改訂米軍用地特措法案の逐条解説
弁護士 阿波根昌秀
十二条 (前条の異議の申出、原状回復に関する処分に対する異議)
- 十一条一項に、駐留軍の用に供した土地等の返還に際し所有者から原状回復の請求があった場合でも、(1)回復が著しく困難である場合、(2)回復しないことが土地使用上合理的である場合は回復しないことができるとの定めがあり、
同条二項に、右の場合所有者に損失補償をすべきことの定めがあり、
同条三項に、建物につき国が有益費を出した場合その償還請求ができるとの定めがある。
- 本条は原状回復に関する右の処置について異議がある場合の規定で、現行法には内閣総理大臣が「政令で定める審議会」の意見を聴いて裁決すると定められていたが、改正法では「防衛施毀中央審議会」の意見を聴いて裁決すると定める。
但し、現行の政令の定めでも、この審議会は防衛施設中央審議会となっているので、変わりはない。なぜ、かかる改訂がなされるのか意味不明。政令事項から法律事項になったことに、何らかの意味があるかも。
十三条 (引渡調書の代行署名)
- 収用法三十六条は、土地調書及び物件調書の作成に関する定めである。この規定の、
二項は、起業者が土地所有者らを立会わせた上で調書を作る義務
三項は、所有者らによる異議署名
四項は、市町村長による代行署名
五項は、知事による代行署名
を定めている。
- 本条の一項及び二項は現行と同じ定めであるが、一項で防衛施設局長による「引渡調書」の作成義務を定め、二項で「引渡調書」の記載内容を定めている。
本条は、「引渡調書の作成」について土地収用法三十六条の準用を定めたものである。現行の規定と異なるのは、三十六条の五項は準用されていないことである。すなわち、現行の規定によれば引渡調書の作成についても知事の代行署名の手続があるが、改訂法ではこれを削除した。
削除の理由は次項参照。
- 本条により「市町村長」とあるのは、「内閣総理大臣」と読み替えられている。従って、準用される収用法三十六条四項の「市町村長による代行」署名は、「内閣槻総理大臣による代行」となる。すなわち、所有者らが署名を拒否した場合、この段階で内閣総理大臣の代行で署名の事務は完結し、知事への代行に移行することはなくなる。
従って、知事の代行を定めた三十六条五項の適用はなくなる。
十四条 (土地収用法の適用その一、適用除外条項の追加)
- この規定は、駐留軍用地の使用・収用手続について、土地収用法の規定の準用を定めたものである。
- 現行法では「土地等の使用又は収用の認定」を「事業認定」とみなし、「土地等の使用又は収用の認定の告示」を「事業の認定の告示」とみなすとの定めがあるが、改訂法はそれぞれ「建設大臣の行う事業の認定」「建設大臣の行う事業の認定の告示」とみなすとの規定に変わっている。
事業の認定を行う処分庁は、建役大臣と都道府県知事の二種類があるが、今回の改訂は、右二種類の事業認定のうち「建設大臣の行う事業の認定」のみを「土地等の使用又は収用の認定」とみなし、「都道府県知事の行う事業の認定」はこれを含まないとしたものである。これは、用語を明確にしたに過ぎないものと思われる。
- 十四条一項は、駐留軍用地の使用収用に関して原則として土地収用法の規定を適用すると定めつつ、同法の規定で適用されない規定をカツコ書き内に列記しでいる。
現行法で適用されていた条項のうち、改訂法で新たに適用除外となる主な規定は、左記のとおりである。
(一)三十六条五項(土地物件調書の代行署名)
既に説明したように、土地・物件調書の代行署名が、内閣総理大臣による直接事務となったので、知事の代行署名を定める同項は適用されなくなる。
(二)四十二条四項 〜 六項(裁決申請書等の公告縦覧等)
法四十二条は、裁決申請書の送付及び縦覧を規定している。同条の四項ないし六項は、市町村長が公告縦覧を行わない場合、知事がこれを代行することを定めたものである。
この一連の事務に市町村長や知事が関与することを一切排除し、すべて内閣総理大臣の行う直接事務としたものである。
* 十四条二項参照。
(三)八章三節(緊急に施行する必要がある事業のための土地の使用)
一二二条(非常災害の際の土地の使用)
一二三条(緊急使用)
一二四条(損失補償)
