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これはかつて「週刊アンポ社」(ベ平連が作った有限会社)が発行していた『週刊アンポ』に掲載された支持者からの小説です。すべて、原稿料無料で『週刊アンポ』のために提供されたものです。 (『週刊アンポ』 第8号 1970年2月23日号) 好きになるということはの日記 深沢七郎 (挿絵:粟津潔) 特に、私が、よく感じるのは芸術家にも妙に金儲けの上手なのがいて、それらは商人のような儲け方法ではなく、威張っていて金を持って来させるようなシステムで儲けるからである。これを私は「持ってこい偉人」と呼んでいる。例を茶道にとってみるとその方法が上手にできているのがわかる。おそらく、千利休が、そんなシステムに仕度をしたのだと思われるが、例えば、あなたが茶道を習うとしよう。行為をするには習わなければならないからである。独学とか、本では習えない仕組になっている。茶道は10年習いに行っても、本当には上手にはならないそうである。何故だろう。茶道は踊りの種類だから本当のわずかな身振りで、三味線の節で習えば1週間ぐらいで覚えることが出来るはずである。ところが、茶道を習いに行くと、先生が、まず覚えられては困るという教えかたをしているのをおおかたの女性は気がつかないようである。1週間に1回で、1回しかやらない。だから次の週に行くときはほとんど忘れている。本当にわずかな身振りだが、もし、覚えそうになる生徒があると先生は教えるのを止めてしまう。「今日は、お茶を立てる側ではなく、客になったほうをやりましょう」そういうことになって、そっちとまぜこぜになって、無理にわからなくしてしまうのである。わずかの踊りの身振りなのだから、どうせ毎日習いに行くのだから、20回も30回も教えたらよさそうなものだがそれでは覚えられてしまうのである。3カ年ぐらいではまだ身撮りの順序も覚えられない生徒があるそうである。先生は威張っていて叱りつけるような、馬鹿にするような教えかただそうである。中途で止めれば悪口を言われるそうである。1度入学するとヘビに見込まれたカエルと同じ、だそうである。ほかに名をもらうとか、場所へ出されるとかで月謝のほかに金をださせる。中元だ、お歳暮だとか威張っていて「持って来い持って来い」という仕組になっている。こんなうまい方法を考えた人、している人が偉人なのだそうである。花を生ける、琴、三昧線も威張られて金を出さされる。とにかく日本人で嫌いな人物ばかりである。歴史の人物では私は西行法師が好きだけである。現存する人物ではO氏だけである。言うこと、やること、好きになるとその人物や発声まで好きになるから妙である。好きになるということ、それは、その人物は芸術作品だと私は思う。 (おわり) (『週刊アンポ』 第8号 1990年2月23日号) |