白石多美出(ダビデ)牧師の講演
私は春日部教会の牧師、白石多美出(ダビデ)です。今度、私が講師を依頼されたとき何を話したらいいか考えました。私は家族問題のカウンセリングを中心に牧会をしてまいりましたのでそれを話します。まずエホバの証人とのかかわりから始めます。二十数年前、ある日、一人のエホバの証人の女性(20代)が教会に伝道にまいりました。そのときはその場で二時間ほど議論をしました。そのときに敗北感を感じました。言葉巧みでした。聖書には三位一体と書かれていませんと言うのです。『論じる』を小脇にかかえ、自信たっぷりに、どうだ参ったかという顔をするのです。その後、私は悩みました。彼女は私はクリスチャンですと名乗るのでした。神学校で比較宗教学をものみの塔を学びましたが、エホバの証人についてはよく分かりませんでした。その当時、中澤先生がJWTCを創設されましたので毎週水曜日、そこに通いました。5、6年間通ってその実体がよく分かりました。悩みに悩んで道が開けました。牧師として対応が間違っていたと気が付きました。エホバの証人が被害者だと認識できました。加害者と思ってました。それまで教会はエホバの証人を追い払っていました。私は心痛みました。私に何ができるか考えました。
それから埼玉の地元の教区の先生方に「エホバの証人の勉強会をしましょう」と声をかけました。エホバの証人に対する対応の仕方を伝え、被害者として認識し、エホバの証人が伝道に来たら暖かく迎えましょうと話しました。その効き目が出て皆さん変わりました。県内の他の教区の先生方にも伝え、対応が変わりました。関東教区でも呼びかけて勉強会をしました。カルト宗教を知っている者はいないかということで、二泊三日で話をさせていただきました。とてもいい学びでした。二十数年前に悩んだことが無駄ではなかったと思っております。
本日はエホバの証人については、家族の問題について話をいたします。まず家族の定義をしますと、人それぞれに異なる家族観を持っています。今の時代、家族の中で同居人的感覚を持って生きています。昔、風呂を沸かすのにどう沸かしましたか――私の時代は薪で沸かしました。沸かしたのは、たいてい家族の中でもっとも年少の者でした。今はスイッチを入れれば沸かせますし、沸くと女性の声がして風呂に入れるとわかります。そうしたこの時代には失われたものがあります。ある時、中学生の団体の集まりでバーベキューをする機会がありました。その時に一番最初に点火できたのは私でした。経験がありますから。直に薪にマッチの火を点けても燃えません。たいてい薪の燃やし方を知らないのです。今の時代はコンビニには基本的なものが揃っています。現代の子どもたちはそうした中で過ごしています。高校の家庭科の先生から聞いたことですが、今の子どもたちはお茶の淹れ方を知らないそうです。人数に応じて入れる分量を学んでいません。家庭ではペットボトルで済んでいます。親は忙しいのでほとんど朝食を摂りません。昼の休みは40分と短いものですから、コンビニに行って500円でスナック菓子を買って食べています。スナックでは栄養は摂れません。夕方は買い置きのものを食べています。ある女性は大学に入りましたが、体力がないので途中で挫折した例があります。中学校は給食があります。唯一、栄養のバランスがとれているものはそれだけです。これが現状なのです。家族の中で会話がほとんどありません。子育ては文化の継承です。ですから文化の継承がされません。子どもはコンビニによって育てられています。社会的批判を学ぶ機会がありません。
人間は衣食住が足りるだけでは済みません。心が満たされていなければなりません。そうでないと心が不安の状況になります。カルトはそこにつけ込みます。カルトへの免疫がなく、予防もできません。容易に入っていけます。マインドコントロールの手法は非常に巧妙です。マインドコントロールで簡単に伝道できます。マインドコントロールで心を拘束できます。物理的な拘束は不要です。洗脳とマインドコントロールが混同されています。中国では洗脳が行れ、思想改造のために物理的な力が用いられました。その力、拘束が解けると洗脳は消えます。しかしマインドコントロールは実に巧妙です。ものみの塔はその歴史の中で自然とそれを学んできました。人を簡単にコントロールできます。マインドコントロールされた人がそこを抜け出すことは困難です。エホバの証人は満たされなかったものを満たしてくれる組織に魅力を感じます。家庭の中では豊かな会話がされていません。何が大切か……。子どもに価値観を伝えないと子どもはそれを分かりません。親切にされると人の心は動きます。組織は人の心をうまく捕らえるのです。するとそこから離れなくなります。これは怖いことです。ものごとの見方や行動パターンが巧みにコントロールされています。今までと違う価値観が植え付けられます。
