1.総論 日本における「被害者救済施策の充実の必要性を痛感し」、「組織体制面の整備も含めた抜本的な改革」を内容とする中間取りまとめを公表されたことには、意義がある。問題は、上記「充実の必要性」をどのように認識し、それにもとづき、どのような「抜本的な改革」が提示されているかである。 2.「簡易な救済」に関して 「あらゆる人権侵害を対象とする総合的な相談サービスを提供すべきである」(第2―2)は適切な指摘である。問題は「総合的相談サービス」の実施主体である。現行の人権擁護行政や人権擁護委員制度では、到底こうしたサービスを提供できない。この点では、自治体行政のこれまでの経験と知識を活用するほかない。⇒下記7.へ 3.「積極的救済」に関して 「積極的救済の対象とする人権侵害」については、・・・「対象となる差別や虐待の範囲をできるだけ明確に定める必要がある。」(第3―2)のは当然である。問題なのは、その方策が具体的に示されていないことである。積極的な救済の対象とされる人権侵害・差別等は、法律で明確に定義づけする必要がある。 4.「積極的救済を行うべき差別的取扱いの範囲」に関して 「@積極的救済を行うべき差別的取扱いの範囲」(第4―1―(1))に関しては、とくに、差別禁止事由と差別禁止分野を法律で明確に定める必要がある。中間取りまとめ(案)はこの点に言及しておらず、不十分である。〔この点に関しては、人権フォーラム21・人権政策提言の2-4.参照〕 5.公権力による人権侵害に関して 「公権力による人権侵害すべてを積極的救済の対象とするのは相当でない。」(第4―1―(3))との記述は、警察・刑務所・入管のような拘禁施設内における虐待、人権侵害、差別行為を対象外とすることを意味するものであってはならない。自由権規約人権委員会の日本政府報告書に関する最終見解第10項を想起すべきである。 6.拘禁施設への人権委員会の立ち入り調査権限 警察・刑務所・入管のような拘禁施設に関しては、人権委員会の立ち入り調査権限を明記すべきである。中間取りまとめはこの点に言及していない。 7. 救済手法の整備に関して 「総合的な相談窓口を整備する必要」(第4―2―(1))性については賛成である。ただし、これは原則として、国の人権委員会でなく、後述の、地方人権委員会およびその事務局の所掌とすべきである。なぜなら、あらゆる人権侵害・差別事象は地域で発生し、その根元も地域社会に根ざしている。したがって、これまで窓口行政について豊富な経験をもつ自治体が担う地方人権委員会の所掌とするのが適切である。⇒人権フォーラム21・「人権政策提言に対するQ&A」Q7参照。 8. 「第5 調査手続き・権限の整備」に関して 人権委員会が強制的調査権限や強制執行権限を持つこととして問題ないのは、@行為主体が行政機関である場合、ならびにA私人間の人権侵害・差別事案で、当該人権侵害・差別の定義が法律上明確な場合に限るべきである。⇒人権フォーラム21・「人権政策提言に対するQ&A」Q8参照。 ところが、中間取りまとめ第5のAでは、私人による人権侵害・差別事案に関しても、過料又は罰金を科すことも検討対象としている。差別禁止法体系を整備せずに、私人間の事象につき人権委員会にこうした強制調査権限を付与するのは、@本稿の適性手続に反し、A人権委員会の権利濫用のおそれがあり、妥当でない。 9.「第6 人権救済機関の組織体制の整備」に関して 人権擁護機関は、「政府からの一定の独立性が不可欠」との指摘はきわめて妥当である。問題は、いかにその独立性を確保するかである。この点に関しては、委員会の財政的独立性、委員の選任の公開性・透明性の確保、委員構成の多元性(各種マイノリティからの選任)とジェンダー・バランスの確保等が要点となる。 10. 「人権救済機関の独立性等」に関して 「委員の設置に向けて、・・・法務省人権擁護局の改組も視野に入れて、体制の整備を図るべきである。」との指摘は一般的には妥当である(第6―1―A))。問題は、人権擁護局を改組して人権委員会事務局とする場合、現行の人権擁護局の人員をそのまま移行したのでは、政府から独立した人権委員会の事務局機能を正しく担えないことである。新設の人権委員会事務局職員のうち、人権擁護局からの移行者は半数以下とし、残りの人材は広く他省庁・自治体職員、ならびにNGO等から人権問題に熱意のある者を集めるべきである。 11. 「人権救済機関の全国的な組織体制の在り方」に関して 中央人権委員会を設置し、委員事務局を中央と地方で整備する、という制度設計と見受けられる((第6―2)。しかし、全国的組織体制としては、地方人権委員会と中央人権委員会を併置し、前者に事務は自治体が、また後者の事務は国が担当するのが妥当である。⇒上記7.および人権フォーラム21・「人権政策提言に対するQ&A」、Q7参照。 12. 人権擁護委員制度に関して 第6の4「人権救済機関の人的構成に関する問題点」では、「適任者確保の視点から改めて検討することとする」としているが、人権擁護委員はボランティアから有給化し、研修を経た識見豊かな人材を登用すべきである。⇒人権フォーラム21・人権政策提言第8章参照。 13. 「人権救済機関が他に所掌すべき事務」に関して 第6の6では「人権救済機関は、人権救済とともに、人権啓発、政府への助言等の事務を所掌すべきでありそのための組織体制も併せて整備する必要がある」とするが、政府への「助言」は弱すぎる。政府から真に独立した機関なら、堂々と立法・行政・司法機関に対して、対等な立場から人権政策を「提言」できる存在であるべきである。 (未完) |
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