豪・電気工組合のアレックスさんと交流会報告

労働党政権に変わっても改悪労働法を元に戻す運動を続ける

 2月11日、国労神奈川地本の事務所(横浜市)で来日したAPWSLに参加するオーストラリアのAAWL(オーストラリア・アジア労働者連帯)の加盟組合ETU(電気工組合)のアレックス(Alex? MacCalum)さんとAPWSL日本のメンバー16名が交流会を開きました。以前AAWLで活動し、現在レイバーネット国際部に参加しているユン・ショーミさんが通訳を山崎さんとともに引き受けてくれました。
 アレックスさんはオーストラリアでも報道された「年越し派遣村」の実態を知りたいと希望されたので、全造船いすゞ自動車分会や神奈川県央ユニオンの仲間に参加してもらい、期間工や派遣労働者の首切りとの闘いについて報告してもらいました。
 アレックスさんからは、彼も深く関った昨年のCFMEU (建設,森林・鉱山・エネルギー労組)のオルグ、ノエル・ワシントンに対する裁判に対する闘い(「労働情報」756号・757号を参照)と保守党ハワード政権の労働法改悪との闘争経過を報告しました。
 2時間の交流会で足りない議論を引き続き居酒屋に場を移して懇親会で続けました。

   以下、アレックさんの報告と質疑を要訳紹介します。

アレックス・マカラムさんと3年ぶりの交流(国労神奈川地本・鶴見 2009/2/11)

全造船関東地協のいすゞ自動車、県央ユニオンの派遣切りにあった仲間など16人が参加

アレックスさんの報告

◆ 1対1の説得と政府の宣伝費を上回る資金集め ◆

 前回、3年前(2006年)来日した時、オーストラリアの労働組合がテレビを使って宣伝していることを話したら、大変驚かれました。キャンペーンは「政府を変えよう」というものでした。キャンペーンはさまざまなレベルで行われましたが、1つは与野党が伯仲している地域を選び、そこに勢力を集中しました。なぜ政府を変えるキャンペーンをやったかと言えば、当時の政府は労働法の改悪を進めていたからです。そして、そのキャンペーンは成功しました。
 組合はテレビでの宣伝だけでなく、勢力伯仲した地域で組合員が電話で1対1の説得をしました。また、すべての家を戸別訪問して選挙民と話し、伯仲した選挙区の獲得ために運動しました。国会議員とも話しましたが、労働党ではなく労働組合のための運動でした。政府は予算を使って宣伝しましたが、われわれは小口のカンパを中心に政府の宣伝費を上回る金を集めました。その結果、普通の労働者が労働法の改悪が何であるか理解して、われわれを支持しました。

◆組合活動を訴追するABCCは警察よりも強い権限 ◆

 2007年11月27日総選挙が行われ、われわれが支持した労働党が勝利しました。その後労働組合がやるべきことは労働党に労働者と労働組合との約束をきちんと果たさせることでした。前の保守党政権はビル建設委員会(ABCC=オーストラリア・ビル及び建設委員会に関する法律)を作り、労働組合の活動を「違法」にする法律を作りました。労働組合活動を違法だと訴追するABCCは、テロ対策の面では警察よりも強い権限を持っています。
その一例は、ABCCが非公然に一人の組合オルグを召喚したことでした。彼を援護する弁護士や他の立会人もなしに呼び出しました。彼は出頭を拒否したので、法律の基づき罰金と実刑を求める訴追をされました。総選挙によって政権は労働党に変わっていましたが、ビル建設委員会の法律(ABCC)が残っていたので、そうした事態が起きたのです。労働党政権はその法律を多少改正しましたが、その改正ではまだまだ不十分です。
 このオルグの名前はノエル・ワシントンです。彼は全国を回って次のように訴えました。「委員会への召喚によって仲間を売るような証言を強いられる。そんな法律に反対しよう」。彼と労働組合のそうした闘いの結果、裁判の1週間前に検察はノエルさんの訴追を取り下げました。しかし、ビル建設委員会は現在も存続し、労働党政権はその予算を増額さえしています。労働党政権はこの法律を修正する約束しています。

◆現労働法について5点の問題点 ◆

 われわれはABCC(オーストラリア・ビル及び建設委員会に関する法律)と現労働法について以下の5点ほどの問題点を指摘します。

  1. ABCCはILO(国際労働機関)の条約に違反しています。電気工組合(ETU)や他の組合はこの件をILOへ提訴する準備を進めています。
  2. 保守党により改悪された労働法はいくつかの問題点があります。その1つは労働組合が職場に立ち入る権利を制限していることです。
  3. ストライキの手続きが非常に複雑で、秘密投票の手続きが多いために、6か月前から準備しないとストライキが打てないので、実際上ストライキを不可能になっています。
  4. 労働党政権は不当解雇を訴える権利を復活させると約束していますが、その改正案でも15人以下の従業員の職場では不当解雇を訴えることができません。
  5. 現行法では労働時間内に5分間の職場集会をやれば4時間分の賃金カットを受ける規定で、非常に不公平です。

