被告らは、本準備書面において、原告らの平成11年(1999年)9月13日付け準備書面(以下「原告ら準備書面」という。)及び平成10年(行ウ)第9号事件についての訴状(以下「訴状」という。)に対し、次のとおり反論する。
第一 原台ら準備書面に対する認否
一 第一章について
1 本訴訟の争点と関係がないので、事実については認否しない。
ただし、沖縄が昭和47年5月14日まで「日本国との平和条約」(以下「平和条約」という。)第3条により米国の施政権下にあったこと、その時代に米軍が原告ら主張のとおりの布告・布令を発布したこと、「琉球諸島及び大東諸島に関する日本国とアメリカ合衆国との間の協定」(以下「沖縄返還協定」という。)により昭和47年5月15日に琉球諸島及び大東諸島の施政権が米国から日本に返還されたこと、沖縄の米軍基地は、復帰後、「日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約」(以下「日米安保条約」という。)6条及び「日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約6条に基づく施設及び区域並びに日本国におけるアメリカ合衆国の地位に関する協定」(以下「日米地位協定という。」2条に基づき、日本政府から米国に提供されることとなり、その法的性格は、日本本土におけるものと同一のものとなったこと、復帰前に沖縄において公の目的に供されていた土地等でその供用に係る機能を復帰後も引き続き維持する必要があるものについて、新たに使用権原を設定するために、「沖縄における公用地等の暫定使用に関する法律」(以下「公用地暫定使用法」という。)が制定されたこと、、その後、「沖縄県の区域内における位置境界不明地域内の各筆の土地の位置境界の明確化等に関する特別措置法」(以下「位置境界明確化法」という。)附則6項により公用地暫定使用法の暫定使用期間が延長されたことは、認める。
2 法律上の主張は争う。
二 第二章について
1 その第一について
本件訴訟の争点と関係がないので、認否しない。
2 その第二について
(一)その一について
(1) その1について
復帰後、沖縄県が基地の整理・縮小と跡地利用を重点施策とし、日米両国政府に基地の整理・縮小を要請していることは認め、その余は不知。なお、返還率は、正しくは15・6パーセントである。
(2) その2について
沖縄県における米軍基地は北海道に次いで大きな面額を占めていること、米軍専用施設が沖縄県に集中していること、沖縄県を除く他の都道府県において自衛隊施設等を米軍が一時的に使用していることは認め、その余は不知。
なお、平成9年3月末現在、静岡県における米軍基地の面積割合は1・1パーセント、山梨県における米軍基地の面積割合は1・0パーセント、沖縄県(本島)における米軍基地の面積割合は18・88パーセントである。
(3)その3について
沖縄県における米軍基地が本土の米軍基地と比較して民公有地か多く、接収の背景も違うことは認め、その余は不知。
なお、平成9年3月末現在、金武町の面積に占める米軍基地の面積割合は59・6パーセントである。
(4)その4について
平成7年3月末現在の「演習場」等の施設数、面積、全基地面積に対する割合及びそれぞれの施設が沖縄県に所在していることは認め、その余は不知。
(5)その5について
平成8年6月末現在、米軍の訓練のための水域及び空域が設定されていることは認め、その余は不知。
(6)その6について
平成7年3月末現在、沖縄県における米軍基地に海兵隊、空軍、海軍,及び陸軍が置かれており、二以上の軍が共用している施設もあることは認め、その余は不知。
(二)その二について
(1) その1について
沖縄周辺の水域等において、米軍の演習・訓練が行われていることは認め、その余は不知。
(2) その2について
キャンプ・ハンセンにおいて、県道104号線越え実弾砲撃演習が行われたことは認め、その余は不知。
(3) その3について
読谷補助飛行場において、・パラシユ−ト降下訓練が行われたことは認め、その余は不知。
(4) その4について
勝連半島にホワイト・ビーチ地区が所在することは認め、その余は不知。
(5) その5について
沖縄復帰以降航空機関連の事故が発生したこと、沖縄県において軍人・軍属による犯罪が発生したことは認め、その余は不知。
(三)その三について
(1) その1について
本件訴訟の争点と関係がないので、認否しない。
(2) その2について
ア その(1)の事項のうち、嘉手納飛行場および普天間飛行場の周辺住民の生活に航空機騒音による何らかの影響があることは認め、その余は不和。
イ その(2)の事実は、本件訴訟の争点と関係がないので、認否しない。ただし、嘉手納基地騒音訴訟が提起され判決が確定したことは認める。
(四)その四、五について
本件訴訟の争点と関係がないので、認否はしない。
(五)その六について
本件訴訟の争点と関係がないので、認否しない。
ただし、平成6年3月末現在、米軍基地が沖縄県内25市町村に所在していること、平成7年3月未現在、読谷村に嘉手納弾薬庫地区等5施設が所在していることは認める。
三 第三章について
1 その一について
争う。
2 その第二について
(一) 本件訴訟の争点と関係がないので、事実については認否しない。
