2002年の活動方向 21世紀に入り、内外とも多難な情勢にあります。国内では構造的不況に歯止めがかからず、失業率も高まっています。雇用の確保がますます困難となり、社会保障予算も削減される方向にあります。国際情勢では、9月11日のいわゆる同時多発テロ、その後の米英等によるアフガニスタン空爆等の同国への軍事行動、アメリカ国内における炭疽菌による新たなテロ等々の不安定な状況が続いています。こうした不安定な内外の情勢の下では、市民の人権がややもすれば軽視される傾向がみられます。この意味で、日本社会や国際社会における人権政策の確立が求められています。 日本においては、2000年11月29日に人権教育・啓発推進法が成立し、2001年度末には同法を実施するための基本計画が政府から発表される見込みです。また、2001年5月25日には、人権擁護推進審議会(塩野宏・会長。以下、「審議会」)から人権侵害被害者の救済施策に関する答申(以下、「『救済』答申」)が出されました。「救済」答申後、審議会は人権擁護委員制度のありかたを審議中で、今月中には答申を出す見通しです。本年5月と12月の答申を受けて、「人権救済法」(仮称)が来年冒頭の通常国会に内閣から提案され、来年春には同法が成立するものと見込まれます。同法には新たな人権救済機関である「人権委員会」(仮称)の新設が盛り込まれ、2003年度には人権委員会が創設され、活動を開始するものと思われます。 人権フォーラム21は、結成以来一貫して審議会の審議を注視し、日本における人権政策に関する数々の提言を行なってきました。2000年11月10日には、2年間の規制・救済部会での論議をふまえ、「人権政策提言」を公表し、「上から」でなく「下から」の視点で、「タテワリ」的でなく総合的な人権政策や制度のあり方を政策提言としてとりまとめた。また2001年12月3日には、「これからの日本の人権保障システムの整備をめざして-人権政策提言ver.2-」として、その改訂版を公表した。 今後の人権政策においては、日本の人権政策の基本理念を実現するにあたっては、(1)当事者性、すなわち「当事者の視点に立った施策の推進と当事者自らによる事案解決に対する適切な支援」、(2)地域性、すなわち「地域において人権侵害・差別事案を自ら解決する取り組みの支援」、(3)総合性、すなわち「人権侵害の被害者に多面的・多角的な救済を施す総合的取り組み」、という人権政策学三原則を柱にした積極的なとりくみが必要であると提起してきました。また、審議会の「救済」答申の取りまとめ段階に対しては、毎月2回ほど審議会に事項別の人権政策提言を提起してきました。 来るべき2002年には、人権フォーラム21は結成以来5年目を迎えます。人権フォーラム21は1997年11月の結成当初から5年程の時限NGOとして活動することを予定しており、2002年はラスト・ラン(LAST RUN)となります。これからの1年間で、これまでの5年間の活動を総括し、2002年12月に予定する第6回総会で、人権フォーラム21としての活動を終結し、「人権政策研究会」(仮称)に改組するなど今後の発展的解消の方向性を明確にする予定です。 2002年は、「アジア太平洋障害者の10年」の最終年であり、又DPI(障害者インターナショナル)世界会議が日本の札幌で開催されます。2002年は、「人権救済法」(仮称)が国会に上程され審議されるのをはじめ、障害者差別禁止法(仮称)の制定を求める動きなど、日本の人権保障システムの整備拡充の要求が高まることが予想されています。このような情勢をふまえ、活動の最終年次にあっても、人権フォーラム21は、政策提言型人権NGOとして、これまで公表した「人権政策提言」等の内容をさらに豊かなものとし、日本の人権政策確立に向け、引き続き次の5点に留意しながら活動を推進していきます。 (1) 人権救済法の立法化に注目する視点 2002年春に成立が見込まれる「人権救済法」(仮称)の国会審議を注視し、適切な政策提言を行います。とくに、同法によって新設が見込まれる「人権委員会」の組織体制、委員や職員の選任方法、人権相談・救済、人権教育・啓発ならびに人権政策提言の各種機能の審議と差別禁止法の整備に関わる審議に注目し、適宜人権フォーラム21の見解を公表します。これまでと同様、人権フォーラム21はさまざまな人権NGOと協同し、この活動を継続します。 また日弁連やDPI日本会議などとも連携し、障害者差別禁止法(仮称)にむけた提言づくり、市民政調(市民がつくる政策調査会)などのパブリック・コメント法(仮称)、会議公開法(仮称)などの制定要求に向けた提言づくりにも、積極的に参加していきます。 (2) 司法制度改革の動向に注目する視点 日本の人権政策の確立にむけ私たちが注目しなければならないものに政府による司法制度改革の動きがあります。