高島さんが初めて長島に行ったのは86年。「反対する人の気持ちが知りたくて」島民の9割が建設に反対する長島対岸の祝島へ。「すごく重かった。島の人はやさしいけど、底にある生活の厳しさは出しちゃあない。外にいる私が現地で感じ取るしかないなと。今も島に行く時は、懐かしさ半分、自分を問い直し、襟を正す気持ちになる」。
しかし長島の自然の美しさには驚いた。「物心ついた時、広島の海は埋め立てと汚染で遊泳禁止。瀬戸内海は濁って汚いって思ってたのに、エメラルドグリーンの海が広がっててね」。
99年に中電から環境影響調査書が出た。どうもおかしい。祝島島民の一人は「スナメリのことが書いてない。ハヤブサもあの辺りでよう見るから巣があるんじゃないかのお」と言った。スナメリはワシントン条約保護動物、ハヤブサは環境省準絶滅危惧種。高島さんは早速報告書の内容を分野別に専門家に送った。そして現地調査に来た専門家はびっくり。加藤真さん(京都大学教員)は「高島さん、ここは世界遺産にするところですよ」と叫んだ。埋立予定地の長島・田ノ浦湾は、豊後水道からの黒潮と関門海峡からの潮流が合流し、周囲の広葉樹林からの湧水が出る地理的条件に加え、埋め立てや海砂採取などの開発からも逃れた、希少生物が多く存在する「生物多様性のホットスポット」だったのだ。
「ここは原発だろうがリゾートだろうが作らせちゃいけない。この自然を守るのがライフワークになる」と、99年に高島さんは仲間と「長島の自然を守る会」を設立した。地元漁師の協力も得て調べるほど希少な生き物たちを発見していく。カンムリウミスズメ(世界自然保護連合〈IUCN〉指定絶滅危惧種)は世界で唯一、周年の生息を確認した。オオミズナギドリ(山口県準絶滅危惧種)が夜中に鳴き交わす声の位置を確認し、翌朝船をチャーターして岩によじ登り、ヒナを発見。世界初の「内海での繁殖」を確認した。