ただし、沖縄県における米軍基地に係る問題を協議するため日米両国間で「沖縄に関する特別行動委員会」(SACO)が設置されたこと、平成8年4月に日米両国間で「日米安全保障共同宣言」が行われ、その中で「日米防衛協力のための指針」が了承されたこと、平成11年5月24日これらに関する法律(周辺事態に際して我が国の平和及び安全を確保するための措置に関する法律)等)が成立したことは認める。
(二)日米安保条約、日米地位協定が違憲であるとの主張は争う。
3 その第三について
本件訴訟の争点と関係がないので、事実については認否しない。
日米安保条約が国際法に違反するとの主張は争う。
4 その第四について
本件訴訟の争点と関係がないので、事実については認否しない。法律上の主張は争う。
四 第四章について
駐留軍用地特措法が違憲であるとの主張は争う。
第二 取消訴訟の審理の対象と司法審査の在り方
一 取消訴訟の訴訟物
本件使用認定取消訴訟の訴訟物は、本件使用認定の適法性、すなわち本件使用認定が法の定める処分要件に適合しているか否かである。
本件使用認定裁決取消訴訟の物は、本件使用裁決の適法性、すなわち本件使用裁決が法の定める処分要件に適合しているか否かである。
二 取消訴訟の違法事由
1
本件使用認定は、駐留軍用地特措法3条ないし5条の規定に基づいて被告内閣総理大臣がしたものである。したがって、右処分の違法事由となり得るのは、これらの法に定める処分要件に関するものに限られる。それ以外のものは違法事由とはなり得ない。
2
本件使用裁決は、駐留軍用地特措法14条によって適用される土地収用法の規定に基づいて被告沖縄県収用委員会がしたものである。したがって、右処分の違法事由となり得るのは、これらの法が定める処分要件に関するものに限られる。それ以外のものは違法事由とはなり得ない。
3
なお、本件使用認定や本件使用裁決の法的根拠となつた駐留軍用地特措法自体の合憲性は、右各処分が違法か否かを判断する前提となる処分要件自体の問題として審理の対象となる。
三 使用認定の要件
1
駐留軍用地特措法は、駐留軍の用に供するため土地等を必要とする場合において、当該土地等を駐留軍の用に供することが適正且つ合理的であると認められるときは、当該土地等の使用認定をすべきものとしている。(5条、3条)
同法3条にいう「適正且つ合理的」とは、対象土地等を駐留軍の用に供する必要性及び対象土地等を駐留軍の用に供することによる公共の利益と、駐留軍の用に供することによって失われる利益とを比較衡量し、前者が後者に優っていることを意味すると解すべきである。
2
なお、本件各土地は、沖縄復帰前は米軍により使用され、沖縄復帰後は公用地暫定使用法及び同法の暫定使用期間を延長した位置境界明確化法附則6項に基づき駐留軍用地として使用されてきたものである。
しかし、駐留軍用地特措法は、沖縄復帰前における米軍の土地使用、沖縄復帰後における公用地暫定使用法や位置境界明確化法に基づく駐留軍用地の使用を承継しようとするものではない。駐留軍用特措法及び同法が適用する土地収用法の各規定をみても、これらの法律は、使用認定の判断の対象を専ら申請に係る土地等の使用の適否に限定しており、使用前の土地等の使用関係の適否を判断の対象としていないことは明らかである。
四 原告らの主張する違法事由のうち審理の対象外の事項
1 原告らの次の主張は、本件使用認定の処分要件とは関係がなく、審理の対象外である。
すなわち、本件使用認定は駐留軍用地特措法に基づくものであり、本件各土地の過去の使用経緯及びその根拠法令の効力等が、本件使用認定の違法に影響を与える余地がないことは、前述したとおりである。したがって、原告らの右主張は、いづれも審理の対象外であり、主張自体失当である。
2 原告らの次の主張は、本件使用裁決の処分要件とは関係がなく、審理の対象外である。
平成9年法律第39号による駐留軍用地特措法の改正部分(以下「改正法」という。)が憲法31条、41条、95条、14条に漣違反するとの主張
すなわち・本件使用裁決は、駐留軍用地特措法14条により適用される土地収用法の規定に基づくものであり、改正法を根拠とするものではない。そうすると、原告らの右主張は、本件使用裁決の根拠法規以外の条項の違憲をいうものであって、本件使用裁決の審理の対象外であるから、主張自体失当である。
五 使用認定の取消訴訟における審理・判断の方法と主張・立証責任
1
駐留軍用地特措法3条の使用認定に当たっては、我が国の安全と極東における国際の平和と安全の維持にかかわる国際情勢、駐留軍による当該土地等の必要性の有無、程度、当該土地等を駐留軍の用に供することによってその所有者や周辺地域のなどにもたらされる負担や被害の程度、代替すべき土地等の提供の可能性等諸般の事情を総合考慮してされるべき政治的、外交的判断を要するだけでなく、駐留軍基地にかかわる専門技術的な判断を要することも明らかである。
2
以上のとおり、右要件の判断は、内閣総理大臣の政策的、専門技術的な裁量にゆだねられていると解されるから、内閣総理大臣のした使用認定の判断は、右裁量権の範囲を逸脱し、又はこれを濫用した場合に限って違法となる(最高裁平成8年8月28日大法廷判決・民集50巻7号1952ページ(以下「平成8年判決」という。)参照)。
そして、事柄の性質上、内閣総理大臣の使用認定における裁量権は極めて広範なものである。
3
右裁量権の逸脱、濫用の事由を基礎づける具体的事実についての主張は、立証責任は、原告らが負う。(行政事件訴訟法30条)
