<戦争の世紀>を超えてわたくしが生きた昭和の時代
吉武輝子 著
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- <戦争の世紀>を超えて わたくしが生きた昭和の時代
- 吉武輝子 著
- 出版社:春秋社 価格:2,000円
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「戦争への道を許さない女たちの連絡会」の中心的な役割を果たし反戦活動の旗手ともいえる吉武さんの個人史を知る機会になった。1931年生まれの著者は昭和初期に始まった戦争から敗戦まで幼児・青春期を過ごした。世の中が軍事一色に染まっていく恐ろしさを子ども心に感じながらもいつしか「軍国少女」となっていたという。
平和憲法が危なくなっている中で、「時代の語り部は大人の義務」と感じて大学で学生たちに自分の戦争体験を語り、若い学生の心に沁みわたっていくことを体験した。
為政者は教育現場から〈戦争の世紀〉とも言える、明治以降の「現代史」を消し去って責任追及を逃れていると。
20世紀における日本のアジア侵略戦争はいかに非人間的なものであったか、詳細に戦争の実態をあばいている。今後の平和のために、次の世代に平和憲法を引き継ぎたいと強く訴えている。読み手に勇気を与えてくれる一冊。(良)
人生が見張られている!ルポ・「孤独権」侵害の時代
平田剛士 著
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- 人生が見張られている! ルポ・「孤独権」侵害の時代
- 平田剛士 著
- 出版社:現代書館 価格:1,800円
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大相撲の八百長、入試問題の投稿などで、電話会社やプロバイダーが警察に全面協力したと当たり前のように報道される現在。
防犯カメラの点在する商店街で、写真入りTASPOやおさいふ携帯で買い物をし、ETCで高速を通り、Suicaで電車に乗り、指紋認証の家に帰る。これらが住基ネットや電子カルテとつながると、人生はすべて見張られることになる。脱税を防ぐためという国民総背番号制も、タンス預金のようなブラックボックスを作るだけで、市民を守るものにはならない。
消費者を守るというトレーサビリティシステム(物品の流通経路を追跡する)も、人間にICチップが埋め込まれたらと考えると恐ろしいが、受刑者の監視、性犯罪者の監視など、受けのよいところから始まりつつある(今は腕輪や足輪だが)。
便利さと人権ははかりに掛けるしかないのか。著者は法整備なども含め、人権優先の方法をさぐるが、う~ん、むずかしい。(矢)
識字の社会言語学
かどやひでのり、あべやすし 編著
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- 識字の社会言語学
- かどやひでのり、あべやすし 編著
- 出版社:生活書院 価格:2,800円
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日本の識字率は99%といわれ、ほとんどの人はこの数字を疑ったことがないのでは? 本書はあらゆる角度から「高い識字率」の神話を暴き、「誰でも読み書きできるべき」という発想に基づいた社会設計、これまでの識字運動を批判的に検討している。
非識字者は、読み書きできない責任や原因を自分の無能力のせいだと捉える傾向がある。それはひとえに、社会の側(識字者)がそうしたメッセージを発し、また、これまでの識字運動は、個人の能力向上がメーンで、差別を生み出す構造自体を解体する方向でなかったからだ。学習の機会がなかった人や、身体障がい者、外国人など、読み書きできない人々を抑圧しているのは、できないこと自体ではなく、できない人を助けず、孤立させる社会の側の問題なのだ。
最後の章で、識字のユニバーサルデザインが提案される。分かりやすい表現は、誰もが社会の一員として尊重されていると感じられるために、とても大切だ。(竹)