新崎盛暉さん
一坪反戦地主会代表世話人
一坪反戦地主会の代表世話人の一人である新崎盛暉です。
わたしたちのこの特措法改悪に対する見解は、違憲共闘会議、反戦地主会、そして一坪反戦地主会、反戦地主弁護団、一坪反戦地主弁護団の、いわゆる五者協の4月3日の抗議声明にもはっきり明記してありますように、戦時中の日本軍の土地収用、そして戦後、住民が収容所に入れられている間に、まるで白地図の上に線を引くようにして行われた軍用地の囲い込み。それに引き続く、いわゆる「銃剣とブルドーザー」による土地強奪。それを正当化した、公用地法、沖縄のみに適用される公用地法。そして地籍明確化法という法律の付則によって、延長された公用地法。そして米軍用地特措法による3回にわたる強制使用。その歴史の上に、土地強奪の歴史の上に、新たな屈辱の1ページを書き加えるものであると言わなければなりません。
そして、この、これだけいわば沖縄を踏みにじるこの措置は、それが実は、日本社会の、日本の政治の、荒廃を深めつつある。そういうことを是非みなさんにも、認識していただきたいと思うわけであります。
この特措法の改正は、当初、公開審理が行われている間、収用委員会が審議されている間、期限が切れても暫定使用をするための緊急避難的な最小限度の法的改正である、などと言われていました。もし、そうだったとしても、現在、米軍用地特措法によって、進んでいる手続きの途中で、法を改正するというのは、まるで、試合をしていて負けそうになったほうが、途中でルールを変えると言うような問題である。ということが繰り返し繰り返し指摘されてきました。
しかし、いざ蓋を開けてみると、問題はそこにとどまっているわけではありません。審理の途中どころか、例えば、収用委員会が、この裁決を、この強制使用の申請を、不当であるとして却下したとしても、なお、政府はこの土地を使い続けることができる、ということになっているんです。つまり、これまで、政府は、収用委員会には却下の権限はないと称しています。しかし、この間の公開審理で、実は対象となるべき土地所有者を取り違えて、関係の無い別人の、亡くなった方の相続人に、生きている人の土地、を勝手に職権で相続させて、この人を対象にして、土地の強制使用を行おうとしている、などというとんでもない事態を、我々は発見し暴露してきました。
その結果、政府はついに、却下すらありうる、ということを認識せざるを得なくなってきたわけです。その結果何をしたか。却下されても、那覇防衛施設局長が審査請求中は、この土地を使えるという。
今、ご承知の方もいらっしゃるかもしれませんけれども、わたくしたちは5年前の、沖縄県収用委員会による裁決が問題である、として、建設大臣に不服申立てをして審査請求中です。しかし、5年前に審査請求をしたわれわれの審査請求というのは、すでに5年間の強制使用が切れようとする現在にいたるまで、まだ審理中です。建設省に問い合わせても、「いやこういう審査というのは平均しても5年や6年はかかる。」と平気な顔をして言う。これはどういうことを意味するのかというと、沖縄県収用委員会が、ただちに、この現在の強制使用を却下したとしても、却下の裁決を下したとしても、審査請求中は、建設大臣が審査をしている間は、5年でも6年でも、この土地を使うことができるというのです。
こんなでたらめな法というものがあるのか。もはや日本国家は、遂に、その法治国家という建て前すらかなぐり捨ててきている。こう言わざるを得ません。ここに日本という国家の荒廃ぶりが明瞭に示されていると言わなければいけないのです。
それどころではありません。申請しておけばどこまででもいいというんですから、例えば、収用委員会がこんな収用はできない、といって、全員辞任をして、いなくなってしまっても、暫定的に強制使用ができるというのです。これが今の法案なのです。
こんな法律というものが、今だかって、日本の歴史に登場してきたでしょうか。米軍用地特措法という聞き慣れない、いままではみんながあまり耳にしたことのない、マイナーな法律の、多少の改正であるかのように、思われているこの法案は、実は近代日本の、あるいは現代日本の法体系そのものを覆すような内容を持っているのです。この事実を、みなさんは、具体的にはっきりと、認識していただきたいと思います。今、われわれが直面しているのは、こういう問題なのです。
