3-4) 現在の鯨関連業種

(1) 鯨肉卸売業

 鮎川に事業所を置いていた大手資本の鯨肉加工・卸売・販売部門は、原則と
して鮎川域外にあったことから、牡鹿には大手資本による捕鯨産物の卸売業は
成立しなかった。
 小型捕鯨に関しては、域内に鯨肉卸売業が存在する。鯨肉卸売業者は小型捕
鯨によって水揚げされた鯨を1頭ごとに競りによって引き落とし、解体し、売
買した。ちなみに、鮎川に水揚げされた鯨は、1984年(昭和59年)には 445ト
ン約 3億5000万円、1986年(昭和61年)には 477トン約 7億2000万円であった。
 現在でも、ツチクジラなどを扱う専門店と思われる店舗が存在する。

 【写真】
  鯨肉販売店(ayu09.gif,ayu10.gif)。
鯨肉販売店 イメージ95K  鯨肉販売店 イメージ121K

(2) 鯨歯加工

 鯨歯加工は、もとは佐賀県(唐津など)において、マッコウクジラのあご骨
を用いた三味線のバチの加工を行っていた職人が、移り住んで来たものである。
当初は、鯨歯を用いた加工は現在のように多彩ではなく、印鑑とパイプが主で
あった。その後1971年(昭和46年)の牡鹿コバルトライン開通に伴う観光客の
増加に対しての特産品創出の気運から、ブローチなどのアクセサリーが製造・
販売されるようになった。
 しかし、それらのうち細工物(彫刻物)の加工は、大阪をはじめとする関西
地方などで、主として象牙加工業者などの手によって行われており、牡鹿町内
で生産されているものは無地物など簡単な加工を施したものにすぎない。牡鹿
における鯨歯加工品販売はみやげ物屋としての性格が強いと言えよう。
 鯨歯加工品の製造販売を行っている店は現在2軒が確認できた(1989年には
3軒であったとされるが、うち1軒は、1996年調査では、営業していることを
確認できなかった)。販売だけを行っている店は、多数存在する。
 原料である鯨歯のストックは少なくなってきており、以前は域外にも販売し
ていた業者も、現在では鮎川でのみ販売するという方針に切り替えているとい
う。しかしながら、鯨歯のストックを持つ業者は、今後の値上がりに伴う収益
増加に期待をかけているようで、原料のストックを持たない業者に対しての優
越感を隠していなかった(この業者は、原料を確保した上で、外部の職人に加
工を委託しているという説明であった)。

 【写真】
  鯨歯加工業の店舗(ayu11.gif〜ayu13.gif)
鯨歯加工業店 イメージ89k 鯨歯加工店 イメージ88K

鯨歯加工店 イメージ94K

(3) 鯨肉小売業

 鮎川で食肉・鮮魚を扱う商店にも、現在では鯨肉を置いていないところが増
えて来ている。逆に、観光客相手のみやげ物屋には、ほぼ例外なく鯨肉あるい
は加工品が置かれている。日常的に買い物をするための地元向けの店の中には
鯨肉を常時在庫していると思われる店も存在するが、しかしその店の存在は必
ずしも地元民にも知られているとは限らないようである。町内での聞き取り調
査によると、鮮魚店などで鯨肉が入手できることを知らない町民も多く存在し
た。それらの人々の説明は「鯨肉は入手が困難であり、鮮魚店などでは入手で
きない」というもので、鯨肉が必要な時にどうするのかと尋ねたところ、「な
ければないで困らないが、どうしても必要な時には、みやげ物屋で買う」とし
ていた。また、みやげ物屋でのヒアリングでも、町の人がたまに買いに来るこ
とがあるということであった。もちろんみやげ物屋の鯨肉は鮮魚店よりも、若
干は割高である。このことは、現実には鮎川町民はすでにあまり鯨肉を食べて
いないのではないかと疑わせるに足りる事実である。