第三 日米安保条約、日米地位協定の違憲・国際法違反の主張について
一 違憲の主張について
原告らは、日米安保条約、日米地位協定は憲法前文、9条、13条に違反すると主張する(訴状3ページ)。
しかしながら、日米安保条約のような、主権国としての我が国の存立に極めて重大な関係を持つ高度の政治性を有するものが違憲か否かの法的判断は、純司法的機能をその使命とする司法裁判所の審査には原則としてなじまない性質のものであり、一見極めて明白に違憲無効であると認められない限りは、裁判所の司法審査権の範囲外にある。そして、日米安保条約及び日米地位協定は、憲法前文、9条、13条の趣旨に反して違憲無効であることが一見極めて明白であるとは認められない。したがって、裁判所は、これらが合憲であることを前提として駐留軍用地特措法の効力を審査すべきである。(最高裁昭和34年12月16日大法廷・刑集13巻13号3225ページ、最高裁昭和44年4月2日大法廷判決・刑集23巻5号685ページ及び平成8年判決参照)、原告らの前記主張は失当である。
二 国際法違反の主張について
原告らは、国際連合憲章(以下「国連憲章」という。)103条を根拠に同憲章が日米安保条約に優先するものであるところ、日米安保条約5条、6条はいずれも同憲章2条4項に違反すると主張する(原告ら準備書面120ページ)。
しかし、前述したとおり、日米安保条約は主権国としての我が国の存立に極めて重大な関係を持つ高度の政治性を有するものであるから、前述の合憲性判断と同様に、同条約が国連憲章に違反するか否かの判断も、純司法的機能をその使命とする司法裁判所の審査には原則としてなじまない性質のものである。したがって、日米安保条約が一見極めて明白に国連憲章に違反して無効であると認められない限りは、裁判所の司法審査権の範囲外にあるというべきである。そして、日米安保条役は、一条で「締約国は、国際連合憲章に定めるところに従い、(中略)それぞれの国際関係において、武力による威嚇又は武力の行使をいかなる国の領土保全又は政治的独立に対するものも、また、国際連合の目的と両立しない他のいかなる方法によるものも慎むことを約束する。」と、7条で「この条約は、国際連合憲章に基づく締約国の権利及び義務又は国際の平和及び安全を維持する国際連合の責任に対しては、どのような影響も及ぼすものではなく、また、及ぼすものと解釈してはならない。」とそれぞれ規定しており、同条約が国連憲章に適合することは明らかである。まして、同条約が国連憲章に違反して無効であることが一見極めて明白であることは到底認められない。さたがって、裁判所は、日米安保条約が国連憲章に適合していることを前提として駐留軍用地特措法の効力を審査すべきである。原告らの前記主張もまた失当である。
第四 駐留軍用地特措法の違憲主張について
原告らは、駐留軍用地特措法そのものが違憲であると主張する。
しかしながら、平成8年判決がが判示するとおり、駐留軍用地特措法には何ら違憲の点がない。以下、詳説する。
一 憲法前文、9条、13条、29条3項違反の主張について
原告らは、駐留軍用地特措法が、日米安保条約及び日米地位協定に基づき、駐留軍の用に供するために土地等を強制的に使用し又は収用することは、憲法前文、9条、13条が保障する平和的生存権を侵害し、憲法29条3項に違反すると主張する(訴状10ページ)。
しかし、駐留軍地特措法は憲法の右条項に違反しない。
すなわち、日米安保条約6条、日米地位協定2条1項の定めるところによれば、我が国は、日米地位協定25条に定める合同委員会を通じて締結される針日米両国間の協定によって合意された施設及び区域を駐留軍の用に供する条約上の義務を負うものである。我が国が、その締結した条約を誠実に遵守すべきことは明らかであるが(憲法98条2項)、日米安保条約に基づく右義務を履行するために必要な土地等をすべて所有者との合意により取得することができるとは限らない。これができない場合に、当該土地等を駐留湯軍の用に供することが適正かつ合理的であることを要件として(駐留軍用地特措法3条)、これを強制的に使用し、又は収用することは、条約上の義務を履行するために必要であり、かつ、その合理性も認められるのであつて、私有財産を公共のために用いることにほかならない。
国が条約に基づく国家としての義務を履行するために必要かつ合理的な行為を行うことが憲法前文、9条、13条に違反するというのであれば、それは当該条約自体の違憲をいうに等しいこととなるが、日米安保条約及び日米地位協定が違憲無効であることが一見極めて明白ではない以上、裁判所としでは、これが合憲であることを前提として駐留軍用地特措法の憲法適合性についての審査をすべきであることは、前述のとおりである。
したがって、駐留軍用地特措法は、憲法前文、9条,13条,29条3項に違反するものということはできない(平成8年判決参照)
二 憲法31条違反の主張について
原告らは、駐留軍用地特措法の使用・収用認定の手続は、土地収用法と比較すると、その手続を著しく簡略化しており、使用・収用される土地所有者等の権利保護に欠けるから、憲法31条に違反して無効であると主張する(訴状10ページ)。
しかし、原告らの右主張は、以下に述べるとおり失当である。
1
