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小田急線高架事業認可取消訴訟
崩された公共事業の壁
   〜住民側勝訴の意義とこれから


@マスコミ報道されない矛盾点

 10月3日に下された小田急高架事業に対する東京地裁判決は、既に工事が一定進んでいる都市型の公共事業の認可を取り消すというまさに歴史的な判決となった。
 マスコミはこれを一斉に報じ、おおむね賞賛を得た。しかしながら、一方で行政や小田急が意図的に流した情報を鵜呑みにしたまま報道と論説が書かれたために、小田急問題と今回の判決の本質が伝わっておらず、歯がゆい思いをしている。
 二つの問題がある。現在の複々線化事業の進捗状況、そして判決が「原状復帰を求めているわけではない」とした部分である。言い換えれば、現状認識と解決の方向性についてである。
 今回は、まず、進捗状況の真相について触れたい(「解決の方向性」についての問題点は第3回へ)。

「7割完成」のウソ

 マスコミの多くは、論説も含めて、官僚専横の公共事業のずさんさを指摘し、その是正を求めながらも、もうすでに7割の工事が済んでおり、この判決をもって事業が遅れるというトーンであった。3面記事やテレビでは遠距離通勤者や踏み切り渋滞解消を願う沿線住民を登場させ、「いまさらの判決、ここまで工事がすすんでいるのに迷惑だ」などと語らせている。
 まず、7割という数字。これは、東京都と小田急が組んで判決の直前になって、敗訴の際のマスコミ対策として突然持ち出した数字である。筆者は世田谷区議会議員であるが、9月26日の世田谷区議会「公共交通特別委員会」で、初めて東京都が発表の報告という形でこの数字が持ち出された。
 従来、東京都は年度末に事業費の投入金額を元に事業の進捗率を発表しており、平成12年度末は53%としていた。都の公式発表では事業費は1900億円で、内用地買収費が950億円、工事費が950億円。そして同年度末には98%の用地買収が済んでいるという。この情報から逆算すると工事費の支出はたった76億円に過ぎない。これは当然少なすぎる。
 そこで、筆者はこの矛盾を区議会でことあるごとに批判し、本当の予算執行状況や実際の工事の進捗状況の情報開示を求めつづけてきた。区は事業への負担金を毎年出資しているにもかかわらず、担当者は東京都からは具体的な数字は知らされていないとしか答えられなかった。
 そこで、突然持ち出された7割の根拠を問いただすと、これは高架橋の橋げたの完成予定数の内数だという。情報操作もはなはだしい。原告側の専門家が情報開示で手に入れた設計図から類推すると工事の進捗は3割5分程度に過ぎない。都は現在の具体的な事業費投入額については秘匿しつづけている。今回、進捗を橋げた7割で示した裏には、高架事業費が実際には大きく膨れ上がっていることが類推される。

「混雑緩和」は実現しない

 ところで、7割完成の誤った数字もさることながら、現工事区間が完成すれば、本当に輸送力増強は達成されるのであろうか。これも否である。
 当初の事業計画は代々木上原から喜多見までの事業であった。小田急線は代々木上原駅で千代田線と接続している。ここまで接続して初めて複々線による混雑緩和は一定、達成される。
 ところが、東京都は、当初計画を梅ヶ丘で分断し成城学園前から梅ヶ丘部分を先行事業とし、梅ヶ丘から下北沢を経て代々木上原までの区間(以下、下北沢区間と呼ぶ)の事業を後回しにしてしまった。これはこの区間が地下化計画であったために、これを明らかにすると、現工事区間(成城−梅ヶ丘間)が高架である必要性がまったくなくなってしまうからであった。
 ちなみに、成城学園前駅は地下駅である。下北沢区間の二線二層の複複線4線地下化が本年4月の都の都市計画素案説明会で明らかになってみると、成城学園前から梅ヶ丘までを高架とした事業計画のおかしさは誰の目にも明らかになった。
 ところで、この下北沢区間の完成予定は、都の説明によると早くても平成25年度というのである。もうお解りであろう。現工事区間が完成したところで、地獄の通勤列車の混雑緩和はほとんど解消されない。しかも本来的には新宿まで複々線が貫通してこその複々線事業である。そして、当局と小田急は、つい最近までは推進してきたこの区間の複複線事業計画を棚上げにしたといって隠してしまった。
 複複線事業は都心から整備を進めるべきなのに、逆方向から複複線事業が行われている。ちなみに、事業の環境アセスがおこなわれた際の1992年当時、当局があげていた数字では、梅ヶ丘までの開通では、現行1日あたり走行車両数770本が800本に増えるに過ぎない。代々木上原まで開通して1000本以上、新宿までで1300本である。
 なぜこの事業はここまで矛盾したものになったのか。
 次回は、これをつきつめる意味で、この裁判に至るまでの道のりを振り返ってみたい。


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