少なくとも、日本は資本主義国家ですから、憲法29条に財産権はこれを侵してはならない、と書いてあります。しかし、公共の福祉のためには、正当な補償を支払えば、強制使用や収用をしてよろしい、という例外規定も憲法29条にあります。この例外規定を受けて、土地収用法という法律があります。しかし、日本国憲法下で作られた土地収用法は、軍事目的に土地を使用することはできませんでした。したがって、安保条約を結んで、米軍に土地を提供する、ということを決めた時に、日本政府は、特別の土地収用法としての米軍用地特措法を作らざるを得なかったのです。しかし、なお、その段階では、米軍用地特措法というのは、土地収用法では使えない米軍用地の提供のために使える。ということにはしましたけれども、基本的に収用法の体系の、法体系のなかにあるという具合に位置づけられていましたから、手続きその他は、土地収用法を準用する、ということになっていました。
今や、日本政府は、その建て前すらかなぐり捨てようとしてます。そして、強制使用のためには、とりあえず公正な判断が必要だと言うことで、第三者機関の判断、つまり、裁決が必要だとされました。そして、地方自治という建て前から、各都道府県におかれている収用委員会は、その判断をする準司法的中立機関であると、日本の現代の法体系は位置づけています。
しかし、今、日本政府が、行なおうとしているのは、この収用委員会が、あってもなくてもいい状況で、いくらでもこの土地が使える、ということにしようとしているわけです。
したがって、沖縄で今、この法律に対して「永久暫定使用法」などという呼び方が生まれています。暫定使用と、永久使用とでは、そもそも矛盾する言葉です。しかし、まさに今、暫定使用の目的のためと称して、永久使用を行おうとしている。これが、この法の本質であります。
そして、ここまで、日本政府をして、こういう問題を、あれしているわけですけれども、これに対して、もはや、成立したも同然だという報道がなされています。なぜなら小沢と橋本が手打ちをしたからだ、小沢はこれまで、このような小手先の対応ではだめだ、もっと本質的な法改正をやらなければいけない、特別立法をやらなければならない、つまり、国の安全保障などというのは国の義務だから、地方自治体、地方の関与を一切断ち切らなけばいけない、と言ってきたわけです。
そういってきた小沢と橋本に、どうして妥協の余地があったのか。それは、小沢の言っていることは、権限を奪うと宣言して権限を奪うということです。橋本がやろうとしているのは、権限は奪わないと称して権限を奪うことなんです。したがって、彼らの間には、もう、50歩100歩、実質的には同じ認識が成立しうる余地ができてきた。そこから、このあきれた妥協、翼賛体制というのが生まれようとしているわけです。
そういう中で、今沖縄に、この差別的立法が押しつけられようとしてます。そして先ほどからいっているように、沖縄を差別すればするほど、実は日本社会そのものが荒廃に向かっている、転げ落ちていっているのだ。そのことこそを、みなさんに明確に認識していただきたいのです。
このことを今、くい止めなければ、これは沖縄が差別されるという事だけではなくて、日本そのものが荒廃のどん底に向かって進み続けていく、ということにならざるを得ないわけです。
わたしたちはこのことを、心から訴えるものです。そして、沖縄と共に、全国のみなさんが、このでたらめ極まる法の成立を阻止するために立ち上がっていただくことを呼びかけるものです。
そして、しかし、わたしたちは、この状況が、実はわたしたちの闘いによって、生み出されたというもう一つの側面を見抜いておかなければならないと思います。これまで、さきほどもいいましたけれども、特措法による強制使用というのは沖縄で3回繰り返されてきました。しかし、その闘いというのはほとんど認識されていませんでした。今くらい、例えば、公開審理などというものが、それから、米軍用地特措法などというこれまで聞き慣れない名称の法律が、広く認識され始めた時期はないでしょう。だからこそ、日本政府は、この法律を改正して、「永久暫定使用」に踏み切らざるを得なかったわけです。
このわたしたちが追いつめている状況と、しかし、彼らは、みなもって振り下ろそうとしているこの大鉈と、この相関関係をしっかりと見据えて、わたしたちの連帯の力で、これを打ち破る闘いを作り出すことを、こころから訴えて、わたしの挨拶にかえさせていただきます。