「国民に身近で、利用しやすい裁判のあり方を考える」ため1999年からスタートした司法制度改革審議会は、本年6月12日に答申を出し、今後の司法制度改革の方針を示しました。この中には裁判外紛争処理手続(ADR)が位置づけられており、人権救済制度の確立との関連で、今後も注目する必要があります。 司法制度改革推進法成立後の取り組みについて、引き続き注目し、取組みを進めます。 (3) 国会の憲法調査会設置の動きに注目し、働きかけを強化する視点 2000年7月29日、衆議院本会議で国会に憲法調査会を設置する国会法改正案が可決成立し、国会の場で憲法改正が是か非かの論議が開始され、2年を経過しつつあります。アフガニスタンへの軍事的活動に日本の自衛隊も関与しつつあります。人権政策の確立を目指し活動する人権フォーラム21にとっても、21世紀の日本国憲法のあり方論議は、大いに注目すべき課題です。とりわけ日本国憲法の基本的原理、すなわち国民主権、平和主義、基本的人権の保障の原則はより大切にされなければならないものの、人権に関する立法不作為(人権保障に関する法律が僅少)が放置されたままの現状は、すみやかに改革していかなければなりません。 その意味でも、国会での憲法調査会の論議に注目し、平和フォーラム(平和・人権・環境フォーラム)のとりくみとも連携しつつ、各政党及び国会議員各位への働きかけを強化します。 (4)各地の自治体の動きに注目し、働きかけを強化する視点 近年、地方自治体の人権政策が大きく前進しています。部落解放基本法制定要求中央実行委員会の調べでも、19990年以後、部落差別撤廃をはじめとする人権擁護条例を新たに制定し、部落差別撤廃をはじめとする人権擁護宣言を採択した府県は12にものぼり、590以上の市町村で条例が制定されています。 一方、大阪府の人権室設置をはじめ、川崎市やニセコ町などいくつかの自治体で長年にわたって蓄積された経験をベースに、人権行政を統括する部局づくりが進められています。大阪府は2001年4月に人権政策指針を策定し、公表しました。また東京都や埼玉県、北海道などでは、男女共同参画条例づくりが先進的に進められ、男女共同参画基本法の施行を受け各地で女性行政が前進しつつあります。「人権教育のための国連10年」の推進にかかわっても、約30都府県で推進本部が設置され約、20府県で行動計画が策定されるに至っています。さらには2001年10月には、浜松市を中心に日系ブラジル人が集積する13市町の首長が集まり、「外国人集積都市会議」が開かれ、在日外国人の人権保障に向けた自治体行政の課題と方向について提言を発表しました。 自治体の人権政策の特徴は、それが「人権のまちづくり」という課題と結びついて展開されていることであり、人権政策はまちづくりの一環でもあります。人権フォーラム21としても、これらの自治体の新しい動きに注目し、人権行政の地方分権化の課題についても、積極的にとりくみます。 (5) 国内の人権NGO、労組、市民団体との連携を強化する視点 2000から2001年には、組織犯罪対策措置法(いわゆる盗聴法)や不正アクセス防止法の施行などの危険な動きの一方で、人権教育・啓発推進法や犯罪被害者救済基本法、児童虐待防止法、ストーカー規正法、DV(ドメスティック・バイオレンス)防止法など、人権政策の進展に関わりの深い法律が成立・施行されました。2002年には、先に述べた人権救済立法(仮称)や個人情報保護基本法案、サイバー犯罪防止条約(EU)の批准案件など、人権政策推進にとって重要な法案が準備されています。 日本の人権政策確立にむけ、引き続き部落解放同盟をはじめJK(人権施策確立にむけた共同行動)、IMADR-JC(反差別国際運動日本委員会)、国際人権NGOネットワーク、市民のための政策調査会(市民政調)、平和フォーラム(平和・人権・環境フォーラム)など国内の人権NGOとの連携をいっそう強化し、人権擁護推進審議会の審議への関心を高めるとともに、人権政策確立に向けた市民サイドの政策提言活動を強めます。 (6) 国連を中心とする国際社会の動きに注目し、連携を強化する視点 2000年には、人権の伸長と保護に関する国際会議が数多く開催され、それぞれの場で日本の人権政策が問い直されました。つづく2001年には、8月の反人種主義・差別撤廃世界会議(南アフリカ)が開催され、社会権規約委員会での日本政府報告書の検討など、21世紀の展望を切り開く重要会議が精力的に開催されました。2002年には、国連の提唱する「アジア太平洋障害者の10年」の最終年であり、いよいよ障害者差別撤廃条約(仮称)の制定を求める動きが高まってきます。 