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定例研究会



第45回 定例研究会




バングラデシュ農村の環境問題
   −アジア砒素ネットワークの活動から見えたこと−

川原 一之氏



 平成20年度の3回目の定例研究会は、アジアヒ素ネットワーク(AAN)の川原一之氏を講師にお迎えし、下記の要領で開催いたします。
 川原さんは、AANの事務局長、ダッカ事務所長、JICA専門家として、バングラデシュの井戸水ヒ素汚染問題に取り組んでこられました。そのなかで、直面された生活環境や貧困や脆弱な行政や医療体勢などの問題を含めてお話しいただきます。川原さんには本会が海外技術協力活動を進めるうえで、これまでにもたいへんお世話になってきましたが、今回のご講演で学ばせていただくことは少なくないと思っております。ご案内が遅くなりましたが、ふるってご参加いただきましようお願いいたします。

日時:平成21年3月4日(水) 18 時30 分〜 20 時30 分
場所: TOTO スーパースペース(新宿エルタワー26 階)
    プレゼンテーションルーム
    JR 新宿駅西口より徒歩5分、電話: 03-3345-1010
講師:川原 一之氏
演題:バングラデシュ農村の環境問題
   −アジア砒素ネットワークの活動から見えたこと−

川原一之氏略歴:記録作家、1969年早稲田大学卒業、朝日新聞社記者を経て、宮崎県土呂久鉱毒被害者の支援活動に参加、94年にアジアヒ素ネットワークを設立、アジア全体のヒ素汚染の調査、対策に取り組む。著書『浄土むら土呂久』『針穴からみたニッポン』『土呂久羅漢』『アートは君のハンディのなかに−宮崎どんこや物語』『アジアに共に歩む人がいる−ヒ素汚染にいどむ』『闇こそ砦―上野英信の軌跡』他(この略歴は『アジアに共に歩む人がいる』の巻末を参照しました)

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第45回 定例研究会
バングラデシュ農村の環境問題
 −アジアヒ素ネットワークの活動から見えたこと−

本会会員  高村 哲

 3月4日(水)、第45回定例研究会に参加しました。講師をしていただいたアジアヒ素ネットワーク(AAN)の川原一之氏は、AANの事務局長、ダッカ事務所長、JICA専門家として、バングラデシュの井戸水ヒ素汚染問題に取り組んでこられ、本会の海外活動にも多くの協力をいただいている方です。現場の声を聞ける数少ない機会ですので、お聞きしたことをきちんと踏まえて、これからの活動をやっていきたいという思いで聞かせていただきました。以下にお話の概要をお伝えしたいと思います。

日本とバングラの農村

・ 日本の土呂久(とろく)というヒ素の被害を見てこられた目からは、まずバングラデシュの農村は日本の農村と比べて圧倒的に人が多いと言うこと。バングラデシュの人々も非常に清潔好きであることを、掃き清められた、民家の土間の写真などで説明された。

バングラデシュとインド

・ ガンジス川などの大河の下流に広がったバングラデシュは、上流側のインドとの連携がうまくいかず、自立的に流れのコントロールはできない状態。たとえば、星も見える晴天の深夜に突然大洪水に見舞われ、その原因は、おそらくインド側のダムの放水であろうということがあった。
・ 今分かっているヒ素の出ている地域を世界規模で見ると、大まかにいえば、ヒマラヤ山系より流れ下っている大河の流域に集中している。

バングラデシュにおける安全な飲料水の確保

・ 当初は村の中の池を飲料水に使い、その池は他の用途に一切使用せずに安全性を保っていた。
・ 1980年代にポンプ井戸が急激に広がり、表流水よりも地下水のほうが安全だと言う考え方が支配的となり、ポンプ井戸の普及は98%に達したと言われている。
・ 池の水に慣れ、ポンプでくみあげる地下水は鉄の臭いと味がしてまずくて飲めないと拒否する人も多かったものが、ポンプの水へと変わることにより、人の好みも変わり、今では、池の水よりポンプ井戸の水を好むようになってきている。
・ 日本の場合はヒ素を出すであろう鉱山や産業が近隣にあり、体の異常があれば、すぐにヒ素が原因と気づいたが、バングラデシュの場合、安全と思われていた井戸水が原因だったため、症状が出てもそれがヒ素を原因としたものと気づくのが遅れた。しかもまとまった地域に発生したため、悪性の伝染性の病気と思われ、誤った対応をする時期が長く続き、適切な対応が遅れた。
・ そして1993年、安全な水を得るべく進めてきた井戸の水からヒ素が検出された。

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バングラデシュでの対応

・ ヒ素に対する長期的、最終的な対応は、全戸の水道化と考えている。
・ 中期的な対応としては、コミュニティ型代替水源の確保がある。
・ 短期的には戸別に行っている各種ヒ素除去の試みがあり、各種のフィルターがある。

活動に当たっての問題点

・ 地方には住民サービスのための行政の仕組みが確立していない。
・ 利用住民主体で活動を行い、地方行政がサポートする仕組みが必要。
・ 地域住民たちが、国際機関やNGOなどに援助されることに慣れてしまっており、問題があった場合などそのまま放置されてしまうことも多い。自分たちがオーナーであり、自分たちが維持管理していくという気構えを持つことが、今一番必要。

