下記のような弁護士などによるG8警備などをめぐる人権侵害を監視するグループ、通称WATCHが結成されました。
WATCHのブログも公開されました。
http://blog.goo.ne.jp/watch-summit/
サミット人権監視弁護士ネットワーク
<Watch Human Rights on Summit>
結成趣意書
2008年4月11日
中村 順英(静岡)
海渡 雄一(東京)
鬼塚 忠則(東京)
難波 満(東京)
日隅 一雄(東京)
寺中 誠(アムネスティ)
山下 幸夫(東京)
浅石 紘爾(青森)
阿部 潔(仙台)
市川 守弘(札幌)
松本 隆行(神戸)
大谷 美紀子(東京)
武藤 糾明(福岡)
足立 修一(広島)
和田 聖仁(東京)
田場 暁生(東京)
只野 靖 (東京)
1 サミットをめぐる情勢
本年7月に、洞爺湖サミットが開催されます。
関連するG8の会合は、東京、新潟、神戸、横浜、青森、大阪、京都などでも開催され、全国的な会合が開催されます。
最近になって、サミットに向けて活動を計画しているNGO事務所を公安警察官が訪ねてきて、このサミットに向けての動きについて尋ねるなどの動きが目立ってきています。
昨年、日韓共催のピース&グリーン・ボート(参加600名)の準備のために八戸に滞在した韓国人がネットカフェでのインターネットの使用を断られるというような問題も発生しています。
今後、入国時審査が強化されて、サミット開催について何らかの活動を予定している海外のNGOメンバーが入国できないケースの発生も懸念されます。既に、このような懸念を裏付けるように、本年3月7日には、韓国のNGOメンバーが日本での会議に出席するために来日した際に成田空港で入国を拒否されて一旦帰国させられた事例(その後の再入国の際には入国が認められた)や、ロシアから貨客船で小樽港に入国しようとしたドイツ人が入国を拒否された事例が発生しています。
最近の報道によると、サミット時の警察の厳戒態勢があたかも既定事実のように報ずる報道が目立つようになっていますが、これに対する批判的な考察はまだまだ乏しいように見受けられます。
近時のサミットでは警察機関による暴力的な取締りも行われており、日本のサミットが世界的にも大きな注目を浴びることを考えると、今後、サミットに関連する市民活動が制限されたり、さらにはサミットに関連していなくても、それにかこつけて活動を制限される可能性があります。
このように、G8関連大臣会合やサミット開催時に少しでも過激な市民活動があったときに過剰な警備と取締りが行われる危険性が高まっていると考えざるを得ません。
2 サミット開催をめぐるNGO、民間団体の状況
環境や貧困開発、人権平和問題などに関わるNGOは、2007年1月に「2008年G8サミットNGOフォーラム」を結成し、このNGOフォーラムには、それぞれ違う分野で活動する団体100以上が集まって、政府への申し入れ、政策提言作り、シンポジウムなどの開催による普及啓発活動を行っています。
サミットが開催される北海道の現地においても、2007年9月に「2008年G8サミット北海道市民フォーラム」が結成されて活動が始まっています。
他方で、G8開催そのものに批判的な諸団体も「G8を問う連絡会」を結成し、既に活動を開始し、集会やデモなどを計画しています。この連絡会には日本平和委員会や平和フォーラムなども参加しています。
3 サミット人権監視弁護士ネットワークの趣旨
私たちは、以上のような情勢を踏まえて、本日、「サミット人権監視弁護士ネットワーク」”Watch Human Rights on Summit”を結成しました。
私たちは、情報共有のためにウェブページ(ブログ)を作成し、人権侵害的な事件について法的なアドバイスと、必要に応じて弁護活動を提供することにしました。
現在、この監視弁護士ネットワークには、北海道、青森、仙台、東京、広島、福岡の弁護士が参加しており、今後、さらに、北海道、京都、大阪などの弁護士にも声をかけて、ネットワークの輪をさらに広げていきたいと考えています。
特に、海外から参加される方々の入国などに関連する問題が大きく関係しますので、入国管理問題に造詣の深い弁護士が参加しています。
4 ネットワークの活動の概要(予定)
1情報交換のためのウェブ(ブログ)の開設
入国拒否や逮捕などについての最新の情報を随時提供する。
2NGO団体への法的なアドバイスの提供
海外から来るNGOのメンバーへの入管での対応や逮捕後の刑事手続続についてのマニュアルを作成し、英語版をウェブ等で提供する。
3市民活動に対する過剰規制に反対するアピール活動
警察による過剰な規制や警備が行われないように、様々な機会をとらえてアピールを行う。
5 体制
代表 中村順英 (弁護士)
事務局長 海渡雄一 (弁護士)
事務局次長
市川守弘 (弁護士)
田場暁生 (弁護士)
寺中誠 (アムネスティ日本事務局長)
難波満 (弁護士)
日隅一雄 (弁護士)
山下幸夫 (弁護士)
事務局員
亘理興 (司法修習生(ドイツ))
岡田健一郎(一橋大学院)
木下ちがや(一橋大学院)
(資料:この間のG8サミットにかかわる事例)
一