憲法31条の定める法定手続の保障が、行政手続について、それが刑事手続ではないとの理由のみで、そのすべてが当然に同条による保障の枠外にあるとすることは相当ではないとしても、行政手続は刑事手続とはその性質においておのずから差異がある上、行政目的に応じて多種多様である。したがつて、憲法31条による保障が行政手続に及ぶと解すべき場合であっても、保障されるべき手続の内容は、行政処分により制限を受ける権利利益の内容、性質、制限の程度、行政処分により達成しようとする公共の内容、程度、緊急性等を総合較量して決定されるべきものである(最高裁平成4年7月1日大法廷判決・民集46巻5号437ページ参照)。
2
そこで、これを駐留軍用地特措法の定める土地等の使用・収用の手続についてみる。
(一) 原告らは、使用・収用の認定の申請には、土地収用法18条に定める「事業計画書」若
しくはそれに相当する使用・収用の内容を具体的に説明した書類の添附が要求されていな いと主張する(訴状11ページ)。
しかし、駐留軍用地特措法における使用・収用は、様々な企業者の多岐にわたる事業を対象とする土地収用法とは異なり、使用・収用者は国のみであり、また、使用・収用の目的も駐留軍の用に供するという条約上の義務履行にある。このように、駐留軍用地特措法の下での使用・収用の認定においては、土地収用法における事業認定の要件のうち公共の利益性、起業者の適格性は当然の前提となつているから、駐留軍用地特措法は3条に掲げるもののみを要件として規定しているのである。
そして、同法4条1項は、使用・収用認定の申請をしようとするときは、「その他政令で定める書類」を添附することと規定し、同項の規定に基づく駐留軍用地特措法施行令1条により、使用・収用しようとする土地等の調書及び図面等を作成し添附することとされている。このように、駐留軍用地特措法の下では、その目的に応じて必要な書類等の添附が必要とされているのである。
したがって、原告らの右主張は失当である。
(二) 原告らは、駐留軍用地特措法には、土地収用法24条の関係書類の送付と縦覧、同法25条の利害関係人の意見の聴取の各規定に相当する手続の定めがないと主張する(訴状12ページ)。
しかし、駐留軍用地特措法は、その4条1項において、土地収用法24条及び25条の手続に相当するものとして、防衛施設局長があらかじめ土地等の所有者又は関係人の意見書を受け取ることとしている。そうすると、土地等の所有者等の権利保護の観点からは、駐留軍用地特措法の右手続は土地収用法のそれに比して優るとも劣らないものである。したがって、原告らの右主張もまた、失当である。
(三) 原告らは、駐留軍用地特措法では土地収用法23条に定める公聴会の制度を廃止していると主張する(訴状12ページ)。
しかし、土地収用法自体、公聴会の開催については、「建設大臣又は都道府県知事は、事業の認定に関する処分を行おうとする場合において必要があると認めるときは、公聴会を開いて一般の意見を求めなければならない。」(23条)と規定するのみで、公聴会の開催を常に義務づけているものではない。そうすると、公聴会制度の規定を欠くことをもつて駐留軍用地特措法の手続が土地収用法に比較して土地等の所有者等の権利保護に欠けるということはできない。原告らの右主張は理由がない。
以上のとおりであって、駐留軍用地特措法の定める手続の下に土地等の使用又は収用を行うことが、土地等の所有者等の権利保護に欠けると解することはできない。したがって、駐留軍用地特措法は、憲法31条に違反するものではない(平成8年判決参照)
第五 改正法の違憲主張について
改正法が違憲である旨の原告らの主張は、本件使用裁決取消訴訟の審理の対象外であり、主張自体失当であることは、前述したとおりである。
以下において、原告らの右主張は、次の観点からも理由がないことを念のため付言する。
一 改正法15条の暫定使用に係る規定の違憲主張について
1 憲法29条違反の主張について
原告らは、憲法29条3項が土地収用法にいう裁決手続をも保障するとの前提に立って、改正法は、暫定使用権の発生要件として裁決手続を不要としているのは憲法29条に違反すると主張する(原告ら準備書面162ページ)。
しかし、憲法29条3項は、「私有財産は、正当な補償の下に、これを公共のために用ひることができる。」と規定するのみであつて、手続規定を設けていないのであるから、同項が原告らの主張するような「裁決手続」を保障していると解する余地はない。したがって、原告らの右主張は、その前提において失当である。
2 憲法31条違反の主張について
原告らは、憲法31条が、@告知と聴聞の機会が与えられる権利、A中立機関(収用委員会)による事前の裁定、B事後の不服申立手続の存在、C手続継続による期待権をそれぞれ保障しているとの前提に立つて、改正法はこれらの保障を欠いており、憲法31条に違反すると主張する(訴状13ページ)。
しかしながら、以下に述べるとおり改正法は憲法31条に違反せず、原告らの右主張は失当である。
(一) 仮に、憲法31条による保障が行政手続に及ぶと解すべき場合であつても、保障されるべき手続の内容は、行政処分により制限を受ける権利利益の内容、性質、制限の程度、行政処分により達成しようとする公益の内容、程度、緊急性等を総合較量して決定されるべきものである。(前掲最高裁平成4年7月1日判決参照)ことは、前述したとおりである。
(二)改正法の定める暫定使用の手続には、以下の事情がある。
