第21回 ボーンセンター露天風呂 「居住地再生」
小林さんは実践的研究者である。ご承知のとおり、定期借地権を活用し、かつ個人の住要求を満たした賃貸住宅を理論化し、そして自ら実践された。後でつくば方式と呼ばれるようになったこの考えには、「所有」価値から「利用」価値への転換が織り込まれ、また、建物についても骨格となる部分(スケルトン)と自由に変えてもいい部分(インフィル)を区別するSI方式への萌芽が見受けられる。当時公団にいた私は、それぞれ勉強会などで別個に制度化に向けた研究会を続けており、小林さんの考えは理論が精緻すぎるのが難点と思っていたが、見事に実現されてしまった。関係者を組織する力や経営感覚がないと難しい仕事である。それ以後、「所有」から解放されたつくば方式は、環境共生等の様々な付加価値を実践する手法として応用されているが、今回は居住地再生への可能性について熱っぽく語られた。

◇講演要旨 ◇

1970年代から80年代には都心に商店街、密集した住宅地そして郊外には整然とした戸建住宅地や集合住宅団地があり、それぞれの地域で活力に満ちた生活が展開していた。それが2000年を境とした人口構成の転換に符号するように住宅地構造も変わってきた(図-1,2)。
大店法の改正などにより、郊外に大規模店舗が出現し中心商店街が寂れる一方、郊外の住宅地は成熟期を通り越して高齢化していった。従来“住宅双六”の上がりとされてきた「郊外一戸建住宅」居住者にも変化が窺われる。そのあたりをアンケートから見たい。平成5年度の調査では郊外に住み続けたいとしながらも、中心市街地集合住宅なら希望する人は70パーセント近くいた。さらに2003年(平成15年)の調査では住み続けるとしても様々な不安が語られる。それは、@住宅そのものの不安〈維持管理など〉、A交通手段などの立地不安、B配偶者が亡くなるなどの家庭運営不安などがあり、「駅近接マンション」や「駅勢圏マンション」への転居派は結構多い。30年以上居住で、駅まで徒歩圏外で、配偶者と非同居の人となると37%が転居希望である。こうした転居派は新宿を中心として20〜30キロ圏の住宅地に多い。今、住宅地の再編が求められている。郊外居住の高齢者が生活に便利な都心のマンションに移り、若い子育て所帯が郊外に移動する(図-3)。居住地再生の考えは所有から利用への転換である。土地を高度利用し、床処分による資金で再開発する「等価交換」から、定期借地による適当な地代負担で建物所有する定期借地権方式への転換である(図-5,6)。このとき再生された市街地住宅に要求されるのは図-6のような条件である。そしてこのうち長持ちし、且つ多様な住まい方に応える技術がスケルトン・インフィル(SI住宅)方式。定期の考え方には30年、50年の区切りが考えられるが、修繕費のピークと考えられる30年を設定し、それまでは建物を全所有、30年の定期切れには建物の骨格部分は地主に返し、内装はそのままに地主から賃貸借して住み続け、60年後全てを解消する、ただ、まだ使用できる状態なら改めて賃貸借契約を結ぶ事になる(図-7)。このとき建物は定期切れで地主1人の所有物となっており、立て替えるとしても1人の判断で済む。この間地主がスケルトン部分を買い戻す時の評価方法やルールはすべて1対1の契約書で織り込んでおく。
このように、土地代が直に事業計画に反映されない定借方式なら、土地容積一杯に建物を建てなくても、需要に応じた、居住環境にも配慮した計画とする事が出来る。小規模でも成立する事から20戸程度でいいから、小規模の計画を連鎖式に展開することで住宅市街地の更新が図れる(図-8)。
そして、幾つかの事例紹介があったが、車椅子使用の人が100平米のワンルーム住宅を造り、家中に手すりを回し、伝い歩きしているうちに歩けるように回復したと言う話もあった。個別に対応した住まいづくりが求められている。さらに、都心居住だけではなく、郊外居住についても可能性は大きい、ということであったがそれはまたの機会に、となった(図-9)。

◇ 討 議 ◇
様々な意見が出されましたが、ストック活用型社会への転換が求められる現在、スケルトン型定期借地方式のメリットは理解されたようです。その中で、@現在の既存団地でスケルトン型の再生はできるのか、A仕組みを説明する時の初動資金はどうするのか、B居住地再生に当たって地主の土地への執着やごね得がある、などの質問が出ました。既存団地では今の躯体は制約が多くスケルトン型の再生は無理であり、また運動体としてはNPO型の組織が考えられないか、さらに地主にとってもメリットのある方式である、などの説明があり、そして千葉大学には法律,建築そして住民参加などに通じた先生方が多く,学内に専門家チームをつくり千葉モデルを検討してもいい、とも発言がありました。存分な活躍を期待し、BORNも協働していきたいと思いました。

(副代表・泉 宏佳)

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