◆保守党政権による労働法改悪に反対する運動 ◆

 私はこの2年間週末もほとんど費やして労働法改悪反対の運動を続けてきました。組合は労働者の職場での権利を守る運動を全国で展開しました。それは保守党政権による労働法改悪に反対する運動でした。労働党政権に変わっても、この改悪阻止の圧力を強めなければならないのに、残念ながら一部の組合は運動を止めてしまいました。それは間違いで、運動を継続すべきだと私は思います。
 保守党によって改悪された労働法を元に戻す運動を続けていかなければなりません。私たちの組合・ETUは国会に新しい法律を作ることを求める運動を数週間後に始めます。ILOへの提訴も行います。また、インターネットを使った洗練された運動も計画しています。そして、ETU以外の組合とも共同で労働法を元に戻す運動を始めています。
 今世界的に経済危機で運動は困難な時期ですが、この運動を成功させるために一生懸命頑張ります。日産やトヨタの労働者が解雇されるなど、日本でも解雇が広がっているとニュースで聞いています。ここで日本での闘いを皆さんから学んで、オーストラリアに持ち帰り、伝えたいと思っています。私はこの後ヨーロッパのスイスやフランスに行きます。そこでも友人たちから話を聞き、議論するつもりです。

記念写真

全員で記念写真

ネイティブで通訳したユン・ショーミさん(左端)

<質疑応答>

◆ 労働党政権で安心してしまう ◆

Q(H) 労働党政権に労働法を元に戻し改善させる闘いの経験から、日本の労働運動に対してアドバイスがありますか。

A 国民党のハワード政権から労働党政権に変わって、全体が真剣な交渉をやらないでポーカーゲームのような取引に陥ってしまった。安心したことと闘いに疲れてしまい、引き続き圧力をかけ続けることを忘れてしまったことが私たちの教訓です。

◆ 「裁判で刑務所に入り、犠牲者になるべきだった」?◆

Q(S) ノエル・ワシントンさんの闘争が勝利しましたが、その後労働党政権はABCCを廃止する動きはありますか?また、その制度への怒りが高まっていますか。

A オーストラリアで日本からノエル・ワシントンさんの闘争に関して問い合わせがあり、日本でもABCCをめぐる闘いが知られていることに非常に驚きました。オーストラリアの国民でも知らない人がたくさんいるからです。
 ノエル・ワシントンさんは訴追を免れましたが、完全に勝利したわけではありません。なぜなら、ABCCの法律はまだ残っています。労働党政権はこの法律を廃止するのではなく、2010年に見直すと言っています。われわれはノエルさんに冗談で次のように言っています。「おまえはやはり、裁判で有罪になって刑務所に入り、犠牲者になるべきだった」。

◆ 豪もワーキングプアは存在する ◆

Q(Y) 日本では最低賃金以下で働く労働者、「ワーキングプア」が非常に増えていることが明らかになり、問題になっています。オーストラリアでは最低賃金制度はどの程度ですか?そして、最低賃金と生活保護費の関係はどうか?

A オーストラリアにもワーキングプアの問題があります。最低賃金は産業別と職業別に決まっています。そのほかに若年用の最低賃金もあります。およそ10〜11豪ドル(現在1豪ドル=60円ほど)です。生活保護費と比べれば、少しだけ最低賃金の方が高い。

◆ 資本家との戦争の前に銀行からの戦争(金融危機)が始まった ◆

Q (H) アメリカで貧困ビジネスが広がっている。日本でも一部の若者は「希望は戦争」と言っている。自衛隊は高校生への勧誘を強めています。私は解雇された労働者が大勢自衛隊に行くという危機感を持っています。オーストラリアでも若い労働者が軍隊に入ってイラク戦争や国際紛争に関わっていく傾向が強くなっていますか?

A 少し前までとくに鉱山や建設など仕事がたくさんあったので、軍隊が人を確保することが難しかった。世界的な金融危機以降、非常に困難な経済状況になり、現在軍隊に人を集めるのが簡単になった。戦争に人を集めやすくなった。必要なのは資本家に対する戦争ですが、それは起こりそうにありません。元組合役員が政府に入り、資本家との戦争を始める予定だったのが、その戦争が始まる前に銀行からの戦争(金融危機)が始まってしまった。

◆ 2004年に組合員の40%が保守党に投票、2007年選挙で15%に下がる ◆

Q (H) 私が解雇された労働者に選挙でどこへ投票したか聞いたら、規制緩和の張本人である保守党に投票したという答えが多く返ってきます。若い人への政治教育が大事だが、労働組合はその点をどうしているか?

A 私たちの電気工組合(ETU)の組合員は全部で17,000人、その内24歳以下の組合員は2,000人です。私たちは若い労働者を組合に加入させるために努力しています。若者向けの教育を特にしていませんが、組合の文書や情報をできるだけ多くの人に読んでもらうように努めています。2004年の選挙で組合員の40%が保守党に投票しましたが、今回の2007年選挙では15%に下がりました。この傾向はとくに現業(製造業)の方がより強い。

<以上> 

<文責:高幣真公/写真:高幣真公・池田理恵>

アレックスさんとの前回(2006年)の交流会の報告