(1) 暫定使用は、我が国の日米安保条約6条に基づく義務を履行するために必要な土地等を駐留軍の用に供するものであり、条約上の義務を履行するために必要不可欠である。また、これによって得られる利益は日本国の安全並びに極東における国際の平和及び安全(日米安保条約6条)という極めて高度の公共の利益である。
しかも、暫定使用は、従前、使用裁決等によって使用が認められていた土地等につき、内閣総理大臣において引き続き駐留軍の用に供することが適正かつ合理的であると判断したものを対象として、収用委員会の裁決その他必要な権利を取得するための手続が完了しなかったことによって生ずる日米安保条約の実施上の重大な支障を回避するために行われるものであって、緊急の必要性がある。
(2) 暫定使用の要件は、@駐留軍の用に供するため所有者等との合意又は駐留軍用地特措法の規定により使用されている土地等で引き続き駐留軍の用に供するためその使用について同法5条の規定による内閣総理大臣の認定があったものについて、Aその使用期間の末日以前に収用委員会に対して権利取得裁決の申請及び明渡裁決の申立てをした場合であること、Bその使用期間の末日以前に使用のために必要な権利を取得するための手続が完了しないこと、C損失の補償のための担保を提供することというものである。
これらの要件は、その有無が外形的、客観的に明らかなものであり、しかも、これらは土地所有者側の事情にかかわらない。したがって、右要件適合性を判断するために、事前に土地等の所有者の意見を聞く必要はないし、事前に中立機関(収用委員会)の判断を得る必要もない。
(3) 他方、暫定使用により制限を受ける利益は、土地等の所有者がその使用を受忍しなければならなくなるという私益である。暫定使用は、使用裁決等により使用されてきたものが引き続き駐留軍の用に供されるというものであって、従前と同じ態様の使用がそのまま継続されるにとどまる。その使用期間は、明渡裁決において定められる明渡しの期限まで等という暫定的なものである。
(二) これらの事情を総合較量すれば、暫定使用に当たり、原告らの指摘する、@土地等の所有者に対する事前の告知、聴聞の機会の保障や、A中立機関による事前の裁定という制度を採らなくても、手続保障に欠けるところはなく、憲法31条に違反しないことは明らである。
なお、原告らは、暫定使用には事後の不服申立手続がないと主張するが、暫定使用には事後の不服申立てが可能である。すなわち、暫定使用は、改正法15条の定める要件に該当する限りその使用権が発生するものではあるが、右要件を満たしていないのであれば、暫定使用権は発生していないから、所有権に基づき当該土地等の明渡訴訟を提起することができる。また、右要件の一つである同法5条の規定による内閣総理大臣の使用認定に瑕疵があるというのであれば、その取消訴訟を提起して暫定使用権の発生を争うことができる。したがって、原告らの右主張はこの点からも失当である。
また、憲法31条が「手続継続による期待権」を保障しているとの原告らの主張は、その意味内容が不明確であり、既に主張自体失当である。この点をおいても、かかる権利が憲法31条の保障するものではないことは明らかである。
3 憲法41条違反の主張について
原告らは、憲法41条の「立法」は一般牲・抽象性を具備したものであることを要するところ、改正法は、沖縄県における駐留軍用地の未契約地主約3000人だけを対象とし、右地主らが賃貸借契約を拒否している場合にだけ適用されるという点で個別・具体的であり、同条の「立法」に当たらないと主張する(訴状14ページ)。
しかしながら・改正法は、駐留軍の用に供するため所有者等との合意又は駐留軍用地特措法の規定により使用されている土地等で引き続き駐留軍の用に供するためその使用について駐留軍用地特措法5条の規定による内閣総理大臣の認定があったものについて、適正な補償の下に暫定使用を認める制度を創設したものであり、一般的・抽象的性格を有するものである。このことは、その法文から明らかである。したがって、原告らの右主張は理由がない。
4 憲法95条違反の主張について
原告らは、改正法が沖縄県にのみ適用される地方自治特別法であるとの前提に立って、その制定には沖縄県民の住民投票が実施されなければならないのに、これが実施されなかったのは憲法95条に違反すると主張する(訴状16ページ)。
しかしながら、憲法95条にいう「特別法」とは、地方公共団体について一般的・原則的な制度を定めている既存の法律に対し、新たに特別的、例外的な制度を設ける法律であり、一の地方公共団体の組織、運営又は機能について他の地方公共団体と異なる定めをする法律をいう(宮澤俊義・芦部信喜補訂・全訂日本国憲法775ページ、清宮四郎・憲法T(第3版)421ページ)これに対し、暫定使用制度を創設した改正法は、一の地方公共団体の組織、運営又は機能について他の地方公共団体と異なる定めをした法律ではないし、また、同法は、前述したとおり一般的・抽象的性格を有しており、沖縄県についてのみ適用される特別法でもないから、憲法95条にいう特別法に該当しないことは明らかである。(平成8年判決参照)。したがって、原告らの前記主張は、その前提において失当である。
二 政正法附則2項の違憲主張について
1 憲法31条違反の主張について
