駐留軍用地特別措置法改正案に対する声明

 政府は、本日(4月3日)、駐留軍用地特別措置法(日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約第6条に基づく施設及び区域並びに日本国における合衆国軍隊の地位に関する協定の実施に伴う土地等の使用等に関する特別措置法)の改正案を閣議決定し、国会に上程した。

 この改正案は、現在、沖縄県内の13施設内に所在する米軍用地に対する強制使用手続が県収用委員会において進行中のところ、咋年3月31日をもって使用期間が終了した楚辺通信所内の一筆の土地に加え、嘉手納飛行場を含むその余の12施設内の土地248筆の使用期間が満了する本年5月14日までに使用権原を取得することが不可能となった場合に備え、使用権原の消滅する5月15日以降も収用委員会の裁決により使用権原が取得できる日までの間、暫定使用を認めることが主な内容となっている。

 いうまでもなく、強制使用・収用は、憲法29条が国民に保障する私有財産権を制限、剥奪するものであるから、その手続については、土地収用法により、厳格に法定されている。駐留軍用地特措法は、この土地収用法では強制使用・収用できない米軍用地のための特別法であり、それ自体憲法9条、前文にかかげる平和主義、憲法31条の適正手続の保障等との関連で問題の存するものである。しかるに、今回の改正案は、暫定使用の名目のもとに、単に起業者たる国が裁決申請をしただけで使用権原の取得を認め、厳格な手続を経ないで国民の財産権制限を可能にするものである。したがって改正案は、収用委員会という第三者たる準司法機関の審理・判断を経て初めて強制使用・収用を可能ならしめている現行土地収用法の体系を根本から否定するものであり、きわめて違憲性の強い改正案と評価せざるをえない。

 しかも、手続の進行中に、その手続によっては政府の意図する目的が達せられないとして、政府自らが法改正を企図することは、法によって権力の恣意的発動を抑止しようとする法治主義ないし法の支配の理念に反するものである。

 当連合会は、沖縄の基地問題に重太な関心をよせ、1972年の復帰前からことあるたびに実態調査を行い、それを踏まえて意見表明や提言等を行ってきた。今回の改正案は、沖縄県民に対する新たな人権侵害を招来するだけでなく、違憲状態を作出し、民主主義に反し、法に対する国民の信頼を著しく損なう虞れがあることを特に憂慮せざるをえない。

 国会においては、各党が慎重審議をなし、安易に人権侵害をもたらし、法の原理・原則に反する法改正を行うことのないよう強く要望するものである。

      1997(平成9)年4月3日           

      日本弁護士連合会           

      会 長 鬼 追 明 夫     


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