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インタビュー

珠洲に通い、『ためされた地方自治』を書いた

山秋 真さん

  • 2009.05.25
  • 聞き手:竹内 絢
  • 撮 影:常見藤代

山秋 真さん

出会えた扉はたたいてみる

 石川県珠洲市。以前、ここは原発予定地だった。2003年にその計画が「凍結」されるまでの29年間、珠洲の人々は翻弄され続けた。
 1993年の春、珠洲市に住む友人から「市長選の手伝いにきてよ」と電話があった。山秋さんは、選挙への好奇心と「なんとなく原発好きじゃないし」という気持ちで珠洲に向かった。原発推進派と反対派の一騎打ちとなった珠洲市長選挙。うぐいす嬢、ビラ配り、原発を推進する人々からの妨害…、初めてのことばかり。同時に、この選挙がいかに重要なものか、身をもって知っていく。
 珠洲では「安定的な電力供給」の大義のために原発建設が計画され、その是非を争点に激しい選挙戦が繰り広げられている。「原発反対」の声を上げると、有形無形の圧力がある。都会と比べ濃密で狭い人間関係が「賛成」「反対」で分断される。なのに、「いのちをすり減らしてつくっとる電気」を使う人々はその事実も、珠洲のことも知らない…。山秋さんは、自分の変化と珠洲に対しての恥ずかしさと申し訳なさを感じ始めていた。
 市長選の投票率は92・41%。「珠洲原発反対ネットワーク」が擁立した候補は958票差で負けてしまった。間もなく、無効票の数が合わないと連絡が入る。しかも関連書類の確認を選挙管理委員会の知らぬ間に、市役所職員が密室で行っていた。「珠洲にも選挙監視団きてくれんかのぉ」と何度も聞いた言葉を、山秋さんは思い出していた。そして、選挙の無効を求めて裁判が起こされた。

 交換留学でアメリカの大学に通い、コミュニケーション学やメディア学、社会学を学んだ。夏休みにはスリーマイル島を旅した。卒業論文のテーマは「原発報道」。美浜原発事故の新聞報道を比較し、反原発を訴える市民に取材をした。人づてにたどり着いたのが珠洲で、それ以後、つながりができた。
 大学卒業後は世界を旅しようと思っていたが、珠洲の選挙の混乱を見て、方針を変えた。珠洲で起きた「ひどいこと」の背景を知りたい、と少しずつ記録を始めた。「とりあえず10年は自分に許そう」と思った。96年に最高裁で選挙無効判決が出され、やり直し選挙が行われた。しかし、原発反対派は裁判に勝っても選挙には勝てなかった。
 珠洲では原発予定地を舞台にしてもう一つの事件が起きていた。関西電力、清水建設など大手ゼネコンやそのダミー会社などが絡んだ土地売買だ。同じ土地について二重の契約書を作り、複雑な取引を行っていた。関電は土地を入手し、所有者だった人が脱税で摘発された。
 その裁判が99年から横浜地裁で始まり、山秋さんは翻訳業の傍ら傍聴に通い、情報を珠洲に届けた。同じ穴のムジナの片方が罰せられ、片方(関電)は何の罪にも問われなかった。
 多忙な日々が過ぎ、自分に与えた10年がたとうとしていた。
 「このままじゃいけない、と思って仕事を2カ月休み、原稿を書いた。でもまだ足りない、描ききれてない、と思っていた」

続きは本誌で...

やまあき しん

1970年神奈川県生まれ。ステージアートにあこがれて日本大学芸術学部に進む。著書に『ためされた地方自治 原発の代理戦争にゆれた能登半島・珠洲市民の13年』(桂書房)。2008年度やよりジャーナリスト賞受賞。
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