また1993年に国連絵会が「国家機関の地位に関する原則」(いわゆる「パリ原則」)を採択し、国内人権機関の機能と権限についてガイドラインを示したことから、世界各国では国内人権機関の設置がますます盛んになっていますが、アジア太平洋地域でも、政府から独立した国内人権機関づくりが前進し2001年中には、タイと韓国とマレーシアで人権委員会がスタートしました。 人権フォーラム21では、1998年にジャカルタで開催された「アジア・太平洋国内人権機関フォーラム」の第3回年次会合から、毎年この年次会合に代表を派遣し、アジア・太平洋地域の国内人権機関や海外の人権NGOとの連携を強化してきましたが、引き続き国連を中心とする国際社会の動きに注目します。 1 日本の人権政策の確立をめざし調査・研究にとりくみます (1) 合同部会、教育・啓発部会、規制救済部会を定期的に開催し、日本の人権政策確立にむけた政策立案と提言活動を、強化します。 (2) 規制救済部会では、「人権政策提言」の拡充にとりくみ、国際社会の人権政策の動向にも注目しつつ日本における被害者の保護・救済のあり方について、引き続き検討をすすめます。 (3) 教育・啓発部会では、人権教育・啓発推進法の成立をふまえ、先の提言(5つの原則と7つの提言)の具体化の方策について、引き続き研究・討議し、教育分野における人権政策の確立をめざします。また教育改革国民会議答申への提言活動にも取組みます。 (4) 国内人権システム国際比較プロジェクト(NMP)は、2000年4月から第2期NMP(国内人権システム国際比較プロジェクト)の活動がスタートしていますが、世界各国の差別撤廃にむけた国内人権システムをめぐる動向の追加調査・研究を取りまとめます。 (5) その他、会員からの意見・提言を積極的に受け止め、幅広く論議を展開します。 2 人権フォーラム21の発展的解消と「人権政策研究会」(仮称)の立ち上げの方向性を模索します 人権フォーラム21は「人権政策提言型NGO」という新しいスタイルを確立し、近年社会的評価も高まっていますが、2002末には解散する予定です。しかし、人権フォーラム21が確立した「人権政策提言型NGO」活動は今後も必要とされるものと思われます。そこで、人権フォーラム21解散後は、これを「人権政策研究会」(仮称)のような形で継続させ、社会的要請に答える必要があります。最後の1年間で、この方向性を模索します。 3 各政党・国会議員への働きかけを強め、国会の場でも人権政策確立にむけた論議の活性化をもとめ、連携を強化します。 (1) 21世紀人権政策勉強会を中心に、各政党・国会議員への働きかけを強め、国会の場でも日本の人権政策確立にむけたとりくみが充実されるよう引き続き連携を強化していきます。また各政党の政策研究会や政策づくりプロジェクトにも積極的に協力し、市民サイドからの政策提言の実現を目指します。 (2) 人権擁護推進審議会や司法制度改革審議会、教育改革国民会議に対し、日本の人権政策確立にむけ引き続き「提言」を提出します。 4 国際的なネットワークを拡大し、国内人権機関整備にむけ各国の人権委員会、人権NGO関係者との対話と共同行動を強めます (1) 国内人権システム国際比較プロジェクト(NMP)の若手研究者らが進める各国の人権NGO・研究者とのネットワークづくりを支援し、人権フォーラム21の国際的なネットワークを拡大します。 (2) 2001年秋に開催が予定されている第6回アジア太平洋地域国内人権機関フォーラム年次会合に代表を派遣し、対話と交流を拡大します。 5 機関紙「人権フォーラム21NEWS LETTER」を定期的に発行するとともに、人権フォーラム21の出版活動を強化します (1) 機関紙「人権フォーラム21NEWS LETTER」の定期刊行(月刊)を引き続きめざします。また、インターネット上のホームページへの情報発信(既にアクセスは1万件を突破)を強化し、同時にメールを活用した「メーリング・リスト」を通じた情報発信を行います。 (2) その他、国内人権システム国際比較プロジェクト(NMP)の成果の報告書、「グローバル企業と人権政策」など、時宜を得た出版企画をブックレットや単行本などとして刊行します。 6 人権フォーラム21の諸活動を広め会員拡大に取り組むとともに、財政基盤確立に向けたとりくみを強めます (1) 人権フォーラム21の諸活動を広めるため、わかりやすいリーフレットを配布し、会員一人ひとりが積極的に会員拡大にとりくみます。 (2) 財政基盤確立に向け、カンパ活動と会員拡大の取組みを強めます。また政策立案・提言活動への各種の支援活動の充実強化にむけ働きかけを強めます。 |
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