若者が無縁化する 仕事・福祉・コミュニティでつなぐ
宮本みち子 著
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- 若者が無縁化する 仕事・福祉・コミュニティでつなぐ
- 宮本みち子 著
- 筑摩書房760円
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日本では雇用の点でも社会保障の点でも若者が不利な立場に立たされている。特に、その中でも恵まれない条件にある若者が困難を抱えていると著者は言う。
「子どもの貧困」は常識となった。だが彼らのその後は? 高校中退者が増加し、就労できない若者が増加している。
若者の困難が早く顕在化したイギリスやデンマークなど欧州の若者支援の取り組みを紹介しつつ、日本で望まれる施策を検討する。
今日本では民間委託の「地域若者サポートステーション」など、孤立する若者の自立支援へ向けた取り組みが始まっている。しかし問題はそれだけでは終わらない。長いひきこもりや精神的な問題を抱える若者には、中間的な就労や居場所など多様なメニューが必要だ。
持続可能な社会をつくるためには、次の社会の担い手である若者の問題を避けては通れない。そのためには、現在高齢世代に偏っている社会保障を幾分か削減する覚悟が求められる。(衣)
- 主婦と労働のもつれ その争点と運動
- 村上潔 著
- 洛北出版3200円
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いわゆる主婦論争に見られるように、主婦は外でも働くべきか、いや家事育児に専念すべきか、働かないからこそ意義ある活動に打ち込むのか、あるいは働かざるをえないといったように、主婦と「働くこと」のつながり方はさまざまである。本書では外側からの評価・規定もおさえつつ、主婦当事者が主婦であることの葛藤をどう見つめ、社会との関わりをどう捉えているかという内側からの視線をひろいあげることで、主婦と労働とのもつれを丹念に描きだす。
社会が強要する、子を産み、育て、家族責任を果たすべきという「主婦的状況」は主婦に留まらず女を外側からも内側からも縛る。男女雇用機会均等法やワークライフバランスなど「男女平等」を推し進めているかにみえる制度整備は、その恩恵を受ける層と、そこからこぼれおちるパート主婦を含めた非正規女性労働者との格差を一層広げているが、それは女の労働の問題。「主婦」問題のもつ普遍性に気づかされる。(ま)
ホッテントット・ヴィーナス ある物語
B・チェイス=リボウ 著 井野瀬久美惠 監訳
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- ホッテントット・ヴィーナス ある物語
- B・チェイス=リボウ 著 井野瀬久美惠 監訳
- 法政大学出版局3800円
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19世紀、「ホッテントット・ヴィーナス」という見世物にされる黒人女性が、自身の「声」で語る歴史小説。「白人」による大虐殺から生き残った主人公は、アフリカに残っても銃で殺されるか、絶望で死ぬかだと思った。そして「奴隷制度のない社会」を目指して旅立つ。しかし行き着いたところも白人たちの社会。彼女の身体を見世物として、また科学研究の対象動物として扱う白人の男たち。さらに「白い黒人」たちは彼女を、養護の対象であり主体性のない存在として扱う。彼女の沈黙と反抗し拒絶する語りに、胸を打たれる。
次々と人種差別と性差別に遭うが、路上で拾った貧しい白人女性との友愛は希望に満ちている。著者は彼女に「声」を与え、また女たちの共闘を描きつつも、圧倒的な権力を持っている白人男性中心の歴史によって容赦なく敗北させる。しかし、だからこそこの物語の後半は大逆転を見せるのだ。自由をあきらめない主人公の語りは、何度も読み返したい。(み)