原告らは、附則2項が従前の被使用者の権利を剥奪し新たに財産権を制約することを目的として創設された新規立法であり、改正前に駐留軍用地特措法で保障されていた被使用者の返還請求権を剥奪する点で手続的正義に著しく反し,憲法31条に違反する(原告ら準備書面164ページ)。
しかし、原告らの右主張はあいまいであり、趣旨が不明確であって、既に主張自体失当である。なお、改正法が暫定使用制度を創設したことにより、改正前の駐留軍用地特措法の下における使用期間満了による国の使用権原の消滅という事態が回避されたが、このような改正法の制定は、国の唯一の立法機関(憲法41条)たる国会が立法権能を行使したものにほかならず、何ら違憲の問題は生じない。
2 憲法14条違反の主張について
また、原告らは、附則2項が使用期間満了により土地等の返還請求権を取得していた原告らを含む特定の被使用者を対象としているものであって、特定の者に対する狙い撃ち立法であるとの前提に立って、憲法14条に違反すると主張する(原告ら準備書面165ページ)。
しかしながら、前述したとおり、改正法は,駐留軍の用に供するため所有者等との合意又は駐留軍用地特措法の規定により使用されている土地等で引き続き駐留軍の用に供するためその使用について同法5条の規定による内閣総理大臣の認定があったものについて、適正な補償の下に暫定使用を認める制度を創設したものであり、一般的・抽象的性格を有するものである。したがって、、附則2項は、原告らが主張するような、特定の者に対するねらい撃ち立法でないことは明らかであるから、原告らの右主張は、その前提において失当である。
第六 駐留軍用地特措法前の本件各土地使用に係る主張について
駐留軍用地特措法前の本件各土地使用に係る原告らの主張は、いずれも本件使用認定取消訴訟の審理の対象外であり、主張自体失当であることは、前述したとおりである。
以下においては、原告らの右主張は、次の観点からも失当であることを念のため付言する。
一 沖縄復帰前における米軍による土地の接収及び使用の違憲・国際法違反主張について
原告らは、沖縄復帰前の米軍による布令等に基づく土地の接収及び使用は国際法及び日本国 憲法に違反すると主張する(原告ら準備書面37ページ以下)。
しかし、沖縄復帰前における原告らの指摘する布令等は、我が国の施政権が及ばなかった時期において米国により発布施行されたものであり、我が国の憲法秩序の外にあったのであるから、日本国憲法及び国際法に違反するか否かを論ずる余地のないものである。したがって、原告らの右主張は理由がない。
二 公用地暫定使用法の違憲主張について
1 憲法14条違反の主張について
原告らは、公用地暫定使用法は沖縄県民を本土の住民と差別して取り扱うものであるから、憲法14条に違反すると主張する(原告ら準備書面45ページ)。
しかし、公用地暫定使用法は、沖縄復帰に伴い、米軍及び自衛隊基地の敷地だけでなく、電気工作物、航空保安施設及び航路標識の各用地等広く沖縄における公用地及び公用工作物に対する暫定的な使用権の設定を目的とする地域的な特別立法であり、同法の適用対象である沖縄に所在すち土地及び工作物について権利を有する者は沖縄県民に限られない。同法の適用を受けて権利を制限される結果として、他の都道府県の区域に所在する土地又は工作物について権利を有する者との間に差異が出てくるにすぎず、同法は沖縄の住民という理由で個人をを差別して取り扱うものではない。したがって、同法は、個人の属性による差別取扱いを内容とするものではなく、憲法14条に違反しない。
2 憲法29条及び31条違反の主張について
原告らは、公用地暫定使用法は収用手続を欠いており、憲法29条及び31条に違反すると主張する(原告ら準備書面48ページ)。
しかし、原告らの右主張は、以下に述べるとおり失当である。
(一)公用地暫定使用法は、憲法29条に違反しない。
すなわち、公用地暫定使用法は、ある法秩序の下に置かれていた地域が他の法秩秩序の下に移行する際に、国等が公用地等の使用を継続する必要があるにもかかわらず、契約等による使用権を取得する時間的余格がない場合に、その間隙を補充する目的で制定されたものである。
本件各土地は同法により米軍の軍用地として引き続き供されたものであるから、この点についてみるに、我が国は日米安保条約6条、日米地位協定の規定により合意された施設及び区域を駐留軍の用に供する条約上の義務を負うものであるところ、同法の施行の際沖縄において米軍のの用に供されている士地等で引き続き駐留軍の用に供する必要があるものを、国が権原を取得するまでの間使用することは、条約上の義務を履行するために必要であり、かつ、その合理性も認められ、私有財産を公共のために用いることにほかならない。以上の事情に、暫定使用による損失補償の規定が置かれていること等を併せ考慮すれば、同法が憲法29条に違反しないこと這明らかである。
(二)公用地暫定使用法は、憲法31条に違反しない。
(1) 仮に、憲法31条による保障が行政手続に及ぶと解すべき場合であっても、保障されるべき手続の内容は、行政処分により制限を受ける権利利益の内容、性質、制限の程度、行政処分により達成しようとする公益の内容、程度、緊急性等を総合較量して決定されるべきものである。(前掲最高裁平成4年7月1日判決参照)ことは、前述したとおりである。
(2) 公用地暫定使用法が日米安保条約との関係で定める土地等の暫定使用の手続には、次の事情が認められる。