 置かれている鯨肉は、ミンククジラのブロック肉・ベーコン・皮・ツチクジ
ラのブロック肉などであった。鮎川浜の特徴的食習慣とされるマッコウ鯨肉に
ついては、1989年調査では発見できたが、1996年調査では発見できなかった。
また、加工品として、干鯨や缶詰なども置かれていた。
 加工品の中には、鯨種の明記がないものも多い。これらを加工している石巻
市内の加工業者によると、原料は千葉和田浦産のツチクジラなどが多いという。
また、缶詰にも、千葉産のものが多かった。
 缶詰など古くから存在する加工品以外のものについては、業者が新商品開発
として1986年(昭和61年)頃から製造に乗り出したものである。

 なお、調査捕鯨によるミンク肉は、牡鹿町民の希望者に配給されている。
 赤肉の価格は1991年末でキロあたり3000円、1992年夏・1993年夏/末で3300
円、1994年夏以降が3600円であった。また、世帯当たりの配給量には上限があ
るが、これは配給のたびに多少異なる模様である(世帯当たり 5キログラムと
いうのが標準であると思われる)。また、民宿・旅館・ホテルなどには、別枠
で供給があるという(1991年末は、配給総量は10トン、うち 9.5トンが一般家
庭用、残りが民宿及び給食用とされた。1992年末は、配給総量は10トンだが、
一般家庭用にまわされたのは 8トンで、残り 2トンは観光業者や各種行事用に
充てたという)。
 町民のうち鯨肉販売を申し込む希望者は98%にも達するという。しかしなが
らその鯨肉は必ずしも自家消費するとは限らないという証言もある。牡鹿町外
に住む親族などに送る場合があるほか、配給を受けた上で自家消費をせずにみ
やげ物屋などに転売するケースもあるそうだ(ちなみに、1996年でのさしみ用
ミンク赤肉の、鮎川の鮮魚店において確認した小売価格は、キロあたり8000円
前後。配給価格の実に倍以上に達する)。
 ほかに、1993年夏の配給ではミンク皮 1.6トンも配給された(それ以外の時
期の報道からは、ミンク皮の配給があったということは発見できなかった)。

 更に、「ヤミ鯨肉」が存在することを教えてくれた町民もいたことを付記し
ておく。ただし、その「ヤミ鯨肉」の鯨種や入手方法についてははっきりとし
たことはわからなかったし、存在を確認することもできなかった。この件につ
いては、「真相は不明である」と言うよりほかはない。

 【写真】
  観光客向けのみやげもの店。域外に鯨肉を宅急便で配送するといったサー
  ビスも行われている(ayu14.gif〜ayu17.gif)。
土産物店 イメージ86K 土産物店 イメージ72K

土産物店 イメージ74K 土産物店 イメージ97K

  店頭にある缶詰には千葉県産のものが多い。撮影地は金華山(ayu18.gif)。
土産物 イメージ77K

(4) その他の鯨関連産品〜菓子類・木彫品

 鮎川では、鯨にちなんだものとして、鯨饅頭や鯨羊羹などが製造され、主と
して観光客を対象に販売されている。たとえば、菓子製造業「甘味堂」などが
製造販売している鯨饅頭は、1955年(昭和30年)に開発されたものであるとい
う。更に、鯨のかたちをした焼き菓子や、同じく鯨の尾のかたちをしたチョコ
レート・鯨の絵を描いたクッキーなど、鯨にちなんだみやげ物用の菓子類は続
々開発されている。これらの菓子類中には、鮎川浜内で生産されているものも
ある。

 ほかに、鯨にちなんだものとしては、鯨木工品がある。これは、1989年暮に
和歌山県太地から講師を招いて鯨木彫の講習会を開催したのをきっかけにはじ
められたもの。町おこしグループ「鯨友会」が中心となって生産している。特
産品としての定着を目指しているが、まだあまり販売している店舗は多いよう
にはみえなかった。ただし、この鯨木彫は、鯨歯加工品とは異なり、牡鹿町内
で生産されているものであり、地場産業として育つことを期待できるものと言
えよう。町役場のロビーにも飾られており、今後更に強力なテコ入れがなされ
ることを期待したい。

 【写真】
  鯨饅頭の製造元(ayu19.gif)。
鯨饅頭屋 イメージ99K
  町営国民宿舎コバルト荘のみやげもの。Tシャツとのれん(ayu20.gif)。
Tシャツ写真イメージ96K

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