●マイナンバー制度開始前に口座付番など利用拡大
2015年10月5日のマイナンバー制度の開始前にもかかわらず、2015年3月に預貯金口座への付番など番号利用の拡大法案が国会に提出された。
番号利用拡大法に対して共通番号いらないネットは、院内集会を4月23日、5月8日に開催、「共通番号(マイナンバー)法改正への6つの疑問」を公表、8月29日に院内集会決議を、9月3日に成立に抗議する声明を発表するなど反対をしてきた。
しかし利用拡大法は、2015年6月に発生した日本年金機構から不正アクセスにより個人情報125万件が漏えいする事件によって国会審議が止まったが、年金機構の利用を延期する修正をして 9月3日に 成立した。
●法改正の付番理由は金融資産情報の把握
この2015年番号法改正で預貯金口座にマイナンバーを付番する理由は、
1)銀行が破綻した際に預金保険機構が一定額の払い戻しをするペイオフの際の、預貯金額の合算のための名寄せに利用する
2)社会保障制度における資力調査や税務調査で、預金情報を効率的に利用する
の2点が説明されていた。
●法改正理由と政府・自民党の説明の食い違い
今、政府と自民党は「口座の中身は把握されない」 「政府に全ての金融資産情報を把握されることはない」 という説明を繰り返している。
しかし、2015年のマイナンバー法改正での預貯金口座へのマイナンバー付番理由は、ペイオフや税務調査や資力調査のために金融資産情報を把握するためだった。
自民党PT「提言」は、 マイナンバーの口座紐づけの義務化を目指す理由として、 緊急時・災害時の給付の効率化、マネーロンダリング対策やテロ資金対策、金融機関の破たんに備えた口座の名寄せ、相続時等をあげているが、税務調査や資力調査のための金融資産情報の把握には触れていない。
政府や自民党は、口座への付番の義務化をしやすくするために、ごまかしの説明をしているというしかない。
●口座付番へのマイナンバーの提供は任意
今後の預貯金口座へのマイナンバー付番の義務化について、 自民党と政府は
・自民党=給付用1人1口座→任意、全口座への付番→義務化
・政府=給付用1人1口座→義務化、全口座への付番→希望者
と、相反する考えを示している。
2015年の法改正で義務化されているのは、
・金融機関が預金情報をマイナンバーで検索できるよう管理することの義務づけ
・預金保険機構をマイナンバーの「利用事務実施者」として利用可能にする
・社会保障の資力調査でマイナンバーを付番した預金情報の提供を可能に
など、金融機関側がマイナンバーで口座を管理できるようにすることだ。
預金者については、金融機関からマイナンバーの提供を求められても、提供する義務は規定されていない。口座開設時なども、あくまで提供は任意となっている(「法律上、告知義務は課されない」下図参照)。
●なぜマイナンバーの提供を義務づけなかったのか
番号利用拡大法案を審議した第189回国会では、新規口座開設の際の付番の義務化は比較的容易だが、既存の口座に義務化するのは無理があり、利用状況をみながら検討していきたい、と答弁されていた。
2014年2月の銀行協会の資料では、個人預金口座数は銀行が7億8610万、信用金庫が1億3675万、郵貯が3億7775万、計13億口座もある。使われていない口座や連絡がとれない口座も多く、既存口座への付番は困難と見られていた。
しかし付番を義務づけられないとした理由は、それだけではない。法案作成にあたっての内閣法制局への説明資料では、「すべての預金者に金融機関への個人番号の提供を義務づけることは、プライバシー保護の観点から国民の理解がえられているとは言い難いため」と記されている。
●マイナンバー法は番号の提供を義務づけていない
そもそもマイナンバー法では、 番号の利用機関とその関係機関はマイナンバーの提供を求めることができるが、 私たちにマイナンバーの提供は義務づけられていない。個別法のなかで届出等の書類にマイナンバーを記載事項にしているが、扱いは個々の法律により異なる。
共通番号いらないネットでは、各省庁とマイナンバーの提供について確認してきたが、金融関係で告知義務が課せられている一部の手続きを除き、マイナンバーが未記載でも受理し、記載がなくても不利益は生じないと、どの省庁も回答している。
・金融機関4団体への質問と回答( 2016年9月 )
・確定申告等のマイナンバー記載を国税庁に確認(2017年3月)
・国税庁にマイナンバー未記入の扱いを再確認(2017年5月)
・マイナンバー記載なくても手続き進める 厚生労働省が説明 (2017年5月)
・金融庁が金融機関でのマイナンバー記入に柔軟な対応を通知(2017年6月)
・国家公務員にマイナンバーカード取得は強制できない 内閣官房回答 (2017年3月)
●進まない口座へのマイナンバー付番
2018年1月から預貯金口座へのマイナンバーの付番が始まった。しかし預金者の拒否反応は強く、付番は進んでいない。「全国銀行協会によると、ひも付いているのは、個人預金を取り扱う163行で972万件(2019年末現在)。日本にある口座数は、銀行、信用金庫、ゆうちょで計約10億口座とされ、1%に満たない水準だ。」( 2020年6月1日毎日新聞朝刊)
証券口座については、2016年1月以前に開設した口座についてのマイナンバーの告知は、2018年12月までの経過措置が取られていたが、2018年6月末時点で41.4%しか集まらず、経過措置が3年間延長された (下図参照) 。
マイナンバーの告知が義務付けられているNISA(少額投資非課税制度)でも、約2割が未提出と報じられている(2019年2月19日日経電子版)。
政府や自民党が、新型コロナ対策を利用して「給付のためのマイナンバーとひも付けた口座登録」を言い出したのは、このような強い拒否反応を意識して、耳障りのいい理由を付けてとにかく義務化をしようという意図ではないか。
本当の意図を隠してマイナンバー制度を推進しようとする姿勢が、不信感を増幅している。