■[ACT新聞社の紹介] |
B 「緑のコリドー」実現を変革の契機に
本稿の1回目で、進捗状況について、今判決で誤解されている部分を指摘したが、誤解されている問題は、もう1つある。それは、判決文にある「原状回復を求めるものではない」という文言である。
問題のくだりは正確には次のように書いている。
「本件各認可が取り消されても、その手続き自体はそれに必要な公金の支出に関与した公務員が何らかの意味で責任を追求されるなどの可能性はないでもないが、これにより、既になされた工事について原状回復の義務等の法的効果が発生するものではなく、その他本件各認可の取消により公の利益に著しい障害を生ずるものとは認められないから、本判決において、本件各認可が違法である旨の判断をするにあたり、行政事件訴訟法31条1項により別紙原告目録一記載の原告らの請求を棄却すべき場合であるとは認められない」
ここには、工事は進めてよろしいとはどこにも書かれていない。「既になされた工事についての原状回復義務等の法的効果が発生するものではなく」としているだけである。しかも、この文脈は、だから、「認可の取消が(事情判決により)請求を棄却すべき場合であるとは認められない」といっているのだ。しかも、「必要な公金の支出に関与した公務員が責任を追求」される可能性を示唆している以上、判決後に工事を追行されることを予定しているわけではない。
この名判決を精読すべし
この判決は一審でもある。
最高裁は「事情判決」という悪しき伝統をつくり、いったん行われた工事の原状回復を求めることを忌避している。そうである以上、「事情判決」の論理に真っ向から対立することはできない。上級審維持を考えれば、当然そうなる。そうであるからこそ、判決は「原状回復の義務等の法的効果」はないといっているのだ。一方でだからといって、違法な認可を行った公務員は責任を免れることはないとも言っている。
また、違法な認可に基づく事業が行われる限り、違法性がついてまわることは当然であるし、判決により事業に支障をきたすことを国は控訴審への記者会見で認めており、すでに事業用地の強制執行は事実上出来なくなっている。来年度予算を組めるかどうかも微妙だ。
結局、判決が求めているのは、原告団も原状回復を伴わない代替案を示しているのだから、新しい土木技術をも駆使し、前向きに解決しなさい。そうでなければ、さらに公務員の責任や公金の支出の是非について追撃を受けますよ。政府や都は前向きな解決に向けて動きなさい、ということではないだろうか。
既に在来騒音については違法との責任裁定が出ている。4線を高架橋の上に、しかも南側側道もとらないために民家に50センチほども接近して走ることになる現計画がまともな環境アセスをクリアできるはずもない。これをかろうじてクリアできたのは、現行770本を800本にしか増やさないため、事業の大幅遅延を覚悟の上、梅ヶ丘で分断し、本来禁止されているコマギレアセスを断行したからに過ぎない。代々木上原までの開通時の1100本ではとてもクリアできるものではない。
また基礎調査での高架・地下の比較では、はじめから4線高架を導くための調査しかしていなかったことが認定されている。
判決を精読すればわかるが、裁判長は認可違法を立証するにあたって、事業の内容を精査した上での事実認定を積み重ねており、これを高裁でひっくり返すには「政治的配慮に基づく」乱暴な裁判でしかなしえないであろう。たとえば、複複線部分が事業認可を受けずに工事が強行されたことなどは都市計画事業の基本を逸脱しており、一審で指摘されたこういった違法事実を覆えすことは政府といえども困難である。
防衛戦と追撃戦ははじまったばかり
以上、事業の原状と判決の真意を説明してきたが、このような現状認識、裁判認識を踏まえて私たちは、10月27日に集会を持ち、次のような運動方針を決定した。
1.判決の意義を小田急線高架事業の沿線住民に広く正しく伝えながら、併せて東京のみならず、心ある全国市民と連帯する運動として、世論をますます喚起する。
2.私たちの市民運動の具体的目標は、小田急線複々線高架工事を地下鉄工事に切り替え、神宮の杜から多摩川に至る緑のコリドーとし、これによって都市の再生と公共事業の根本的見直しを実現する。このことを明確にしながら東京をはじめとする、高架複々線事業の沿線住民との交流を一段と強化する。
3.控訴審の体制を整えつつ、国と東京都に対し、控訴の取下げを要求する。
4.違法の事業を遂行し、なお強行しようとしている官僚の責任を、あらゆるところ、あらゆる手続きで追求する。
5.監査請求と新たな提訴
@現在の工事を中止させるため、「事業費の支出の差し止め」を求め、東京都に対し、多数の都民とその支援者による、 住民監査請求を速やかに行う。なお、市民運動の参加費は入会時、都民=1万円、支援者=5000円とし「小田急線に 緑のコリドー!監査請求実行委員会」を結成する。
A新訴の提起をあらゆる角度から検討し、準備する。
構造改革ということばが小泉内閣の専売特許のように語られているが、そうではあるまい。どのような構造改革が必要なのかが、いまこそ議論されるべきときであろう。
私たちは、小田急の問題で投ぜられた「緑のコリドー」といういわば代替案の実現が、エコロジカルニューディールとなることを確信する。それこそ日本の経済・政治構造を大きく変革する契機となりうると信じて、類まれな名判決の防衛戦と追撃戦を法廷の内外から闘うこと表明して、読者の皆様にご協力とご支持を仰ぎたい。
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