26. 鶴見俊輔『消費者主権』が平和守る」(『朝日新聞』 京都版 2001630日号)(2001/07/05 搭載)

(シリーズ)改革とは  2001年参院選

     Q5 憲法9条、守り通せますか?
 

消費者主権」が平和守る

哲学者 鶴見 俊輔さん   

東京都出身。ハーバード大哲学科卒。日米開戦後、捕虜交換船で帰国。60年安保に反対して「声なき声の会」を結成。べトナム戦争が始まると作家小田実氏らと「ベトナムに平和を!市民連合」(べ平連)をつくり反戦運動を続けた。著書に「戦時期日本の精神史」など。79歳

 小泉首相と田中外相はよくやっていると思うよ。いちばんの功績は自民党と官僚たちの世界に風穴を開けたことだな。野党が敗戦から55年かかってもできないことをやってのけた。党首討論はテレビドラマより面白く、国民は国会中継をこぞって見ている。そうした現象を軽く見てはいけない。
 いまの社会を語るとき、「消費者主権」の概念を指摘できます。以前、プロ野球のイチローがキャンプ地の宮古島で、「ホテルの近くにコンビニがあれば十分な環境です」と言ったことがあるでしょ。高級レストランで毎日うまい飯を食いたいと言わず、24時間好きなときに食べたいものを選べるコンビニエンスストアを恋しがる。消費者主権のありようが巧みに表現されていた。いわゆる「ジコチュー」(自己中心)なのです。かつての高度成長から時間がたち、消費者個人の価値観が社会に大きな影響を与えている。そんな時代になったということです。
 自民党と官僚らに仕切られた国会は、これまで消費者主権の立場とは無縁な存在だった。だからこそ2人に国民は喝さいを送った。
 ガイドライン関連法が成立し、憲法9条の存在意義が急速に崩されようとしている。でも、いまは60年安保やベトナム反戦のときとは違う。30年前の「べ平連」の運動には、「殺すな」を合言葉に100万人が街頭に出た。いまは大義から平和を訴える言葉は聞こえません。
 それでも、いまの社会に希望をもてるのは、国民に消費者主権の考え方が浸透しているからなのです。消費者主権の立場から戦争と向き合ったらどういう答えが出るだろう。「自分は殺されたくない」。そのひとことにつきるのではないかな。
 靖国神社参拝に意欲を見せる小泉首相は、私の「護憲」の立場とは矛盾する。しかし、私は いまの「小泉バブル」が続くことを願っている。消費者主権の定着が政治を変え、平和憲法はより強固に支持されると信じるからです。
 反戦、平和を語るとき大切なのは大義ではなくまず、自分はどうするかを考えることだ。限りなく「ジコチュー」でありなさい、と言いたい。
『朝日新聞』 京都版 2001630日号)

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