ア 暫定使用により制限を受ける利益は、土地等の所有者がその使用を受忍しなければならなくなるという私益である。暫定使用は、同法施行の際米軍の用に供されているものが引き続き駐留軍の用に供されるというものであって、従前と同じ態様の使用がそのまま継続されるにとどまる。その使用期間は、権原を取得するまでの間という暫定的なもの(当初1年ないし5年とされ、後に10年と改正された。)である。
イ これに対し,暫定使用は,我が国の日米安保条約上の土地等を駐留軍の用に供する義務を履行するために必要なものである上、これによって得られる利益は日本国の安全及び極東における国際の平和と安全(日米安保条約6条)という極めて高度の公共の利益である。
しかも、暫定使用は,従前、米軍の用に供されてきた土地等につき、日米安保条約の実施上の重大な支障を回避するために行われるものであって、緊急の必要性がある。
(3) これらの事情を総合較量すれば、暫定使用に当たり、原告らの指摘するような、立入調査、事業の認定等の制度を採らなくても、手続保障に欠けるところはなく、憲法31条に違反しないことは明らかである。
3 公用地暫定使用法2条1項1号違反の主張について
原告らは、公用地暫定使用法が暫定使用権の発生要件として掲げる、土地等が「この法律の施行の際沖縄においてアメリカ合衆国の軍隊の用に供されていること」(2条1項1号)とは、米軍において使用の正当な権原を有することを意味するとの前提に立って、米軍の土地接収は正当な権原によるものではないから、国は暫定使用権を取得することができなかったと主張する(原告ら準備書面49ページ)。
しかし、米国が復帰前の布令等によって取得していた使用権は、我が国の法制上定められている賃借権、地上権とは異なる内容のものであって、施政権の返還に際しては、当然にはわが国の法制上の権利として存続し得ないものである。しかも、沖縄復帰に際し、同布令等よって取得された使用権を我が国の法制上の使用権原としてそのまま存続させるような特別の立法措置は採られていない。したがって、同布令等によって取得された収用権は沖縄復帰によって消滅したというべきである。
そして、公用地暫定使用法は、沖縄復帰前に公の目的に供されていた土地等でその供用に係る機能を引き続き維持する必要があると考えられたものについて、新たに使用権原を設定するために制定されたのである。そうすると、同法2条1項1号にいう「用に供されている」とは、布令20号等に基づいて米軍の用に供されていることを意味するにすぎないことは明らかである。
したがって、原告らの右主張は理由がない。
三 位置境界明確化法附則6項の違憲主張について
原告らは、位置境界明確化法附則6項により、消滅した暫定使用権を復活させることはできず、暫定使用期間を延長させることは憲法31条、29条に違反すると主張する(原告ら準備書面61ページ)。
位置境界明確化法附則6項がいったん消滅した暫定使用権を復活させるものであることは指摘のとおりであるが、この立法には、@国において対象土地を引き続き従前と同じ公の目的のために使用する必要があり、改正の前後を通じ暫定使用権の内容が同一であること、A当初の暫定使用権の消滅からその復活まで四日間しか経過しておらず、しかも、Bその間米軍が対象地に対する現実の占有を続けており、現地の占有状況に何らの変更が生じなかったこと等の事情からみて、同法附則6項による暫定使用権の復活は、国の唯一の立法機関(憲法41条)たる国会の立法裁量の範囲内であり、何ら憲法31条、29条に違反しないというべきである。したがって、原告らの右主張は理由がない。
第七 本件使用認定の適法性
本件使用認定は、手続的にも実体的にも違法である。
一 本件使用認定の手続的適法性
本件使用認定は、以下に述べるとおり、手続き的に適法である。
1
(一)那覇防衛施設局長は、平成7年4月6日、被告内閣総理大臣に対し、平成7年(行ウ)第9号原告島袋善祐および同原告池原安夫の本件各土地につき使用認定の申請をした。
(二)那覇防衛施設局長は、平成7年4月17日、被告内閣総理大臣に対し、平成7年(行ウ)第9号のその余の原告らの本件各土地につき使用認定の申請をした。
2 被告内閣総理大臣は、平成7年5月9日、本件使用認定をした。
二 本件使用認定の実体的適法性
本件使用認定は、以下に述べるとおり、実体的にも適法である。
1
前述したとおり、駐留軍用地特措法3条にいう「適性且つ合理的」とは、対象土地等を駐留軍の用に供する必要性及び対象土地等を駐留軍の用に供することによる公共の利益と、駐留軍の用に供することによって失われる利益とを比較術量し、前者が後者に優っていることを意味すると解すべきである。
2 本件使用認定には、次の事情がある。
(一)駐留軍用地提供の必要性、公共の利益
我が国は、日米地位協定25条に定める合同委員会を通じて締結される日米両国間の協定によって合意された施設及び区域を駐留軍の用に供する条約上の義務を負う(日米安保条約6条、日米地位協定2条1項)。このように、本件使用認定は、日米安保条約に基づく右義務を履行するために必要な本件各土地を強制的に使用するものであり、条約上の義務を履行するために必要不可欠である。また、これによって得られる利益は日本国の安全並び極東における国際の平和及び安全(日米安保条約6条)という極めて高度の公共の利益である。
(二)沖縄における駐留軍用地提供に至る経緯からみた公共の利益
また、沖縄において駐留軍用地を提供する経緯は、以下のとおりである。