3月7日、洞爺湖G8サミットに批判的なグループ「G8を問う連絡会」が主催し、8日開催を予定していた「国際調整会議」に参加するために来日しようとしていた、韓国の団体「アジア女性会議」の代表者キム・エファ氏が、同日16時40分頃に成田空港に到着し、入管ゲートを通過しようとしたさいに、入管当局に尋問され、入国を拒否された。エファ氏は入国にあたり、提出書類に「CAWメンバー」と記載し、会議への参加を伝えたが、入国審査官は「目的が不明確」とそれを認めず、入国拒否の措置を取り、エファ氏は同日夜の便で一旦韓国へ引き返した。二日後の九日、エファ氏は改めてインビテーションカードを携え、韓国から成田に戻り入国を試みた、この際には問題にされず、入国は認められ、予定の会議の一部に参加することができた。
二
3月10日、ドイツの農学博士で活動家のマルティン・クライメルが、札幌でのG8関係の会議に参加するためにロシア・サハリンを経由し、貨客船にて小樽に入港しようとした。 しかし入国管理局小樽出張所は特に理由を明示することもなく、マルティン氏の入国を拒否した。マルティン氏はそのまま船内に留め置かれ、日本側からは弁護士らが接見し、異議申し立てもおこなったが、結局入管当局は入国を認めることなく、3月14日、マルティン氏は来港した貨客船にのって、ロシアに引き返すことになった。その後、来日を断念したマルティン氏は、ロシアから航空機でドイツに帰国した。
三
イタリア出身の哲学者で、パリ在住のアントニオネグリ氏のケース。氏は、3月末におこなわれる東京大学、京都大学、東京芸術大学でのシンポジウム・講演への参加を予定していた。ネグリ氏は70年代にイタリアの「赤い旅団事件」に関与したとの廉で「国家転覆罪」に問われ、一時収監されていたことがある。その後パリに一旦事実上の亡命をし、1998年にイタリアに一時帰国し収監されたあと、2003年に恩赦され、ふたたびパリに戻り生活をしている。今回の来日にあたっては、在フランス日本大使館より、査証なしで入国可能と当初はいわれていた。ところがネグリ氏がフランスを出発する予定であった3月19日の2日前の3月17日に、外務省から、ネグリ氏は、査証なしで渡航することになっているが、昨今のG8等により入国管理をめぐる諸事情を鑑みると、査証なしで来日すると入国の際に拒否される可能性が非常に高いとの説明があった。そして翌 18日になって、再度、外務省より、今回のネグリ氏の査証発給に関しては、法務省入国管理局との協議の上で行われているとの連絡が招聘サイドに入った。つまり、入国管理局の許可なしには、在仏日本大使館は、ネグリ氏に査証を発給することはできないという事態になった。その後、法務省(入国管理局入国在留課)より、ネグリ氏の日本入国には、彼が政治犯であったことの正式な証明が不可欠であるとの連絡が招聘サイドにあった。それを証明する公式文書を提出せよということである。こうした法務当局からの要請に対して、時間的な制約等の関係から、最終的にネグリ氏は日本への入国を断念することになった。
日本の友人たちへの手紙(ネグリ招聘実行委員会のHPより)
皆さん、まったく予期せぬ一連の事態が出来し、私たちは訪日をあきらめざるを得なくなりました。この訪日にどれほどの喜びを覚えていたことか! 活発な討論、知的な出会い、さまざまな交流と協働に、すでに思いをめぐらせていました。およそ半年前、私たちは国際文化会館の多大な助力を得て、次のように知りました。EU加盟国市民は日本への入国に際し、賃金が発生しないかぎり査証を申請する必要はない、と。用心のため、私たちは在仏日本大使館にも問い合わせましたが、なんら問題はありませんでしたし、完璧でした。ところが2日前の3月17日(月)、私たちは予期に反して査証申請を求められたのです。査証に関する規則変更があったわけではないにもかかわらずです。私たちはパリの日本大使館に急行し、書類に必要事項をすべて記入し、一式書類(招聘状、イベントプログラム、飛行機チケット)も提示しました。すると翌18日、私たちは1970年代以降のトニの政治的過去と法的地位に関する記録をそれに加えて提出するよう求められたのです。これは遠い昔に遡る膨大な量のイタリア語書類であり、もちろん私たちの手元にもありません。そして、この5年間にトニが訪れた22カ国のどこも、そんな書類を求めたことはありませんでした。飛行機は、今朝パリを飛び立ち、私たちはパリに残りました。大きな失望をもって私たちは訪日を断念します。数カ月にわたり訪日を準備してくださったすべての皆さん(木幡教授、市田教授、園田氏——彼は日々の貴重な助力者でした——、翻訳者の方々、諸大学の関係者の方々、そして学生の皆さん)に対し、私たちは申し上げたい。あなたたちの友情に、遠くからですが、ずっと感謝してきました。私たちはこの友情がこれからも大きくなり続けることを強く願っています。皆さんの仕事がどれほど大変だったかよく分かります。皆さんに対しては、ただ賛辞があるばかりです。パーティは延期されただけで、まもなく皆さんの元へ伺う機会があるだろう、と信じたい気持ちです。友情の念と残念な思いを込めて……
ジュディット・ルヴェル
アントニオ・ネグリ