書評 

『技術と人間』(1998年4月号)


沖縄軍用地違憲訴訟支援県民共闘会議編集

公開審理闘争の記録『くさてぃ』

 「おばあさんが『今日は、どうしても待ってくれ。子どもが熱を出しているから』ということをお願いしても米兵は聞き入れずに、土足でこの家に入り込んで、荷物もそれから人間もみんなトラックに乗せて、ものの何分間に家を潰した。ブルドーザーで家を潰すのを私はこの目で見ました。私の姉の家もその13戸の中に入っていましたので、行ってみたら押し潰されて、火をつけられて2軒の家がくすぶっているのを私は見て帰ってきました」

 「全部射爆場に土地を接収されて、……。射爆場では、ジェット機が射撃演習を毎日行なっているんです。そのスクラップ、落ちてくる弾、それを拾って私たちは生活を補ってきたんです。大人から子どもまで弾拾いに射爆場に入り込んで、そのジェット機から落ちてくる弾を目がけて走っていくんです」

 九七年二月から始まった公開審理。米軍による土地取り上げの実体をつぶさに語る地主。戦争の道具としての軍隊に自分の土地を貸すことはできないと信念を語る地主。憲法や国際法にも反する土地取り上げの不法・不当性を訴える弁護士。堂々と論戦を張る地主や弁護士の追及にたじろぎ、「本審理になじみません」と繰り返し、答弁を拒否する政府・防衛施設局の役人。

 米軍用地強制使用事件に関して沖縄で公開審理が行われるのは今回で四回目。しかし、これまでの審理は、米軍にいかに土地を提供するのか、という目的のためにだけ開催されたといっても過言ではない。

 今回は、審理冒頭に兼城会長(残念なことに会長は審理途中で急逝された)が「収用委員会は、公共の利益の増進と私有財産の調整を図るという土地収用法の基本理念の基に、その判断にあたっては、起業者及び土地所有者等いずれの立場にも偏ったものであってはならないことはもちろんのこと、独立した、準司法的な行政委員会として、公正・中立な立場で、実質審理を行ないます」と述べ、これまでの形式的な審理と違うことを感じさせた。そのことを端的に示しているのが延べ134人という意見陳述者の数である。

 怒りを込め、涙をこらえ、あるときはユーモア、風刺をを交え、語られる五十年の歴史。反戦地主、一坪反戦地主、弁護士、そして傍聴席の一体となった闘い。

 これら審理の模様、全証言を余すところなく記録した『くさてぃ』が発行される。その中で我々は、民主国家であるアメリカが沖縄でなしてきた土地取り上げの実体を知るとともに、ある面ではそれを上回る、現在の日本政府の対応を見ることができる。

 人前でほとんど話すことのなかった方々が己の鳩尾から発する言葉の重みを受け止めたい。『くさてぃ』が全国の基地反対闘争を進められている人々の支えとなることを、また同時にこの一冊の証言が、より大きな平和のうねりをつくりだす一歩となることを確信し、推薦する。


発売中

沖縄地区:沖縄軍用地違憲訴訟支援県民共闘会議

その他の地区:沖縄・一坪反戦地主会関東ブロック

 装丁:B5判 290ページ

   頒価:1,000円 送料340円(20冊まで)

編集・発行:沖縄軍用地違憲訴訟支援県民共闘会議


「くさてぃ」とは、「腰当て」が変化した言葉で、頼りになるという意味。反戦地主の闘いは、沖縄の反基地闘争の「くさてぃ」であり、「命どぅ宝」を支えるものである。さらに、反戦地主の闘いは全国の平和を求める民衆に「くさてぃ」されてる。


 出典:仲田博康 『技術と人間』(1998年4月号)

 仲田博康さん、「(株)技術と人間」の許可を受けて掲載。

 『技術と人間』新宿区神楽坂3-6-12 

  電話:03-3260-9321、ファックス:03-3260-9320



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