私は今の家族が機能しているかを常に考えさせられます。機能不全の家族があります。同居人だけの関係の家族があります。家庭が安心している場になっていますか。皆さんは帰る場を持ってますね。疲れたとき、ああ疲れたと言える場があります。家庭は傷ついたときそれを癒す場……家庭でしかできません。妻がエホバの証人になってしまったと言う人には会話があったでしょうか。「自分で考えなさい」としか言えないのなら、相手は答えを出す人に付いて行ってしまいます。
最近、私のところに、教会にある人から手紙が届きました。かつて14年前に統一協会から抜け出た人で、私が一年間ケアしてきた人です。牧師宛でした。中にはメモが貼り付いていました。メモには、もし白石先生の住所が変ってましたら転送してくださいと書かれていました。その方は14年前は看護士でした。かつて彼女にはもし困ったことがあったらいつでも連絡をくださいと伝えてました。彼女はそれを覚えていたんです。ことばには力があります。その人には困ったことが起きたので、手紙を書いて寄こしたのですね。彼女は相談してよかったと思っているでしょう。
家族の中にはいろんな問題が起きます。騙された人が悪いという人もいます。どんな人が騙されるのでしょうか。「私は絶対騙されない」という人が騙されやすにのです。誰か相談できる人がいる人は騙されません。かつて、騙されていると気付かない人を何人もカウンセリングしてきました。ことは、騙されたと気付くことから始まります。家族関係が希薄だから振り込め詐欺が起こります。すぐ結果を出してはなりません。段階を踏まなくてはなりません。一つ、例を上げます。埼京線は痴漢が多く、痴漢が出ると鉄道警察隊が逮捕します。もし、警察隊から息子が痴漢したと電話があると親はその電話を信用します。そばでは女性が泣いているとします。次に弁護士が電話してきて示談にすると言います。そこでうろたえます。取りに来た人に金を渡します。これは劇場型犯罪です。たくみに騙されます。やれやれこれで解決したと思い、息子に電話して初めて騙されたと気付きます。家族関係を象徴しています。息子だと電話があったら息子以外の名前を言いなさいと私は言います。私のところにもそんな電話が来ました。保健所と語っていました。公的機関なのに電話には非表示とあり、おかしいと感じました。次に課長と名乗る人物から電話がありましたが課長にしては品格がありません。すぐに警察に電話したところ、地区の放送で広報されました。コンビニから送金するときは気をつけましょうと。
騙すことに関してはカルトは一生懸命です。予防するには家族の関係が大事です。娘には困ったことがあったらすぐ親に言いなさいと言っています。そういう関係なら子どもは言ってくるのです。
エホバの証人になった人にどう対応するかこれから話します。エホバの証人になった奥さんや子どもを絶対に責めてはなりません。二つ目は許すことです。話しやすい雰囲気を作ってください。いろんな話をしているうちにだんだんマインドコントロールが解けてきます。自分の心を受け入れてくれる人には、心を閉じることはできません。教会には教会員以外にもいろんな人たちが来ます。その人たちは一生懸命話してくれます。その人たちは「誰も私の話を聞いてくれませんでした」と言います。話を聞くことは大事です。人は話をすると心を開いて自分を顧みます。七、八割の時間はただ話を聞くだけです。カウンセリングの仕方は基本的に統一協会もものみの塔も一緒です。話を聞いてあげて責めてはいけません。責められても初めは否定します。責められて自分に気付きません。許されると安心が起きます。責めて正論を言ってはなりません。どうぞ話を聞いてください。
カウンセリングは傾聴です。いろんな話を聞かされます。一時間で終わりません。二時間でも続きます。カルトの人たちの場合、その人の話を二時間は聞きます。長い人はそれが一年以上かかります。マインドコントロールは解けます。そしてキリスト教の話はしません。求められたら応じます。
