- 男子の権力
- 片田孫朝日 著
- 京都大学学術出版会3800円
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なぜ小学校では「ばかで自分勝手な」男子の振る舞いが主流文化となり、女子の声は聞かれないのか? 著者は学童クラブでの観察と会話分析から、男子文化が強化され覇権にいたる様を描き出す。
1990年代のジェンダーフリー教育の台頭により、教育・保育の現場ではあからさまな「男らしく」「女らしく」の声は聞かれなくなったが、いまだに女子が排斥されがちなのはなぜか。本書の答えは衝撃的だ。いまの教育現場で中心的な、個性や自主性を重んじる「児童中心主義」が、逆に権力構造を不可視化しているというのだ。自発的な活動は否定されにくく、生じた問題は個々人の成長課題と解釈されるためだ。
巻末には提言がまとめられ、教師や指導員の実践次第では、例えばスポーツ好きの「かっこいい」女子文化が芽生えることも示唆されており興味深い。個人的には「ばかで自分勝手な」女子たちが作る主流文化を見てみたいが、道のりはまだまだ長そうだ。(希)
追跡・沖縄の枯れ葉剤 埋もれた戦争犯罪を掘り起こす
ジョン・ミッチェル 著 阿部小涼 訳
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- 追跡・沖縄の枯れ葉剤 埋もれた戦争犯罪を掘り起こす
- ジョン・ミッチェル 著 阿部小涼 訳
- 高文研1800円
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2013年6月、米軍基地が密集する沖縄市のサッカー場で、錆びた大量のドラム缶が発見された。中身は「エージェント・オレンジ」。ベトナム戦争で大量に散布され、多くの被害者を出した、あの枯れ葉剤だ。なぜ、沖縄にあるのか。以前から関心を持っていたジャーナリストの著者が、謎に迫る。
米軍は当初第2次大戦で化学兵器として枯れ葉剤を使う予定が、「マンハッタン計画」に先を越されたため、次の機会(ベトナム戦争)での使用を狙った。その中継地点が沖縄だった。そしてベトナムだけでなく、沖縄駐留の米兵にも酷い被害をもたらした。著者がSNSなどを駆使して証言者を探す過程で語られた、「米軍は被害者みんなが死ぬのを待っている」という被害者の言葉は、元「慰安婦」たちへの日本政府の仕打ちを連想させる。
調査は、軍の中にも協力者を生み、沖縄での保管・使用を否定する米軍の嘘を暴き、新事実が次々明らかになる。「戦争をしたい」日本への警告でもある。(三)
革命のつくり方 台湾ひまわり運動 対抗運動の創造性
港千尋 著
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- 革命のつくり方 台湾ひまわり運動 対抗運動の創造性
- 港千尋 著
- インスクリプト2200円
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2014年3月、台湾で、国の最高立法機関である立法院が、学生たちによって585時間にわたり占拠された。中国との「サービス貿易協定」をめぐる一方的な審議打ち切りへの抗議だが、代議制への危機感を募らせた若者たちの非暴力の運動は、シンボルとなったひまわりの花にちなんで「太陽花運動(ひまわり学生運動)」と呼ばれた。最終的には立法院院長が学生側の要求に応じると表明し、占拠活動は終息するが、世界各地でデモなどを見続けてきた著者は、現場に立ち会い、「革命の可能性」を感じたという。
占拠した道路の中には非常用通路がつくられ、車椅子や急病人など“弱者”への配慮が見られた。医療者が常駐した診療部や、10カ国語に対応できる翻訳部もあり、新聞、絵や版画、歌があった。著者が撮影した群衆と場所・物の写真はまるで空間芸術のようだ。こんな革命をつくりたいと思わせる、市民運動に参考になるヒントが随所にちりばめられている。(ぱ)