浅井戸と深井戸

・ 当初、深井戸は汚染されにくいと認識されていた。しかし、浅い帯水層と深い帯水層をへだてる粘土層がない場合、浅い帯水層のヒ素汚染水が深い帯水層に降りてくることになり、当初はヒ素汚染がない深井戸でも、上からヒ素を引っ張ってきてしまうことになる。
・ 飲料用の手動ポンプだと水が集まる範囲は狭いので、場所によっては高濃度のヒ素が検出される。灌漑用の動力ポンプは、広い範囲から水を引っ張ってくるので、それほど高いヒ素汚染は見られないが、汚染されている灌漑井戸の割合は飲料用井戸よりも高い傾向にある。
・ 深井戸の水を飲用するときは、粘土層の存在を認識しておくことが必要だ。

シャムタ村について分かること

・ 村内にある282本のすべての井戸について汚染の有無、その度合いを調べた。
・ ヒ素の汚染はランダムではなく、位置に一定の傾向が見られる。それは、@土地が低いところ、A貧しい家が密集しているところ、B多数の家畜を飼っているところなどで、ヒ素が出やすくなっている。

なぜ最近になってヒ素が出てきたのか?

・ 地下で鉄化合物に吸着・安定していたヒ素が、還元的な条件のもとで鉄化合物から遊離して地下水に溶け出している。還元化は、自然現象+促進要因によってもたらされる。
・ 促進要因とは?
1) 廃水、人間・家畜の屎尿、化学肥料の地下浸透など
2) 微生物の活性化
3) リンがヒ素に代って鉄と吸着することによって、ヒ素が解き放たれてしまう。
・ はっきりとは断言できないが、一般に高濃度のヒ素汚染井戸は、上記の促進要因のある場所と一致していると感じられる。

農村の環境問題への対応

・ 今まであまり目を向けていなかった生活廃水にきちんと対応して行かなければいけない。
・ 魚の養殖に多量の肥料を使っている池は、富栄養の状態になって赤や緑の藻が発生している。このことにも対応していかなければならない。
・ 伝統的なゴミ捨て場であるゴボルでは、牛糞、生ごみ、ワラなどで堆肥を作っているが、機械化により牛糞が減れば、堆肥を作ることも難しくなってゆき、ただのごみ捨て場として放置されてしまう問題も考えるべき。

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ヒ素対策実例の紹介

・ 雨水を貯めるタンクについて
1) 屋根がトタンとコンクリートではない場合、バクテリア汚染の懸念がある。カワラの場合も汚染されるが、カワラの重なり部分に汚染物が堆積するものと考えられる。
2) 5人家族の6ヶ月分で3000リッター用意したが、全世帯が一斉に作らなかったため、近くの親族も利用しに集まり、短期間で水がなくなってしまうことがあった。
3) 雨水は味がないため、ポンプ井戸の水の味に慣れてしまっている人達には不評である。
4) 個人の家にそれぞれ作るものだが、バングラの政府は個人への補助金は出さない。
・ 表流水をサンドフイルターで浄化して使う仕組み:ダグウエルサンドフイルターとポンドサンドフイルター(PSF)がある。
1) PSF用の池はすべて所有者があり、その池をお借りした上で掘りなおして大きくし、底のごみの除去を行う。その際、池の底の粘土層の厚さを確認するためにボーリングなど事前調査を行う必要がある。
2) 池に柵をして飲用以外の使用を禁止する。肥料を与えて魚を飼うことも禁止。
3) 万一池の水がなくなった場合、灌漑用の井戸水を入れてもいいかもしれない。水を入れて1週間から10日程度でヒ素濃度は落ちてくる。ただし水に鉄が含まれていて、ヒ素が鉄化合物に吸着されて沈殿することが条件になる。
・ AIRP(鉄ヒ素除去装置)
1) 150 ppbを超えた原水には効果がない。
2) 鉄を多く含んでいないといけない。
3) リン濃度が低くないといけない。
4) 掃除、洗浄の定期実施が必要。
・ 深井戸(200m程度):浅い帯水層と深い帯水層の間を粘土層で分離していなければいけない。そこにパイプを通す場合、シーリングをセメントで行う必要がある。
・ 簡易水道
1) 300〜500世帯用に設ける。
2) 利用者組合を作り管理人をおき、処理施設に浮いた藻などは毎日取り除く。
3) 地域の人たちや子供たちまで含んだメンテナンス活動があると良い。

最後に

・ 上水、下水、ごみ、屎尿などトータルでセットにして考えて実行していかないと効果は少ない。
・ 1人、1日あたり10リッタルの水がほしい。
・ 地方自治の末端であるユニオンは議会の仕組みであり、ほぼ行政機構を持っていないが、上水、下水、ごみ、屎尿などを担当する人を確保するように働きかけたい。。

 以上報告です。川原さんありがとうございました。

 ※ 本稿作成に当たり、講演者の川原さんに内容について確認させていただきました。感謝申し上げます。

講演される川原一之氏

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