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これでいいのか!? 北朝鮮報道 「北朝鮮報道のあり方」を考える記者会見
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下村 健一(ジャーナリスト)
私は、3年前にTBSを辞めて、今は市民メディアトレーナーとして、市民メディアのアドバイザーのようなことをやって歩いております。それだけではメシが食えないので、毎週土曜日に『サタデー・ずばッと』というTBSのみのもんたさんの番組でリポートをやらせていただいています。その番組で日朝会談以降、当然この問題を取り上げているのですが、一週間のニュースをほかと違ったスタンスで、この情報や視点が抜けているのでは? という角度から伝えることを番組のコンセプトにしているものですから、毎週、批判を浴びるような報道をしています。
最初から在日朝鮮人の皆さんにインタビューで登場していただき、自分たちの方が先に連れてこられたというスタンスから声を流したり、(拉致被害者の)子どもたちを日本に戻そうという声が大きくなった週には、中国残留邦人の2世、3世、つまり向こうで生まれて日本にきた人たちが、果たして今幸せに暮らしているのだろうか、という視点で取り上げました。それについては賛否両論があります。
私たちのスタンスを支持してくれる声というのは、必ず今の北朝鮮報道全般への疑問の声がセットになっています。「最近の報道は怖い」「恐怖を感じます」という声が相次いでおり、私たちのやり方でいいのだと思うと同時に、今、メディアに対する大きな疑問が渦巻いていることを肌で感じております。
一方、批判の声というのは、非常に示唆的だと思います。「おたくのやっていることは、世論の大勢と違うんじゃないの?」という批判が結構きます。報道というのは世論の全体の流れを伝えて、うん、そうだ、そうだと頷かせてくれるものだ、と。そうではない報道には違和感を感じ、大勢と違う情報を出していること自体を批判する声が寄せられてくる。この声の出現には、メディアがあまりにも長いことメインストリームの情報を流すことに専念し過ぎていたため、メディアはそういうものだと一般の人に思われているのではないか、と気づいてぞっとしました。
もうひとつ、私が今現在どうしていいか分からず困っていることがあります。たとえば先週、ではメディアはいったいどう報道してきたのか、ということを伝えるために、北朝鮮帰還事業で、第1号の船が出たその日の夕刊と翌日の朝刊、その日のJNNの報道特別番組を詳しく紹介しました。いかに万歳、万歳ばかりだったか。北へ帰った後、どうなるのかということに対する疑問の言葉は、新聞では朝毎読ともに1文字もなく、JNNの報道番組でもまったくない、ということを紹介したのです。すると、下村は、『サタデー・ずばッと』は傲慢だ、という声が結構寄せられました。「当時、こんな報道をしていたんですと、他人事のように言うな。それをやっていたのはお前たちなのだから、お前たちが謝れ」と、いう声です。「はっきり、ごめんなさいと言わないのなら、明日の放送を最後に俺はもう見ない」という宣言のメールも結構寄せられ、頭を悩ませています。
今日のこの呼びかけも、この後、討論されて出されるであろうメディアへの提言も、私たちの言葉としてごめんなさい、とは一言も入れていません。反省しなければならないということと、これからどうしていこう、という呼びかけはしていますが、もしかしたら一般の方々は、それ以前に、「一度お前らちゃんと謝れよ」、ということを求めているのかな、という風圧を感じています。
これは、メディア規制法案をめぐる議論ととてもよく似ていると思います。報道の自由を守ろう、知る権利を守ろうと言っていても、一般の人たちが今ひとつその流れに合流してくれない。それはメディアに対する非常に冷ややかな世の中の目線があって、それと似たような構図で、今回のようなことを呼びかけても、だったら今までの報道のあり方について、当事者の一端としてお前が謝れ、ということを突きつけられ、どうすべきかまだ答えが出ずに困っています。
反省の表し方について、私は、そうではない報道を表現していくことが、反省の一番いい表し方だと思っているし、多分ここにいる皆さんもそうだと思います。だからこそ、ここで集まってメッセージを発表しようとしている。でも、もしかしたら、社会の中にはけじめとして、ごめんなさいの一言をってちょうだいということがあるのかもしれない。
この後いなくなってしまうので、投げかけたままになってしまうのですが、提起だけさせていただきます。
あと一つだけ言わせてください。今までは、マスメディアでの仕事をしている立場からの発言でしたが、今は市民メディアトレーナーとして市民メディアの応援をライフワークにしています。その点で、今日ここにきてとてもうれしいのは、そこに三脚で並んでいる立派な大手のテレビカメラのほかに、たくさんの小さなカメラが見えることです。この頃、こういう集会に行くと、そういうカメラがいっぱいあります。それは、ここに集まった人数だけではなく、帰った後にたくさんの人たちに、この情報が、大手メディアの解釈を経ずして直接伝わるということの証ですね。
今日、カメラやテープレコーダーをお持ちの皆さん、皆さんの言葉で、今日、こういうことがあったよ、とさらに広めていただいて、今日もこんなに満員ですけれど、この10倍、100倍の人たちに今日のことが加工なしで、素材のままで伝わるように広めていただきたいと思います。
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