問に対する回答
       ○各団体からの発言(時間の都合上、発言時間を制限させていただくことになりますが、具体的な時間配分については、参加団体数が確定次第ご連絡させていただきます)

【質問の提出】
 本件会合の趣旨は、政府報告作成にあたってのヒアリングではありますが、他の人権諸条約の会合と同様に、事前に提出のあった質問事項に対して(回答できる範囲内で)回答したいと考えております。つきましては、質問を行いたい団体におかれましては、別紙の登録フォームの質問事項欄に質問を記入の上、返送願います。なお、時間の都合上、各団体からの質問は各1問とさせていただきますのでご了承願います。

*なお、外務省HP上においても、10月19日まで意見募集を行っています。

(本件問い合わせ先)
外務省人権人道課 長原
TEL:03-3580-3311(内線:3924)
FAX:03-3580-9319



(2) 国賠ネットからの質問(10/9)

○表題:  違法に拘禁された者への賠償と証拠開示

○関連条文: 9条5項、14条1項、14条3項、14条6項

○背景: 日本政府が報告するとおり、「違法に拘禁された者への賠償」は刑事補償法と国家賠償法に定められている。しかし、前者は無罪が確定したすべての者に対し拘禁日数分の定型的補償を行うものにすぎず、違法な捜査・起訴等に伴う個々の被害者の具体的な損失及び精神的苦痛に対する救済は、国家賠償法による民事訴訟にゆだねられている(起訴されなかった被拘禁者に対しては被疑者補償規定があるが、検察官の判断に対する異議申立てはできない)。しかし、国家賠償請求訴訟には例えば以下のような問題点があり、無実が明白となった事件でも国が賠償責任を果たすことができない現状を招いている。刑事裁判で無罪が確定した者の賠償請求訴訟では、とくに検察官による起訴の違法性を厳密に立証することが求められ被害者に過度の負担を強いている。なぜなら刑事事件の捜査・起訴が適法に行われたかどうかを判断するには、関係捜査記録や検察官が起訴時に判断材料とした全ての証拠にアクセスできなければならないが、それは不可能だからである。証拠開示は刑事裁判における被告人の防御と、公正な裁判のためにも重要だが、検察官が有罪立証に有益な証拠しか開示しない慣習は未だに改善されていない。このため、捜査や起訴の違法性を示す証拠、あるいは無罪につながる証拠が存在するとき、訴訟当事者たる国がそれらの証拠をあくまでも開示しないことによって、結果的に賠償責任を回避できるという事態が続き、9条5項の賠償の実現が阻止されている。この現状を改善し、違法に拘禁された者が補償を求める権利を行使するには、14条3項の規定する防御権に基づく証拠の全面開示が欠かせない。

○質問主旨: 上記の証拠開示問題について、1991年に日本政府が提出した第3回報告書に対する審査で、14条3項(b)に基づく権利の行使が妨げられているとされ、日本政府に対する勧告がなされたと聞く。14条3項(b)の規定する防御の準備のための十分な便益の保障について、「この便益には、訴訟の準備に被告人が必要とする書類その他の証拠にアクセスすることも含まれなければならない」(一般的意見13・9項)と指摘したうえ「弁護の準備のため便益に関するすべての保障が遵守されなければならない」旨が勧告された。この勧告を踏まえた証拠開示に関する改善策と実現に向けたスケジュールを明示されたい。
 


(3) NGOヒアリング(意見交換会)会合(10/23)
  
「市民的及び政治的権利に関する国際規約」第5回政府報告作成へのNGOヒアリング(意見交換会) 参加速報
○ 10月23日(火)14:30〜17:40
○ 外務省 5010会議室(新館5階)
○ 参加  NGO  35団体 36名
        政府  10省庁 30名
 国賠ネットにとって今回のヒアリングは唐突にやってきた。10/3にヒアリングの案内がメールで届き、10/10までに質問の提出が求められ、その質問に対する回答と再質問や意見をNGOから聞くのがこのNGOヒアリングで意見交換会とも呼ばれていた。
 会議の冒頭で外務省の国際社会協力部人道人権課の泉課長が「NGOと共同作業で良い報告書を作って行きたい。外務省のホームページの意見募集で集まった33件の意見と併せて報告書作成の参考にしたい」と挨拶。事前に集められた質問に対して担当省庁からまず回答があり、後半で各人からの発言があった。
 国賠ネットからは、前項(2)のように、9条5項の違法に拘禁された者への賠償がされない現状は証拠開示に問題がある点を指摘し、第3回(93年)、第4回(98年)の規約人権委員会が「弁護の準備のため便益に関するすべての保障が遵守されなければならない」と勧告したことを踏まえて、証拠開示の改善策、スケジュールを質問していた。
 法務省刑事部から「証拠開示については刑訴法299条1項により、検察官は、証拠を弁護士が予め閲覧するなど一定の条件で証拠開示している。罪障隠滅等の問題もあり全面開示できない。司法審で新たに、早期に争点を絞り込むためさらに明確化する必要が指摘されている。必要に応じて対応する」との回答があった。
 狭山事件再審請求に関連して部落解放同盟中央本部からも、14条3項について同様の質問があったが、そちらには「係争中の案件にはコメントを差し控える」との回答だった。
 順番待ちで待たされたあげく17時10分ころに発言でできた。第5回の報告書に今回の回答内容が記載されること、これまでの全質問とそれらへの回答を外務省のWEBに掲載すること、の要望を手短に述べた。
 会合は、教室のような会議室に机を5、6列づつ対峙するように配列で行われ、2時間の予定が3時間を超えた。それでも、前半は回答が口頭のみだったので聞き取りテスト、後半は限られた時間内の発言で早口テストのような具合で進行。資料があればと残念に思った。報告書作成の中間でも意見交換会を開くことを、いくつかのNGOが提案した。今後そのように運ぶことを期待したい。同時に、私たちもカウンターリポートの準備を進めなくてはと思う。

<参考 NGOヒアリングとは >
 世界人権宣言の内容を法的拘束力のある条約にする努力が国連で進められ、1966年に、「経済的、社会的及び文化的権利に関する国際規約」(社会権規約)、「市民的及び政治的権利に関する国際規約」(自由権規約)が採択された。78年に日本政府はこれらを批准した。自由権規約は人権確立のひとつの到達点であったフランス人権宣言をベースに、市民社会への国家権力の介入を最小限のものとして、個人の自由を尊重しようとするものである。自由権の中には思想・信条の自由、表現の自由、不当に逮捕されない権利、公正な裁判を受ける権利などが含まれる。自由権規約は国家権力の施行を制約すれば実施できるので加盟国は加入、批准と同時に実施しなければならない。各締約国政府にどの程度、規約が守られているかの定期的な報告を義務づけ、これを規約人権委員会で審理する。この報告はほぼ5年毎に行われ、日本政府の第5回報告が2002年10月に予定されている。欧州諸国の例にならい、報告書の作成にあたって国内のNGOから事前に意見を聞き、参考にするというのが今回のヒアリングである。内容は個別の事件ではなく、制度的な問題が問われていると言える。


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