皆さんは被害者の家族ですから、痛みはあると思います。こうした交流会を大切にして痛みを共有してください。それで軽減されます。新たな進展が起きてきます。
私は周りの牧師さんによく言われました。もっと教会に目を向けなさい、カルトはほどほどにしなさいと。しかし、困った人たちに、助けて欲しい人を放ってはおけません。その思いで二十年やってきました。教えられることはすごく多いのです。私もだまされる可能性がある人間です。気がついたらカルトに居たということもありえます。カルトに入った人、そこから脱け出た人たちには教えられました。私には益になりました。この働きを許される限りこれからも続けていきたいと考えております。
白石牧師と出席者の質疑応答
統一協会とものみの塔の違いを述べてみますと、ものみの塔は聖書をバックボーンにしています。時代劇ドラマ「水戸黄門」の「葵の御紋」みたいなものです。「原理講論」によりますと、95%の救いはイエスによる救いであり、残り5%は「あなた方の責任」だと教えています。いつまでも100%には達しません。
「どのようにすればエホバの証人と対話を継続できますか」の質問に答えて
エホバの証人にとって「あなたは救われていますか」はきつい質問です。問われれば直ちに「救われています」という答えが返ってきます。しかし救済論については、キリスト教とはまったく異なります。この質問に答えようとしても答えられません。彼らのマニュアルにはそれが書かれていないのです。マニュアルに書かれていませんから答えられないのです。「救われていますか」と問いかける人はいないとして作られていますから対処のしようがありません。
「あなたの信仰生活には喜びがありますか」の質問はきつい質問です。
第三の問いかけです――。「困ったことがあったら私のところに来てください。いい先生を紹介します」です。ぜひ投げかけてください。その人の心に残ります。
「統一協会とものみの塔の違いは何ですか」の質問に答えて。
統一協会とものみの塔は共通している見方はそれほどありません。両者とも、牧師はサタンとみなしています。ものごとを「白か黒」かで決め付けます。証人はそれ相当の覚悟を持って教会に参ります。ものみの塔は十字架を用いません。十字架は異教のシンボルです。教会が証人を温かく迎えますと、エホバの証人は「組織の教えとは違うな」と感じます(それでも10年前のものみの塔の内部文書では「最近は牧師が近づいてくるから気をつけなさい」と伝えてはいます)。教会に誘っても彼らは教会には来ません。
かつて真言密教から自主的に脱会した人がいました。その人は大学卒業時からのめりこんでいました。25年経って組織の裏を知って脱会すると教祖に告げました。すると「どこに行こうが呪ってやる」と言われたそうです。おびえていました。反面、(私ども教会は申すまでもなく)一切、「強要」や「強制」はいたしません。祈ってもいいでしょうかと尋ねてから祈りました。
組織の拘束から抜け出るのには時間がかかります。証人は「この世はサタン。組織の中にいれば安全だ」と教えられています。表面ではこの世に暮らしていますが、心はまったく組織に依存しています。だから出られません。怖いのは「排斥処分」です。(脱会すると)サタンの世に投げ出されるのです。二重に拘束されています。世に暮らしていても、この世の人ではありません。
エホバの証人とは議論しないことです。同じ土俵に立てません。ものみの塔は救済論が違います。イエスは被造物とかんがえます。イエスをメシアとは見ていません。証人にはあらゆるところにマインドコントロールが残っています。意識するかしないかにかかわらず、マインドコントロールを使っています。
問:制約がある中でどのような救済活動がありますか。
答:「救済」活動は家族のケアから始めます。家族が立ち直って当人を受け入れる受け皿を作ります。被害者が抜け出たとしても彼らが安心する場を作ります。(被害者の家族が回復したら)家庭に帰れます。現役の「エホバの証人」は家族と同居しています。しかし、その心は家庭にはありません。証人は笑みを浮かべ、クリスチャンらしく見えます。子どもは行儀がいいのです。しかしその裏には児童虐待がありした。何も知らないのですから、そう思うのです。家庭に戻れない元統一教会の女性の信者がいました。その女性は韓国に行き、親の元には帰れませんでした。悲しい思いをしました。「私には帰る家がない」と言ってました。帰る場所がなければなりません。家族はどうか元信者を温かく迎えるようにしてください。