改訂法では、「特定土地等」について緊急裁決の制度が新設される(一九条)ので、非常災害時の一時使用及び緊急使用の制度は不要となる。
(四)一二五条一項並びに二項二号、四号及び五号
一二五条は、各種の申請等についての手数料の負担を定めた規定である。同条は一項のみで二項の規定はない。二項二号以下は、錯誤ではないか。
- 一四条二項前段(土地収用法の適用そのニ、読み替え条項)
同条項は、いわゆる読み替え条項である。この読み替えでもって、現行法上の市町村長や知事の機関委任事務は内閣総理大臣の直接行う事務となる。その 主なものは、左記のとおりである。
(一) 知事の事務から内閣総理大臣の直接事務となるもの(条文は土地収用法)。
(イ) 十一条 事業準備のための土地への立入許可
(ロ) 十四条 事業準備のための障害物の除去・試掘等の許可
(ハ) 十五条 立入許可証の交付
(ニ) 十五条の二 あっ旋行為
(ホ) 十五条の三 あっ旋委員の任命
(ヘ)
十五条の五 あっ旋結果の報告、受理
(ト) 二十八条の三 使用収用認定後の土地の形質変更の許可
(チ) 八十九条 形質変更に対する補償要件としての許可
(リ) 一〇二条の二 土地物件の引渡の行政代執行関連事務
(ヌ) 一四三条 罰金開連規定
(二)市町村長の事務から内閣総理大臣の事務となるもの
(イ) 十二条 事務のための土地立入通知
(ロ)
十四条 事務準備のための障害物の伐除の許可
(ハ) 三十六条 土地物件調書の代行署名
(ニ) 四十二条 裁決申請書写の送付先及びその公告縦覧
(ホ) 四十五条 特例申請の場合の裁決申請書の公告縦覧
(ヘ) 四十七条の四 明渡裁決申請書の公告縦覧
(ト) 一〇二条の二 土地物件の引渡の代行
(チ)
一一八条 協議確認書の公告縦覧
(リ) 一二八条 土地物件引渡等の事務の手数料
(ヌ) 一四三条 罰金
なお、現行法では収用委員会の裁決についての不服申立は建毀大臣宛となっている(一二九条)が、改訂法では建改大臣を内閣総理大臣と読み替えることにより、内閣総理大臣が審査庁となる。
使用収用認定についての不服申立も、一三一条の同様の読み替えで審査庁は内閣総理大臣となるか?
- 十四条後段
(一) 公告官報公告(公告事務が内閣総理大臣となったため)
(二) 当該紛争あらかじめ当該申請に係る土地等が所在する都道府県の意見を聴いた上で当該紛争(あっ旋は知事が行う事務から内閣総理大臣の事務となったため、少なくとも知事の意見ぐらいは聴こうということか)
(三) 収用委員会からのあっ旋委員の選任 あらかじめ知事の意見を聴いて内閣総理大臣が任命する(現行では、知事が任命する)。
(四) 当該市町村長の吏員→内閣総理大臣の指名する者
(五) 被指名者の除斥
(六) (以下、省略)
十五条(認定土地等の暫定使用)
- 認定土地等の定義は、後述のとおりである。認定土地等については、使用権原が消滅する前に裁決申請をすれば、暫定使用権が発生する。改正法の一項から六項までは現行法と同一の規定であるが、現行法の七項は、改訂法では削除されている。
現行法七項は、「前条の規定にかかわらず、認定土地等の使用に関しては、土地収用法第百二十三条の規定は適用しない」と定めている。「前条の定」とあるのは、主として土地収用法の準用―適用を定めたものであり、その中には百二十三条(緊急使用の規定)も含まれている。現行法では暫定使用の制度ができた以上、緊急使用の制度は認定土地等については不要になったため、七項によりその適用を否定した。
改訂法では、十四条で述べたように百二十三条も含めて土地収用法の八章三節の適用をしないと規定するので、現行法の七項は不要となる。
十八条(土地等の使用又は収用のための立入に際しての地方公共団体への通知等)
現行法では、事業準備のための土地立入、障害物の伐除、試掘等については知事又は市町村長の許可事務となっているが、改訂法では右の事務が内閣総理大臣の事務となったため、知事や市町村長へは立入申請等がなされた旨の通知をし、或いはその意見を求めることになった。
十九条(緊急裁決)
- 申立者
- 裁決機関
- 対象土地
- 裁決期限
- 原則として五か月。但し、裁決申請書の公告縦覧期間満了後の申立については二か月以内。
- 内閣総理大臣への通知
- 緊急裁決期限内に緊急裁決の申立についての裁決かなされない場合は、その旨を内閣総理大臣に通知する。
