在日朝鮮・韓国人が多く暮らす、神奈川県川崎市の教会。その小さな会場に、在日朝鮮人の壮絶な百年の歴史を描いた芝居「在日バイタルチェック」を見ようと多くの人々が集まった。
舞台にライトが灯ると、〝日本の植民地〟済州島の子どもの海女が現れ、「日本に出稼ぎに行く」と語る…。次の場面は、大阪のデイサービスに通う90歳のハルモニ(おばあさん)。このハルモニは海女の75年後だ。在日2世の職員と新人職員もいて、ハラボジ(おじいさん)に少年も…。次々に多様な人物が登場するが、演じているのはたった一人。老若男女、変幻自在に演じられる役者、それがきむきがんさんだ。
きがんさんの熱演に会場は笑いと涙に包まれた。踊ったり、椅子から飛び降りたり、時には観客を舞台に引っ張りこむ。小柄なからだから溢れ出るパワーにこちらも力がわいてくる。
きがんさんは、大阪市生野区で生まれ育った在日朝鮮人3世。高校まで日本の学校に通う。多かれ少なかれ差別は受けたが、在日が多い地域なので、民族的なアイデンティティーで悩んだことはなかった。通名を使っていたが、高校3年生の時「今日から本名でいく」と宣言した。
高校卒業後は無認可保育所や障害者施設、学童保育で働いた。ある時、地域の祭りの「生野民族文化祭」のマダン劇(朝鮮半島に伝わる民衆劇)に出たが、その過程で仲間たちが解放されていくのを見て感動した。 「芝居の力はすごい。通名を使い、がまんして仕事ばっかりしてる人の心が解放され、顔が生き生きとしてくるんです。マダン劇はほんまに生きていくための芸術と思うんですよ」
これをきっかけに細々と演劇を続けていこうと決意した。
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