@Fukushima 私たちの望むものは
高田昌幸 編
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- @Fukushima 私たちの望むものは
- 高田昌幸 編
- 産学社1700円
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東日本大震災から1年が過ぎた。原発事故以来、マスコミで繰り広げられる復興ムードの中で、拾われなかった多くの声がある。本書では様々な人への聞き書きを通じ、その声に耳を傾けている。
事故当初、家族のように育てた牛を泣きながら屠畜に出した酪農家の人たち、モモ園などの観光農家や温泉旅館、原発立地にかかわってきた元大熊町長などの自治体の首長、関西へ避難した母親と子どもたち、震災前と同じように商売を続けるラーメン店主や、水族館の職員etc。それぞれが心に抱える、悔しさ、怒り、悲しみは、1年を過ぎてなお深まっている。
苦しい日々の中で、何がどう変わっていくのか、被災地の人が望むものは何なのか。答えは一様ではない。それでも、この震災、原発事故のことを忘れずに引き継いでいくことができるのは、こうした小さな声を拾い、編み続ける作業ではないかと思う。「聞き書き」の大切さを改めて考えさせられる一冊だった。(梅)
- 超高齢者医療の現場から
- 後藤文夫 著
- 中央公論新社780円
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これが超高齢者医療の現実なのかと暗い気持ちになった。
高齢者施設に囲まれた病院の院長である著者が、現場で見てきた高齢者の問題を赤裸々に報告している。家族の介護放棄、年金流用、財産相続の問題から介護疲れまで、家族のトラブルは絶えることはない。ドクター・ハラスメント、モンスター・ペイシェント、介護職・看護師へのセクハラ、家族のクレーム、スタッフのストレス、介護職の報酬の低さなど、さまざまな問題が起きている。
ころころ変わる医療政策、医師・看護師不足、病院の閉鎖、高齢者入居施設の圧倒的な不足…。解決を要する問題が山積である。
著者は、リビング・ウィルの必要性や、健康に老いるための具体的提案も提示し、「老いと死」の準備は必須だと納得する。個人の心がけは大切だが、抜本的な医療改革は急務だ。このままの状況では安らかに死ねそうにないし、家族の負担はますます増えるばかりと不安になった。(り)
誰でも安心できる医療保障へ 皆保険50年目の岐路
二宮厚美、福祉国家構想研究会 編
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- 誰でも安心できる医療保障へ 皆保険50年目の岐路
- 二宮厚美、福祉国家構想研究会 編
- 大月書店1900円
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いま、消費税を上げて民主党がやろうとしている「社会保障と税の一体化」ってなに? 橋下大阪市長の言う「地方に権限を」は? なんか変だけど、どこが変だとはっきり言えない…。この本は、医療という一つの切り口から、構造改革路線を明らかにするために、かえって全体が見える。
国民皆保険制度は戦後日本のすぐれた政策の一つで、命を守る最後の砦でもある。TPPでアメリカがねらうのは日本の医療保険市場だと言われるが、その先には国民皆保険制度で守られている医療の商品化がある。混合診療や医療ツーリズムの導入、医療と介護の一体化と、貧困層は医療から遠ざけられていく。メタボ健診にみられるように、病気は自己責任の時代。高齢者の慢性病も寝たきりも自己責任。同時に、地域による診療報酬自由化の動きという問題もある。う~ん。この国、やばいかも。医療不信などと言っていないで、医療者と市民、手を組んでこの動きを止めようよ。(矢)