- 永山則夫 封印された鑑定記録
- 堀川惠子 著
- 岩波書店2100円
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犯行当時19歳の連続射殺魔、永山則夫の死刑執行から16年。その心の闇に迫った著者渾身の書。
著者は2012年に永山が100時間にわたって語った録音テープの存在を突き止めた。石川義博医師による精神鑑定の録音だ。「カウンセリング」の方法を取り、思想でなく、自分の言葉で思いを語らせた。父の酒乱、母親のネグレクト、子どもだけで極寒の地でゴミを漁った日々、兄からのリンチ…。当時日本で知られていない「PTSD」を認定。貧困が生んだ事件とされ、「金ほしさ」の犯行動機も、「母、兄たちへの当てつけ」が浮かび上がる。母もまた、親からネグレクトされていたという虐待の連鎖も明らかに。そして鑑定の過程で穏やかさを取り戻す永山。
結局、この画期的な鑑定は最高裁に一蹴された。司法の場で評価されていたら今頃少年事件で違う判決が出ているにちがいない。裁判員裁判の今こそ「被告人を事件に向かわせた根本的な問題」に向き合う必要性が切に伝わる。(登)
モンスター食品」が世界を食いつくす! 遺伝子組み換えテクノロジーがもたらす悪夢
船瀬俊介 著
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- モンスター食品」が世界を食いつくす! 遺伝子組み換えテクノロジーがもたらす悪夢
- 船瀬俊介 著
- イースト・プレス1500円
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将来の社会を考えたとき、防衛問題とともに米国主導のTPP加入に背筋が寒くなる。食や環境に警鐘を鳴らした『買ってはいけない』を共同執筆した著者は、刺激的な言葉で強い危機感を示す。
多くの化学物質が蔓延する食物や飼料の中でも、遺伝子組み換え技術は空恐ろしさの最たるものだ。モンサント社の飼料用「キング・コーン」は成長が早く害虫がつかないことがウリ。米国内では大きなシェアを占め、政府から助成金も出ているという。
さらに、羽根がないから処理しやすい「ヌード・チキン」、人間の母乳と同じ成分を出す乳牛などが例として紹介。人間の都合で遺伝子を組み換えて「改良」されたもの。
モンスター食品には、農薬と種子、医薬品業界のグローバルな巨大企業の力が働く。著者はこれに、多品種・伝統品種の生産、地域に根付いた流通システムで対抗しようと説く。(三)
失業・半失業者が暮らせる制度の構築 雇用崩壊からの脱却
後藤道夫、布川日佐史、福祉国家構想研究会 編
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- 失業・半失業者が暮らせる制度の構築 雇用崩壊からの脱却
- 後藤道夫、布川日佐史、福祉国家構想研究会 編
- 大月書店2200円
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この十数年の貧困化の要因は労働市場の急激な劣化と失業時保障の脆弱性にある。本書では生活保護制度などの他制度も分析し、失業時保障の改善案を提示する。
生活困難な低賃金や労働時間の超過などで持続困難と感じているのに、やむなく働き続けている「半失業者」は失業者として統計にカウントされない。これらを含めて算出すると、13%というヨーロッパ並みの失業率が出る。本書では、失業時の生活扶助に加え、求職活動費支給、住宅費、冬期加算や妊婦、母子、障がい者などへの加算を前提に、生活保護との分担、福祉事務所との連携を提案し、政府予算に基づいた試算も行う。
雇用保険をはじめ日本の諸制度は生活保障の機能を果たさない。現在の生活保護バッシングは、もはや自分も無関係ではいられなくなるであろう、多くの低所得層の恐怖や不安の顕れであると本書はいう。数値や表はやや難しい感もあるが、今後の議論の参考にぜひ一読を。(梅)