* 特定土地等とは、駐留軍の用に供するため五条の規定による認定(使用認定・収用認定)があった土地等のうち、認定土地等を除くもの
* 認定土地等とは、駐留軍の用に供するため所有者もしくは関係人との合意又はこの法律の規定により使用されている土地等で引き続き駐留軍の用に供するためその使用について五条の規定による認定があったもの、と規定されている(十五条)
すなわち、次の三つが認定土地等の要件である。
- 現に駐留軍の用に供されていること
- 引き続き駐留軍の用に供されること
- 使用についての認定がなされていること
従って、
- 新たに駐留軍の用に供するための使用認定のなされた土地は「認定土地」ではなく特定土地である。
- 現に駐留軍の用に供されている土地で、収用認定(使用認定ではない)がなされた土地は「認定土地等」ではなく特定土地等である。
* この規定からみても、緊急裁決の申立は通常の裁決申請がなされる以前にも申立をすことが可能だと解される。
二十条(緊急裁決の際の損失補償金の定め方)
- 補償金の算定は審理途中での資料で判断して可
- 概算見積もりによる仮補償金での裁決も可
二十一条 (補償裁決)
- 仮補償裁決がなされた場合は、さらに審理を尽くし補償裁決をする。
- 補償裁決に基づく補償金については、土地収用法七章の規定は原則として適用されない。
* 法七章には、権利取得時までに補償金の支払いを義務づけ、これまでに支払や供託がなされない場合には権利が失効する旨の規定がある。
二十二条(内職籠理大臣への事件の送致)
- 緊急裁決について収用委員会が期限内に裁決をしない場合は、防衛施設局長は収用委員会に対して異義申立をすることができる。
行政不服審査法五〇条は、不作為についての異義申立がなされた場合、処分庁(収用委員会)が異議申立について判断をすることになっているが、この規定では収用委員会では判断せずに、事件を内閣総理大臣に送致することになる。
なお、この場合、送致される事件は異議申立事件ではなく「土地収用法第三十九条第一項による申請に係る事件」である(いわゆる権利取得裁決明渡裁決申請事件の本事件)。
- 期限内に裁決がなく、防衛施設局長から不作為についての異議申立がなされた場合、その申立の日からlか月以内に裁決を行うべき日を定めた場合は、収用委員会自ら裁決することもできる。
二十三条 (裁決の代行)
- 事件が収用委員会から内閣総理大臣へ送致された場合
- 防衛施設局長の不服申立後一ヶ月経過しても収用委員会が裁決せず、同局長から内閣総理大臣自ら裁決を行うことの申請があった場合
右二つの場合、内閣総理大臣は自ら裁決をすることができる。また、審理手続開始後はもちろん、その前においてなすべき処分(例えば裁決申請書の公告縦覧や所有者らからの意見の聴取)等をなすことも可。
なお、内閣総理大臣が裁決を代行する際には、防衛施設中央審議会の議を経なければならない。
二十四条(却下裁決の取消しの特例)
収用委員会のなした裁決に対する審査請求は、建設大臣にではなく内閣総理大臣宛なすことになる。従って、この審査請求に対しては内閣総理大臣が裁決をすることになる。
通常、審査庁は原決定を取消すことはできるが、原処分庁に代わって自ら処分をなすことはできない(沖縄県収用委員会のなした地籍不明地に対する却下決定について建設大臣に審査者求かなされているが、建設大臣は収用委員会の決定を取消すことはできても、自ら裁決することはできないいと解されている。建設大臣が収用委員会の決定を取消して、事件が収用委員会に再び係属し、再度却下決定が出され、さらに建設大臣に審査請求がなされ、何時までもこれが繰り返されることも理論上は有り得る)。
この規定で内閣総理大臣は収用委員会の原決定(却下の裁決)を取消すだけでなく、自ら裁決(緊急裁決も含む)をなすことか可能となる。この場合にも、防衛施設中央審議会の議を得る。
二十五条(代行裁決等の審理の特例)
- 内閣総理大臣は(必ずしも収用事件の専門家ではないから、「指名職員」にその事務を行わせることが可。
- 審理手続、調査手続きの準用(公開審理も条文上は可)
- (以下、略する)
米軍用地特措法(1999)
[米軍用地特措法 改悪・再改悪 関連資料]
[沖縄・一坪反戦地主会 関東ブロック]