(1) 本件各土地は、沖縄復帰時において、沖縄返返還協定3条1項の規定に関し両国政府間で行われた協議の結果を示すものとして昭和46年6月17日に交わされた了解覚書により、駐留軍が使用する施設及び区域として日米合同委員会において合意する用意のある施設及び用地に区分された土地である。
(2) 沖縄返還協定は昭和47年3月22日に公布され、同日、日米合同委員会において日米安保条約6条及び日米地位協定2条に基づき駐留軍が沖縄県内で使用を許される施設及び区域の提供等について合意した。この合意にによれば、本件各土地は右提供に係る施設及び区域に含まれている。
(3) 沖縄の復帰に際しての日米首脳会談において、佐藤内閣総理大臣は、沖縄の駐留軍施設及び区域が復帰後できる限り整理縮小されることが必要と考える理由を説明し、ニクソン大統領も、双方が施設及び区域の調整を行うに当たって、これらの要素は十分に考慮に入れられる旨を答えた。
(4) その後、我が国は、駐留軍の使用に供された施設及び区域の整理統合縮小のために、日米合同委員会、日米安全保障協議委員会等において交渉を重ねてきているが、本件各土地については返還の合意に至っていない。本件各土地は、いずれも駐留軍用地の各種施設の敷地、保安用地などとして使用され、駐留軍用地内の多くの土地と一体になつて有機的に機能している。
以上のとおり、沖縄における一定範囲の駐留軍用地を確保することは、、日米両国にとって沖縄復帰の際の基本的政策であり、両国とも、本件使用認定の時点でも、更には今日まで、右政策を変えることなく維持しているのである。このような経緯からも明らかなように、沖縄における駐留軍用地の提供は、日米両国の基本的な政策であり、本件各土地の強制使用もかかる政策の一環であるから、本件使用認定は、日本の安全と国際の平和及び安全に資するものであって、極めて公益性が高いものである。
(三)沖縄における駐留軍用地提供の合理性
沖縄において駐留軍用地として本件各土地を提供する合理性は、以上のほかにも、次のものがある。
(1) 沖縄は,複数の島々から成り、アジア大陸に近く、日本列島の南西端にあるため、日本の安全と極東における国際の平和と安全に寄与するという日米安保条約6条の目的達成のために駐留軍施設及び区域を設けることにつき優れた地理的条件を満たしており、それが我が国政府の認識である。
(2) 従前駐留軍用地として提供されていた土地をそのまま提供することは、新たに同種同規模の土地を確保して提供する方法(新しい土地の確保に係る経費、施設及び及び区域の建設・設置が別途必要になる。)に比べはるかに財政均な負租が少ない。
(3) 従前提供されてきた駐留軍用地の大部分(使用権原を必要とする土地の総面積中の約99・8パーセント)は、国が土地所有者との間の賃貸借契約に基づき使用権原を取得してきたものであり、今後も賃貸借契約により使用することができる見込みがあった。したがって、所有者との合意により使用権原を取得する見込みのない土地所有者(使用権原を必要とする総面積中の約0・2パーセント)に対して駐留軍用地特措法が適用されれば、賃貸借契約を締結する所有者の土地と併せて従前の駐留軍用地をそのまま提供ることができる関係にあった。
そうすると、従前提供されていた駐留軍用地をそのまま提供することは、新たに同種同規模の土地を確保して提供することに比べ、はるかに実現可能性・容易性があるだけでなく、基地提供により失われる利益も小さい。
(四)駐留軍基地提供によって失われる利益
(1) 他方、駐留軍用地を提供することによって失われる利益は、土地等の所有者がその使用を受忍しなければならなくなるという私益である。しかし、使用認定の対象となった地等は正当な補償金が支払われるから、当該所有者が使用認定により経済的損失を受けることはない。
(2) このほか、駐留軍用地を提供することによって周辺住民などに基地から派生する騒音等の問題が生じる。しかし、これに対しては、昭和54年に、沖耗県、那覇防衛施設局長及び在沖米軍の三者連絡協議会が設けられ、基地から派生する問題の軽減のための対策を協議し、軍用機の夜間飛行の規制、エンジンテストの時間規制等の措置や基地周辺住宅等の防音対策を講ずるなどしてきた。
3
以上のとおりであって、本件使用認定は、本件各土地を駐留軍用地として提供する必要性がある上、これによって得られる公共の利益が極めて高く、これが駐留軍用地として提供することにより失われる利益に優ることが明らかというべきであるから、駐留軍用地特措法3条にいう「適性且つ合理的」の要件に該当する。
第八 本件使用裁決の適法性
本件使用裁決は、手続的にも実体的にも適法である。
一 本件使用裁決の手続的的法性
本件使用裁決は、以下に述べるとおり、手続的に適法である。
1
那覇防衛施設局長は、平成8年3月29日、被告沖縄県収用委員会に対し、本件各土地につき、使用裁決の申請と明渡裁決の申立てをした。
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被告沖縄県収用委員会は、平成10年5月19日、本件使用裁決(権利取得裁決と明渡裁決とから成る。)をした。
二 本件使用裁決の実体的適法性
本件使用裁決は、駐留軍用地特措法14条によって適用される土地収用法47条の2、48条、49条の規定に基づくものであり、実体的にも適法である。