電通事件 なぜ死ぬまで働かなければならないのか
北健一 著
|
- 電通事件 なぜ死ぬまで働かなければならないのか
- 北健一 著
- 旬報社1000円
|
|
「過労死」と言う言葉がそのまま世界で通用するほど過酷な日本の労働現場。電通に入社して10カ月後に自殺した高橋まつりさんの事件は悲しい。「鬼十則」「クライアントファースト」の下に月100時間を超える残業とパワハラ・セクハラが彼女を死に追い込んだ。
日本最大の広告代理店。広告を作り、売るだけでなく、マスコミを支配するほど入り込み、原発や五輪招致に関わるなど闇の部分も。本書は電通の成り立ち、体育会的社風、抱える闇など電通固有の問題から、死ぬまで働かせる日本企業共通の問題へと迫る。さらに安倍政権の「働き方改革」が成長戦略から志向され、労働者を成果で評価、一層の競争主義に追い込むのが狙いであると暴露。
過労死自死に追い込まれた家族の悲痛な闘いが過労死防止法を成立させた(2014年)ことから、労働組合の闘いや会社の取り組みによって働き方を変えうる可能性を提示。人間らしい働き方を求めてやるべきことはたくさんある。(の)
- ねえ君、不思議だと思いませんか?
- 池内了 著
- 而立書房1900円
|
|
早くから軍学共同に警告を発してきた著者が3つの媒体に書いてきた小文がまとまった。科学をめぐる状況について批判的エッセンスにあふれた文章で、古代の先端技術や町工場の技術にふれ、地下資源文明(化石燃料)から地上資源文明への転換(グリーン・イノベーション)を提唱、科学者・技術者の社会的責任にも言及する。
現代の科学は要素還元主義(問題の単純化)に立ち、新発見に過大な価値を置く。著者は、ノーベル物理学賞受賞のヒッグス粒子発見について、たった1個の粒子に数千人の優秀な頭脳を動員し、数千億円もかけるのは異様ではないかと書く。
福島原発事故を契機に、科学は、気象や生態系、人体などの複雑系を対象とし、地味でささやかな努力の積み上げを評価し、長い未来を見通すものへと変化すべきという。故・高木仁三郎の掲げた「市民科学」こそ今後の科学者の目標であり、残された人生をその確立に寄与したいとする著者のこれからに期待したい。(ね)
- 「N女」の研究
- 中村安希 著
- フィルムアート社1700円
|
|
とあるNPO法人で、NPOや社会的企業などソーシャルセクターで働く女性たちを「N女」と称していると知った著者は、彼女らの多くが高学歴で大手企業に在籍経験を持ちながら、なぜ今、N女として働く道を選んだのかに注目。難民支援、教育改革、ホームレスのサポートなどに取り組む職場で働く10人のN女を取材した。かつて「育児も仕事も両方とるのは贅沢」と言われ悩んだり、現在夫が休職中など、さまざまな課題を乗り越えつつ、今日本で起きている現実と向き合い、具体的に行動に移そうと奮闘するN女を通し、著者は女性の生き方として「自己犠牲しない」「人々に伝わる言葉で問題を社会化する」「人は自分と違うという事実を受け止める」「立場の違いを越えて利害の異なる誰かのために一緒に戦う」の4つのヒントを見出した。
N女たちの柔軟な生き方が、多様な価値観が存在し、出口が見えづらい現代の日本で、新しい突破口になるのかもしれない。(タ)