- 福島原発の町と村
- 布施哲也 著
- 出版社:七つ森書館 価格:1,600円
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著者は東京都清瀬市議会の議員を4期務めた人で、「自治体」を視点の中心に据える。双葉町、大熊町など浜通りの町をつぶさに歩くだけでなく、その歴史まで掘り下げ、原発に翻弄されている現在への軌跡を描きだす。例えば相馬地方には、18世紀末の天明の大飢饉以降多くの人々が加賀や能登から飢えを逃れて移り住んだ。営々と荒れ地に水を引き、干拓をし、豊かな実りをもたらす地となったが、今、放射能禍のために他の地へやむなく移住する人々がいる。
原発立地町村の予算からは、電源三法による交付金や固定資産税の割合の高さ、ハコモノだけでなく医療・介護・教育などさまざまな分野にわたる使途を明らかにし、原発にがんじがらめにされている町の様子が手に取るように分かる。
著者は脱原発へと舵を切ることができるのも自治体だと言う。自治体が稼働を了解しなければ運転はできない。国の圧力に抗する自治体を作り上げるのは、もちろん私たちだ。(ま)
- 家族性分業論前哨
- 立岩真也、村上潔 著
- 出版社:生活書院 価格:2,200円
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社会学者・上野千鶴子の代表作の一つ、『家父長制と資本制』について立岩は「正直言って私には全然分からなかった」という。そのことについて子細に検討した何本もの文章をまとめたのが本書。
「愛の神話が女性の労働を搾取してきたイデオロギーだ」という主張について第6章で検討する。ここでは夫と子どもに対する行為を分けて夫婦間に義務は存在しないと導き、フェミニズムの主要な主張として「自己決定」を掲げるなら、その義務を放棄したところから戦略を考えるべきとする。二者間に義務が存在しないので家事労働に対する対価を夫に求めることができるが、第2章で検討したところそれほど多くの支払いはされない。第3章では女性を労働市場から排除することで利益を得ているのは労働の購入者(資本)ではなく男性労働者だと指摘する。
フェミニズムが告発してきた問題は複雑で重層的だ。「解決策」もひとつではない。巻末のブックガイドは非常に役立つ。(竹)
- 橋の上の子ども
- 陳雪 著 白水紀子 訳
- 現代企画室 価格:2,200円
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あなたに会いたい。あなたから逃げたい。恋人を強く欲望する現在の「わたし」と、母を待つ過去の「少女」が共鳴しあう。台湾の市場の風景、食べ物や日用品、服などの露店がびっしりと立ち並び、その人混みをかき分け働く少女の姿に引き込まれる。そのうちに、その過酷な労働と貧しさと不安の痛みから逃れるための少女自身の空想に、いつの間にか導かれていく。
市場の奥まった所にある小さな狭い部屋で母に触れる快感。また、賃金労働の合間に小説を創作する中、異性や同性の恋人に触れる快感。その母娘の関係と恋人との関係が交差し、まるで痛みの記憶から繊細な物語へと橋渡しされる。
主人公が商売をしながら小説を書いていることからも、著者自身の実体験に基づいているかと思われる。主人公は著者自身なのか?心の内側へ、そっと入ってきてほしいと黙って強く求め、そして拒絶する主人公もしくは著者。その魂と情欲に魅了させられる。(み)